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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

Shitamachibudie

vol.16

家具職人|幸玉次郎さんにまつわる4つのこと

神戸洋家具の伝統ある技術を受け継ぎ拡げること

2018.10.25

苅藻駅から徒歩1分、新湊川と高松線が交差する大通り沿いにアトリエを構える家具職人の幸玉次郎さん。アトリエのある苅藻駅周辺は、かつて大規模な貯木場があり、古くから木工関係の工場が多く集まる地域です。幸玉さんは、神戸の地場産業である洋家具作りの伝統的な技術を受け継ぎ、木の持つ個性や表情を活かした家具のデザインと製作をおこなっています。

文:山口葉亜奈 写真:岩本順平

 

神戸のものづくり拠点に構えたアトリエ

アトリエのあるこのあたりは、昔からものづくりを生業とする職人が多く集まるエリア。大通りに面していて、工場や商店、住宅が混在しているこの場所は僕にぴったりでした。家具作りは、騒音や大きな荷物の搬入出の問題から、ロケーションの良い場所や住宅地にアトリエを構えるのは難しいんです。夜まで仕事をしようにもなかなか叶わなくて。ここに拠点を移す前は、長田区真野町の路地中にある昔ながらの木工所跡をアトリエとして使っていました。でも3年前に取り壊すことが決まり、新たな拠点を探すためにこの辺りをウロウロしていた時に、たまたまこの場所を見つけたんです。味のある門扉に一目惚れして。戦前からある建物で、長く使われていなかったため、手を入れないといけない箇所も多かったのですが、素材としてすごく魅力的だったので即決しました。ここに移ってからは、西区の自宅からの通勤も楽しみの一つになっています。時々、バイクで下町特有の入り組んだ路地や港をのんびり走るんですよ。バイクだと、車では味わえないようなこの町の独特の空気感とかも感じとれるので、良い気分転換になっています。

 

仕事の根底に息づく職人としての意識

家具の仕事を始めるまでは5年ほどサラリーマンをしていました。もともと手仕事に憧れがあり、インテリアにも興味があったので、いつかは家具作りに携わりたいと思っていて。「ものづくり職人大学」(2018年閉校)という神戸の地場産業の後継者を育成する学校ができたタイミングだったので、思い切って入学しました。現役を引退した職人が講師になり、実践の中で学んでいくのですが、僕が通っていた頃は学校の方針も授業のやり方もまだ試行錯誤しながら運営していたので、デザインから現場作業まであらゆる工程のやりたいことをやらせてもらえました。神戸は洋家具の発祥地と言われていて、昔から受け継がれてきた技術があるので、ベテランの職人から直接、技術や知識を教われたことは貴重な経験ですね。後継者不足から、どうしても失われつつある職人の技術は、だれかが受け継いでいかないといけない。だから僕の仕事の根底にはデザインをする時も常に職人目線が入っているし、受け継いだノウハウを活かし、機械だけでは出せない手仕事の繊細さが垣間見えるデザインを心がけています。職人の技術が持つ可能性を、僕の作る家具で提示していけたら嬉しいです。

 

木が持つ可能性を引き出す職人の技術

屋号の「mou」とは、フランス語で“柔らかい”を意味します。実は、家具をつくる際に意識しているポイントで。家具は決してインテリアの主役ではないと考えていて、空間に柔らかく溶け込むような家具を作りたいと思って名付けました。僕が作る家具は基本的にオーダーメイドなので、お客さんの人柄や家の雰囲気を大事にしてデザインしています。木にもこだわっていて、人工的なものではなく、無垢材を使用しています。木を“見分ける目”は、やはり神戸の職人から受け継いだもの。一見同じように見える木でも、種類や使い方を変え、適材適所で使ってあげると全然違う表情が見えるんですよ。僕は木を扱うとき、デザインがあってはじめて見えてくる木の可能性を汲み取るようにしています。例えば、家具に使われているディティールを活用して鏡などの別のインテリアを作ったり、家具を作る際に出る残材からクリップやハンガーなどの雑貨やアクセサリーを作ったり。そんな風にして、空間の中で木が担える要素や可能性を広げていきたいですね。その意味でもやっぱり残材は重要で、どうせ捨てるのなら何か違う形で価値を生み出していけたら良いなと思っています。

 

ものづくりを生業とする仲間がいるから生まれるもの

このエリアは、ものづくりの拠点という意味で神戸の下支えを担っている気がします。長田は靴産業が活発で、僕の仕事は直接靴の製造とは関わりないけれど、靴に入れるシューキーパーを作っていたり。靴産業の全ての工程がこのエリアでまかなわれているんです。職種は違えど、ものづくりを生業とする仲間たちが集まっているので、分業し、自分たちの能力を発揮しながら一つのものを生み出していく。このエリアにいる職人たちは、いわばチームのような関係です。それぞれがマルチタスクで、一人で全部こなすこともできるのですが、それ以上にお互いをリスペクトしているからこそ、持ち寄って意見を聞きいれながら作っていますね。最近はこのエリアで芸術祭が行われたり、デザイナーなどのクリエイターが移住してきたり、少しずつ盛り上がっているように感じます。でもまだまだ空き家や空き工場がたくさんある状況なので、クリエイターたちの拠点になっていくような仕組みや情報出しができたら良いですね。僕もこれまでは工場にこもって仕事をしがちだったので、2階で家具づくりワークショップをするとか、もう少しアトリエをオープンにしていきたいと思っています。

MOU Trateknik&Design | 家具職人
幸玉次郎さん

MOU Trateknik&Design代表。ものづくり職人大学で神戸洋家具の技術を学び、26歳で独立。長田区苅藻通に工場を構え、神戸洋家具の伝統ある技術やノウハウを活かし、オーダー家具を主とした木工品のデザイン、製造を行う。

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