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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

下町日記

尻池宏典

十一月十六日(火)

2021.12.03

風も無く穏やかな朝、すっかり夜明けが遅くなり、明るくなるのも午前6時20分頃。
神戸沖、大阪湾の中心部辺りはこの時期になると、約2.5キロ四方の灯浮標で仕切られた海域に海苔の養殖網が張り巡らされる、今日はその近くでシラス漁。

季節的に神戸の陸に近い海域は水温の低下もあり、シラスは比較的沖へ沖へと離れていく。夜明け前の暗い時間帯は水深25メートル辺りに広く散らばったシラスの反応がある、夜明けと共に水面近くに上昇し、水族館で見るイワシの群れの様になり魚群探知機やソナーの画面に赤く強い反応が出る。そのシラスの群れを探知し2隻の網を曳く船に指示を出すのが私の役割。その日の天候、風、潮の流れで、シラスがどう動くのか予想する。正に経験と感がものを言う。

漁師歴24年、なんとなく理解できてきた気がするが答えは無いような気がする。
おそらく70歳になって漁に出ていても自分はまだまだと考えている事だろう。気候変動、潮流の変化など様々な環境変化で少し前までの常識が通用しなくなる。24年間でそれは実感している。固定概念にとらわれず常に変化に気付き対応できるようにする事が漁師として生き抜くための最善の術だと。しかし、それだけでは漁師として、一家の主人として生き残れない時代が来つつある事を漁師の勘が反応している。
海の中だけでなく陸の上でも時代の変化に対応していかないと漁師は生き残れない。

明けない夜はない、新たな夜明けは必ず来る!そんな夜明け前を感じる…これもまた漁師の勘である。

登場人物

尻池宏典|尻池水産代表・駒ヶ林浦漁業会 漁師

神戸市長田区駒ヶ林にて、100年以上続く漁師の家系に生まれ、高校卒業後漁師になり24年。主に船曵網漁(しらす漁、いかなご漁)を営む。近頃は、神戸の海と魚を知ってもらうため仲間と共にKOBE PAIR TRAWLINGSとして活動中。神戸市漁業協同組合、駒ヶ林浦漁業会所属。

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