はやめのお昼を食べて作業場に向かう。
ようやく届いた生地で依頼されている羽織の制作に取りかかる。依頼者からのオーダーは特になく、アレンジしてくれても良いとのこと。
柳谷縫務店をはじめてからの依頼は基本的に知り合いの方々から。しかも「いい感じにして」というざっくりとしたお願いで、お直しやリメイクするモノたちを委ねてくれる。感覚が信頼されているみたいで素直に嬉しい。
縫製屋をはじめた当初は「これって誰かのためになるのかな?」と考えたりすることが多くて毎日不安だった。でもある日、お子さんの柔道着の丈つめに困っているお母さんから依頼がきて、完成品を渡すととても感謝された。
なんだか誇らしくて、いつもより胸を張って帰路についたのを覚えている。
学校で服飾を学んでいたわけでもなく、アパレル業界で働いていたわけでもなくて、知識のほとんどは裁縫が得意な母から学んだ。昔から手先は器用でモノを作るのは好きだったし、家政学科に行くことも考えた。でも服を作りたいとも思ってなかったので、製図が楽しそうな建築学科に進学した。
建築を選択して結果的に良かったと思う。まさか自分が裁縫で仕事をはじめるなんて思ってもなかったけど、建築業界御用達?のJWCADが使えるので型紙はおこせちゃうし、カタチを作ること・直すことにも関心がある。なにより建築をやっていて出会った人たちが今につながっているから。
「柳谷縫務店」の名前を一緒に考えてくれて、事務所を間借りさせてくれている角野さんにも、建築を学んでいなかったら出会えていなかったと思う。角野さんを紹介してくれた“ちゅうた”は柳谷縫務店の什器をつくってくれた大学時代の戦友(笑)でもある。
うん。こう考えると建築をやっていてほんとうに良かったし、新長田に出会えてほんとうに良かったナ。と思った。そんな1日でした。
柳谷菜穂
1993年生まれ。神戸市在住。建築士。丹波篠山市の社寺建築を扱う工務店に3年間勤務した後、一級建築士事務所こと・デザインにて地域計画やまちづくりを学ぶ。「手のひらにおさまる仕事がしたい」と思ったことをきっかけに特技の裁縫を生かした「柳谷縫務店」を開業。神戸市長田区に作業場を構え、「縫う」をテーマにまちの困りごとを解決している。
掲載日 : 2021.07.06