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shitamachi NUDIE vol.28

駒ケ林漁業業界|尻池宏典さんにまつわる4つのこと

漁師の未来は、地域とともにある

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    1868年の開港以来、海外の客船・商船が訪れる国際的な港街として発展してきた神戸。いまや当たり前の風景になり過ぎて豪華客船を見ても驚かない神戸市民でも、兵庫区〜垂水区にかけて漁港が点在し、毎日のように漁が行われ、競りまで開催されていると知ると驚く人もいるだろう(僕もそのひとりだった)。駒ヶ林駅から海側へ歩いて5分、まるで海を隠すように伸びる防潮堤の切れ間から漁船が停泊する小さな漁港へ。100年以上前から神戸の海で漁を続ける漁師の家系で、駒ヶ林浦漁業会に所属する尻池宏典さんにお話を伺いました。

    文:則直建都 写真:岩本順平

     

    神戸の海は豊かな漁場

    この辺りは、昔からイワシ・アジ・カレイ・エビ・タコ・チヌ(黒鯛)など何でも獲れる豊かな海です。特にチヌがよく獲れて、駒ヶ林中学校の校歌にもなっているくらい。一般的にこの辺りの名産とされるイカナゴやシラスは、およそ60年ほど前にはじまった『船曳網(ふなびきあみ)漁』により本格的に獲れはじめた魚で、 比較的新しい種類と言えるかもしれません。この漁法は3船1組で行うもので2船の間に張った網で魚を捕らえ、残りの1船が獲れた魚を港へ運ぶもの。季節によって漁法を変えていて、底引き漁・刺網漁などもおこないます。けれど、以前から減りはじめていたイカナゴの収穫量が2018年にガクッと落ち込んでしまい、通常なら1〜2ヶ月ほど行われる漁がわずか3日で終了。今後はもう獲れないかもしれません。乱獲が原因だとも言われているけれど、僕は海がキレイになり過ぎたことが大きな原因のひとつだと考えています。僕が小さい頃は、この辺りの海はもっと濁っていてプランクトンも豊富でした。小さい魚の餌になるプランクトンが多くなれば海に栄養が増えて、小さな魚を餌にしている大きな魚もやってきます。僕たち漁師は10年ほど前からそのことを主張してきましたが、なかなか改善されず。昨今の不漁をうけてようやく兵庫県の瀬戸内海側で排水基準が緩和され、海の栄養になる成分(窒素)をこれまでの1.5〜2倍は排出する水質目標が掲げられました。

     

    父の姿に憧れて継業

    神戸は今では旅客船や貨物船が行き交う商港のまちですが、元々は漁が盛んな漁港のまちだったと聞きます。当時は三宮より東側にも漁港があり、魚がよく獲れたそうです。東灘区の「魚崎」などは地名からもそのことがよく分かりますよね。うちは分かるだけで約100年前から駒ヶ林で漁をしている漁師の一家で、僕で4〜5代目。漁師なんてしたくない!なんてことはなく、父の姿に憧れて自然と継業しましたが、阪神・淡路大震災の影響もあります。このあたりは壊滅的な被害を受けましたが、幸い僕たちの家族は無事でした。その時に、家族・家業のことを強く意識し、継業の意思が強くなった気がします。漁師に限らず、家業を続けたくても続けられない人もたくさんいましたから。現在、駒ヶ林の漁師は50人もいません。僕が若手の頃に比べると半分くらいでしょうか。当時は60代の漁師が多かったけれど、今はその年代がほとんどいなくて80代から下はいきなり自分たちの40代になる。24年間、漁師をしてきて、いつの間にか僕もこの辺りの漁師を引っ張っていくような年代になってきています。漁師の年齢としてはまだまだ若手かもしれませんが、「駒ヶ林の漁師を自分が引っ張っていかないと」という思いから、最近は漁師と地域とのコミュニケーションを増やすような取り組みをはじめました。

     

    まちの中に地魚を食べられる場を増やしたい


    そのうちのひとつが、「ふたば学舎(旧双葉小学校)」で月に1度開催している「子ども食堂」です。漁師の数が減っていくなかで、これからは漁だけをしていく時代ではないと思っています。駒ヶ林で魚が獲れていることを知っている人が少ないし、目の前の海で獲れた魚を食べられるお店や場所もほとんどない。このような状況では、自分たちは漁師が長田エリアにいることさえ知ってもらえない。そういった問題の解決策のひとつとして、まずは地魚を食べられる場所を増やしたいと考えて、「こども食堂」のようなアクションを起こしています。他にも、昨年は近所のホームセンター「アグロガーデン」でフィッシャーマンズマーケットを開催しました。いま思うと、小学校のPTA会長をはじめ、様々な地域の取り組みに参加してきたことが、今の活動にすごく活きてます。現在は、小学校の施設開放委員会会長、青少年育成協議会の駒ヶ林支部長、ながたっ子祭実行委員会会長、それに中学校の同窓会会長もしています(笑)。こうやって地元の取り組みに参加して広がった人の輪のおかげで、4年前から「こども食堂」を開催できるようになり、自分たちが獲った海の幸を提供し、子どもをはじめ高齢者まで地域の幅広い世代の人たちに地魚を食べてもらえる機会が増えたんです。

     

    駒ヶ林産のしらすを給食で食べてもらいたい

    もともと地域活動が好きな性格ですが、苦労することも多いです。でも、それが地域の未来、ひいては漁師の未来にもつながると信じて活動しています。子ども食堂やフィッシャーマンズマーケットで、子どもや地域のみなさんが目の前の海で獲れた魚を食べれば、駒ヶ林には漁業があることと知ってもらえる。さらにそれがおいしければ、地元住民としてうれしく誇らしく思ってもらえるはずです。さらに、地産の魚を選ぶ人が増えて、売り場が増えれば、少なくなった漁師も増える。駒ヶ林をはじめ、神戸では料亭で出されるような高値のいい魚が獲れているのに、ほとんどは東京・京都・金沢など大きな消費地に流通しているのが現状です。だから魚屋も少なくて、地元で獲れたものをその地域でほとんど食べられないのは、本当にもったいないと思います。こういった現状を少しでも変えるために、海以外でもできることをしています。現在の目標は、給食に地産のしらすを取り入れてもらうことです。しらすは丸ごと食べられて栄養豊富で、子ども達にも人気なので給食にぴったりなんですよ。自分たちの獲った魚が地元で親しまれ、地域の自慢になれば、僕たち漁師にとってはこれ以上ない喜びです。駒ヶ林魚市場では子ども向けの漁業体験や、競りの見学をおこなっている日もあるので、ぜひ足を運んでいただけるとうれしいです。

    駒ヶ林浦漁業会|漁師
    尻池宏典 さん

    神戸市長田区出身。100年以上続く漁師の家系に生まれ、阪神淡路大震災(1995)をきっかけに継業を決意する。18歳から父親に漁を教えてもらい、2019年現在で漁師歴24年。神戸の漁業を守り育てるために、獲れた魚を食べられる場所を増やす地域活動に率先して取り組んでいる。

    掲載日 : 2020.05.29

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