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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

Shitamachibudie

vol.52

MATSUMOTO COFFEE 代表取締役社長|松本真悟さんにまつわる4つのこと

兵庫区から広がる、コーヒーの輪

2023.02.17

1993年の創業以来、兵庫区で生豆・焙煎豆・コーヒー関連機器の卸売業を営んできた「MATSUMOTO COFFEE」。2018年、兵庫駅南公園近くに倉庫兼店舗の機能を持つ「MATSUMOTO COFFEE warehouse」を開きました。これまで会社のことを知らなかった地域の人々を迎え入れ、世界の産地で買い付けてきた豆を焙煎し、販売しています。ここ数年は、切戸町の本社・焙煎所で同業者向けに機器の実演を行い、開業相談を受けているとの噂を聞きつけ、代表取締役社長の松本真悟さんにお話を伺ってきました。

文:柿本康治 写真:岩本順平

 

地域の声が聞ける場所

MATSUMOTO COFFEEの原点で、メインの仕事でもあるのが生豆の卸売です。会社は30年前に父が創業して、JR和田岬駅近くの笠松商店街の一角で卸売業を始めました。父はもともと大阪の焙煎業者として働いていて、母は三宮で喫茶店を経営していたので、コーヒーの一家ですね。両親が店を開いたのは、僕が5歳のとき。僕もコーヒー屋になりたいという夢を自然と持つようになって。UCCグループで東京都内を中心に勤務し、将来は地元に帰りたいなと考えたら、実家に戻る選択肢しか頭に浮かびませんでした。2013年に入社して気づいたのは、会社の存在がまちの人たちに知られていないこと。それで、地域の人と交流できる場所として、2018年にMATSUMOTO COFFEE warehouse(以下、warehouse)という倉庫兼店舗を兵庫区の駅南通にオープンしました。2020年には父から引き継いで代表になって、イベントへの参加は兵庫区内に絞るようにしました。神戸市の事業である「食べるをつくる」は“食べること”と“つくること”を共有するコミュニティで、実行委員会のメンバーとして活動しています。「兵庫運河を美しくする会」にも参加していて、まずはこの地域でコミュニケーションを取っていきたいな、と。5年ほどそうした活動を続けてきて、ようやく名前を覚えてもらっている感覚があります。

 

近い距離感だからこそ、できること

warehouseの設計は、徒歩圏内に事務所を構えるウズラボの竹内正明さんに依頼しました。店のイメージを伝えると、兵庫区の工房で木材のコーディネートをしているSHARE WOODSの山崎正夫さんを紹介してくれて、カウンター用の木材などを提案してもらって。そこからさらに紹介を受けて、建具は長田区の前田木材工芸、床材は兵庫区の三栄にお願いして。人が人をつなぐ狭いコミュニティのなかで、モノや素材がスムーズに手に入る。いま座っているイスとこのテーブルは、長田区に工場を持つMOU Trateknik&Designの幸玉次郎さんにお願いしました。幸玉さんは以前に少しお会いしたことがあって、シタマチコウベの記事を読んでデザインやものづくりへの姿勢がかっこいいなと思い、相談しました。イスの座り心地も細かく調整してくれて、「高さが合わなかったら、すぐ削りに行きます」と。地域の近い距離感だからこそできる場所づくりが、僕にとっては新鮮でした。既製品を当てはめるような空間設計ではなく、空間や人に合わせてデザインしてもらえば、よりいいものが出来上がる。コーヒーもそうですが、地域でのものづくりにおいて重要なのは“人”の存在です。人が手を取り合えば、自分ひとりの想像を超えた価値を生み出して、共有することができる。地域ってすごいなって、最近感じます。

 

生産者の個性を届けるために

生豆は、海外の生産者に直接会いに行って買い付けをしています。例年12月から3月にかけて中米・アフリカ・アジア・南米を巡ります。現地に精通したコーディネーターが薦める農園を見に行くのですが、たとえ同じ地域でも生産者によってコーヒーの味はかなり違います。しかも、同じ農園を営む家族のなかでも区画が分かれていて、安定していいコーヒーをつくる長男の豆だけを買うパターンもある。僕らのお客さんには小規模の事業者が多いので、少量で高品質の豆を選ぶようにしています。お客さんそれぞれが求める味を思い浮かべながら、それらに見合った生産者の個性を想いとともに届ける仕事です。産地に行く目的は買い付けではあるのですが、フィードバックの機会でもあって。前年の豆がどうだったか、お客さんの評価がどうだったか、どこでどのようにして飲まれているか。きちんと伝えることで、生産のモチベーションをキープしてもらう。日本に来た生産者を連れてお客さんの店をまわったり、お客さんが買い付けの旅に同行してフィードバックしたりすることも。そうするとお互いの理解が深まって、身近な存在に思えてきます。距離が縮まれば、コーヒーに向き合う熱量が上がって、エンドユーザーが口にする一杯のクオリティが高まる。買い付けた豆をみんなで使って、共有して、コーヒーの輪を広げていこうという意識で届けています。

 

仲間が増えれば、文化が生まれる

今後は、神戸のコーヒー文化の成熟により関わっていきたいです。昔の神戸は“コーヒーの街”と呼ばれるほど、喫茶店が街中にあふれていて、飲む習慣が根づいていました。時代とともに喫茶店も焙煎業者も減ってしまったけど、今の10~30代の若い人たちは家で豆を挽いて飲むよりも、手軽に外で飲むほうが多い。そうなると、僕らがやっているような家飲み用の豆の需要は下火になってくるはずで、今の時代とまちに合ったカルチャーをつくっていかないといけない。だからこそ、僕らは「神戸でコーヒー屋になりたい!」という人を応援したいんです。最近は、warehouseで開業の相談を受けることが増えてきました。たとえば、須磨の明暮焙煎所さんは一緒に物件を見に行って、ウズラボの竹内さんを紹介して設計を担当してもらい、原料・焙煎・カッピングについての知識や技術を伝えました。ライバルが増えるのでは、と心配されることもあるのですが、むしろ仲間が増えると考えています。なぜなら、同じ原料を使っても、焙煎する人によって味が変わるから。生産者と焙煎者の個性がかけ合わされば、コーヒーの多様性はいくらでも広がるんです。カフェも増えるといいですね。味もそうだけど、店や提供する人の雰囲気で飲む人の感じ方も違います。小さい個性が集まれば、大手に負けないくらいのコーヒーカルチャーが、まちに生まれるはずです。

 

MATSUMOTO COFFEE
松本真悟

世界の産地から選りすぐったスペシャルティコーヒーを扱う卸売会社で、2020年より代表取締役社長を務める。生産者を直接訪ねて、同じ価値観を共有する農園主・サプライヤーから生豆を買い付け、日本全国に生豆や焙煎豆を届けている。同業者に向けて、生豆の選定・焙煎・抽出をトータルサポート。2016年にオープンした兵庫区のMATSUMOTO COFFEE warehouseでは、地域の人たちに向けて焙煎豆・コーヒー関連機器の販売、開業相談の対応も行なっている。

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