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第3部
言葉だけでは伝わないもの

「30年後の情景PROJECT」
シンポジウムを見聞して

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    文:竹内厚

    約5時間におよんだ全4部構成のシンポジウムでしたが、事前告知では触れられていなかったプログラムや演出がいくつかありました。シンポジウムと名付けた時点で、どうしたって登壇者の名前と肩書き、プロフィールの紹介、議題となるテーマが前面に出ますし、実際、当日のプログラムもそれに沿って行われたわけですが、演出や進行としてはいわゆるシンポジウム的なものから逸脱したいという気持ちがあふれ出ているようでもありました。そのいくつかの例を挙げてみます。

    各部が始まるごとに完全暗転。そして、第2部冒頭ではコリアンダンサー・趙恵美(チョウ・ヘミ)さんのパフォーマンス、第3部には2人のダンサー、小松菜々子さんと秋田乃梨子さんによるナナコノリコのパフォーマンスを上演。その直前まで大量の言葉と思考が行き交っていた舞台上に、突如差し込まれる非言語パフォーマンス。いわゆるシンポジウムを想定していると面食らうかもしれませんが、この言葉での説明が追いつかない、言い尽くせない感じこそが「30年後の情景PROJECT」らしいと感じられました。ちなみに、どちらのパフォーマンスもシンポジウムの内容に合わせてダンサーが考えた、本シンポジウムのためのオリジナル作品。もしかすると、これらの言語に頼らない身体パフォーマンスこそ、むしろシンポジウムの目指す方向を雄弁に語っていたと感じた人もいるかもしれません。

    これまでの本コラムでも触れたように、多くの人に伝えようとすればするほど、大きな言葉を使わざるをえなくなり、理解が届きやすくなる反面、そういうことでもないんよなという誤解も多く生じてしまいがち。そうした誤解さえも巻き込んでいくのが大きなプロジェクトの醍醐味かもしれませんが。でもだからこそ、言葉によらない領域でのメッセージはとても大事だと思います。
    そもそもシンポジウムの第1部冒頭で、本プロジェクトを主催するHappy代表の首藤義敬さんはこう宣言しました。「僕らの人生初シンポジウムですけど、安心してください、みなさんに関係するプロジェクトにしていきますので。今回のプロジェクトに関わった人全員に役割を作っていくスタイルでやらせてもらいます!」。
    その言葉どおり、全4部の司会に抜擢されたのは、文化庁の採択事業として本プロジェクトを進めるバリューマネジメント株式会社の三谷奈央さん。本来であれば事業のマネジメントを担う裏方ですが、バリューマネジメントからはもうひとり、西本孝之さんも登壇者となって、裏も表もない「全員に役割を作る」スタイルを舞台上でも実現しました。ちなみに、プロの司会者や司会進行に慣れた人ではなく、街の人に進行を任せるというのは、会場となった「ArtTheater dB KOBE」を運営するNPO法人ダンスボックスの企画では頻繁に行われていること。台本を滑らかに読み上げる以上に大事なことがたくさんあるなといつも気付かされるので、司会をプロに任せないこのスタイルはもっと広まってほしいところ。けど、そもそもプロって何でしょうね。

    言語を介さない演出ということでいえば、当日の舞台上には椅子も机もなく、だらっと座るしかない大きなクッションが置いてあるのみ。さらに、舞台周りをいろんな植栽が彩っていました。この植栽、1月という季節もあってか、色鮮やかなというよりは冬景色という印象だったのですが、その答えは第4部に明かされました(あ、伝えるのを忘れてたけどといった感じで)。本プロジェクトの舞台のひとつとなる、烏原立ヶ畑ダムの周辺で押谷衣里子さんが採取してきた植物だそう。海に近い新長田の劇場にいながらにして、実は山手の自然の空気を知らないうちに感知していたという趣向です。このシンポジウムの冒頭からすでにツアーが始まっていた…!?とは言い過ぎでしょうが、気づかぬうちに烏原の景色の一部を観客が目にしていたのは間違いないところ。
    言葉を重ねて議論を積み上げるように、こうした演出やパフォーマンスを積み重ねることで伝わる空気やムードも確かにあるはずで、この言葉にならないコミュニケーションの多様さも新長田の強みだと思います。

    そして、第4部の最後の最後に挨拶を終えて、「不完全な企画者ですけど、またみなさんにいろいろ教えてもらおうと思ってます。本当にありがとうございました。最後に昭和な感じで一本締めでもしましょうか」と、ごく自然な流れで観客全員をその場に立たせた首藤さん。そこで不意に音楽がスタート、舞台上にダンサーたちが流れこんできて、舞台上の登壇者も観客もみんなを巻き込んでのダンス(新長田で生まれたオリジナルダンス「踊るまち新長田」)というハプニングのような流れがエンディングのどっきり演出。長時間のシンポジウムを聞き続けて、最後に突然踊りましょうと言われてもなかなかノレないところだと思いますが、いわゆるシンポジウムの流れとか、一般的な締めとかを平然と裏切れるところが首藤さんの、そして新長田の強み。「30年後の情景PROJECT」は、いわゆる文化財保存プロジェクトとも、いわゆるユニーバサルツーリズムにも収まりきらないという覚悟が伝わる1日でした。

    掲載日 : 2025.02.24

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