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第2部
ユニバーサルツーリズムの行方

「30年後の情景PROJECT」
シンポジウムを見聞して

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    文:竹内厚

    今、“ユニバーサルツーリズム”と検索すれば、国や県、大手旅行業者などによる記事がずらずらと表示されます。ユニバーサルツーリズムが意味する“高齢や障害等の有無にかかわらず、すべての人が安心して楽しめる旅行”というのは、当然、実現されるべきことですが、といって内実が伴わないままキャッチフレーズとして使われるだけでは、今の社会にあまた溢れるうわべだけのSDGsなどと違いがありません。

    地域に残る文化財の魅力をつなぐようなユニバーサルツーリズムの実現を目指す「30年後の情景PROJECT」では、次年度から兵庫津、烏原貯水池、湊川の3エリアで、外国人や車椅子ユーザーの方々を交えたプロトタイプのツアーも実施するとのこと。ですが、本プロジェクトを主催するHappy代表の首藤さんは、「インバウンドや観光という言葉は使いたくなかった」「僕みたいな文化的じゃない人間が文化財なんて扱ったらあかんのちゃうかな」と、大きな言葉に巻き込まれることへの警戒感がありあり。
    Happyでは、家族と人生最後の旅行がしたいという終末高齢者らのニーズに応える事業も立ち上げるそうで(名付けて「冥土の土産ツーリズム」)、事業所で多くの人の最期を見送ってきたHappyならではの事業になりそうです。そうやって徹底して現場に即してコトを進めてきた立場からすれば、「30年後の情景PROJECT」が、ユニバーサルツーリズムの流れに乗って観光事業を立ち上げようとしているのだとは決して誤解されたくないという気持ちを強く感じました。

    「30年後の情景PROJECT」が具体的にどう展開していくのかはまだまだこれから議論が始まるようですが、今回のシンポジウムでもツーリズムについての話がいくつかあったので、ここに記録しておきます。
    湊川隧道部部長として湊川隧道を中心としたまち歩きツアーを企画している、産業遺産探検家の前畑温子さん。「私は、参加してくれたお客さんから「湊川隧道よかったわ~」って言われたら失敗だと思ってます。なぜかといえば、文化財としての湊川隧道だけじゃなくて、その地域、湊川の街がすごく大切なんです。なので、「この街めっちゃ面白かったからまた来るわ」って言われてはじめて成功だと思っています」。
    NPO法人J-heritage代表の前畑洋平さんは、旧摩耶観光ホテルの観光ツーリズムを実現した過程を紹介した上で以下のような話を。「僕らがツアーを作って、その場所を管理、保存している方に伝えるときに意識しているのは、ツアーで訪れる人の存在がすごく大事だってこと。場所を守ってきた人とツアーでそこを訪れてめっちゃ喜んでる人がうまく出会えたら感動の交換、価値の変換が起きるんです。そうやってネガティブなイメージでしかなかった廃墟が、もう手放したくないような価値のある場所に変わることだってあるので」。
    東遊園地の拠点整備や、旧湊山小学校でのNATURE STUDIO開設などに関わってきた村上豪英さん。「地域の小学校の跡地とかに関わるなかで感じるのは、地域のシンボリックな場所というのは、地域にあらためて目を向けるきっかけにも、いろんなことの原動力にもなるということ。ただ、だからこそ軽々しくは扱えないものだなとも感じています」。

    全登壇者が集まったシンポジウム第4部では、観覧に訪れていた観客席の久元市長も飛び入りで参加するなど、いろんな意見が飛び交いましたが、共通のキーワードとして見えてきたのは、場の大切さと人と人が交わることの意義。文化財をはじめとする建物やいろんな場があるからこそツアーが生まれるのですが、とはいえ、そうしたスポットをただ巡るだけでは、巡る人にも地域にとってもこぼれ落ちるものが多すぎるという話です。
    たとえば、第2部で漁師の糸谷謙一さんが紹介した兵庫運河は、湊川隧道、烏原貯水池と並ぶ、明治期における神戸の三大土木事業のひとつというのが一般的な説明になりますが、地域の保全団体や小中学校の子どもたちとも協力しながら、廃材をリユースする形で干潟を造成して、アサリを放流したり藻場を整備したりという里海再生の取り組みを続けているという糸谷さんの話を知れば、単なる近代土木遺産ということを超えた何かをその場に感じるでしょうし、スポット巡り以上の展開もいろいろ考えられそうです。

    …と、ここで「30年後の情景PROJECT」が景色や風景などではなく、あえて「情景」という言葉を使っていた理由が見えてきます。人の目、人の動きを通して感じられる場面こそが情景なわけですから。「ただ映像を撮るのではなくて、感情のある映像を撮れと教わってきました。場所にも時間にも必ず人の感情があるものだと思っていますので」という『港に灯がともる』を撮った安達もじりさんもまた、情景という言葉をとても大事にしているそうです。

    ツーリズムを始めたくて、というよりは、地域のために、から始まった本プロジェクト。多くの人と発言が入り交じる第4部の進行も担っていた岩本順平さんが懸命に本プロジェクトを説明するために繰り出した言葉を最後に記しておきます。「このプロジェクトは、たまたま僕らが暮らすエリアに文化財と呼ばれる場所があって、そこが地域のなかでどうなっていけばいいのかを考える中で始まったことで。街への願いとか街への何らかの意志を持ってたからこそ、関わってくださるみなさんとの共通項が生まれた気がしています。補助金に踊らされないよう、僕らのやり方でちゃんと続けていかないとだめですね」。

    ※発言はすべて「30年後の情景PROJECT」の「文化財のある地域の未来を考えるシンポジウム」(2025年1月26日開催)での発言をもとにしています。

    掲載日 : 2025.02.23

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