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vol.34

2020.08.21

保育士起業家┃小笠原舞さんにまつわる4つのこと

教育・福祉・文化の境界線がないからこそ、子育ての未来がある。

「新長田には、子どもたちと高齢者、外国人がお互いを区別せずに暮らす感覚が染み付いてます。なぜそうなのかは、住民に聞いてもなかなか説明できない。だから、自分がここで子育てしながら『新長田の感覚』を探求してるんです」 そう確信的に語るのが今回の登場人物、保育士起業家の小笠原舞さん。全国各地を飛び回りながら、子どもたちがその子らしく育つ環境づくり・子育てしやすい社会づくりに奮闘している「合同会社こどもみらい探求社」の共同代表、そして、全国規模の子育てコミュニティー「asobi基地」の代表でもあり、2歳の子を持つひとりの母でもある。そんな彼女に、新長田に移住した経緯と2年半ほど住んで「今」感じているこの街の魅力・可能性について伺いました。

文:則直建都 写真:岩本順平

 

 

違いが自然に溶け込む場所。子育てするならここだ!

私が神戸に住み始めたのは、夫との出会いがきっかけでした。東京にいた2013年に、友人とふたりで「合同会社こどもみらい探求社」を立ち上げたのですが、その友人と出かけた旅行先で夫と出会ったんです。彼は神戸に住んでいたのでどちらに住もうかと話し合いましたが、暮らしを楽しく感じられる神戸に惹かれて家を探しました。移住して少し経った頃に、夫の繋がりから新長田で暮らす人たちと知り合ったんです。当時は神戸の拠点を兵庫区に置いていて、結婚も妊娠もしていませんでした。新長田を訪れてみると、子どもと外国人と高齢者が「教育」や「福祉」などの境界線で区切られることなく、自然体で日常的に繋がりあってる様子を見てとても驚いたんです。例えば、はっぴーの家ろっけん(介護付きシェアハウス)のように、学校帰りの子どもたちの遊び場になっていて、高齢者と子どもが家族でなくても自然と関わり合っていたりとか。外国人と日本人の子どもが同じ学校に通い、路地裏や商店街で一緒に遊んでるとか。こういった新長田の人たちの関わり合い方がとても衝撃的で、新鮮で心地よくもあって、「今まで探し求めてきた場所はここかもしれない。子育てするならここだ!」と思い、2017年11月に引っ越してきました。

 

 

 

win-winの関係性が自然と生まれる街

(写真:阪下滉成)

新長田に引っ越してきた時はまだお腹にいた楽汰(らくた)も、2才になりました。息子と一緒に散歩しているだけで、お腹にいる時から可愛がってくれた近所の家族、子どもたち、それに街の人まで声を掛けてくれるので、知り合いがすごく増えるんです。果物屋のおばちゃんや鰻屋のおじさんとは特に仲良しで、もう少し大きくなったら呼び込みのお手伝いをさせてもらう約束をしました(笑) こうやって、街の人との関係性を築くことは、私自身の安心感につながっています。例えば、彼が大きくなってちょっとヤンチャしたとしても、街の人たちが一緒に見守ってくれたり、時には怒ってくれるんだろうなと。息子がまだ生後半年の時には、どうしても外に出たくなって入った近所の喫茶店で、「子連れでもいいですか?」と私が尋ねると「当たり前やん。私が抱っこしとくから、あんたはゆっくり食べなさい」とお店のおばちゃんが言ってくれて…あの時の本当に感動しました。赤ちゃんを抱っこしたい人と、ご飯をゆっくり食べたかった私。そんなお互いにとっていいことを自然体で交換できるところが、「新長田の感覚」なんだと思います。私自身に余裕が生まれることで、子どもにも夫にも、周りの人たちにも優しくできているので、街の方々には心から感謝しています。

 

 

 

子育て視点から街づくりを考える

新長田で暮らし始めて2年半くらい経って、街への関わり方が少しずつ変わってきました。一番大きな変化は、自分もまちづくりに関わりたいと考えはじめたこと。今年6月に長田区役所内にオープンした「おやこふらっとひろば ながた」では、オープン前のコンセプトづくりや、その後の運営にも関わらせていただいたりして、具体的な取り組みも増えてきてます。東京にいた頃は自分たちで街を作れるという感覚から程遠く、街づくりに興味さえなかったので自分でも驚きですけど、私が今までしてきたことの全てがこの場に詰めこめたな〜と感じています。子どもたちの未来を広げるはずの場所なのにどこか閉塞的な保育現場、子育て世代への支援策は増えてるはずなのに支援が届いていない親子もいる。こういった課題に様々な角度から切り込んできた経験と、自分自身の子育てを通して見つけた「新長田の感覚」の両方を、この場所で地域の親子と共有していきたいんです。そのための仕掛けのひとつとして、「おやこふらっとひろば ながた」では多文化に自然に触れられる絵本や玩具を置くことから始めました。今後は、いろんな個性・違いが混じり合うイベントも積極的に開催していきたいとメンバーと話しています。「多文化共生」というこの街の特徴をこの場所で表現しながら、混じり合うことの面白さを親子に体感してもらいたいですね。

 

 

 

「生きる力」が実践で身につく街

(写真:阪下滉成)

多文化共生だけでなく、「教育」と「福祉」まで自然と混ざり合ってる新長田はすごく貴重な街だと思います。教育と福祉ってそれぞれ別物として扱われていますが、両方を見てきた私はこの街を見て「繋がっているんだ!」と直感で感じました。最近は、高齢者施設と保育園を併設して教育・福祉の融合を試みる例も増えてきましたが、そこからさらに「混ざり合う」環境を作るのがなかなか難しいと聞いたことがあります。でも、新長田ではすでに自然と混ざり合っている。だからこそ、大人もこどもも自分と人の「違い」に対して寛容で、人との関係性を柔軟に作れている気がしています。例えば、この街の子たちは学校帰りに私の家に来て息子と遊んでくれたり、夕飯の支度を手伝ってくれたりするんです。その子たちとはたまたま飲食店で隣の席になってから、街で見かけると話をするようになり、気付いたら家に遊びに来るようになって(笑) 子どもたちが楽汰の相手をしてくれると私は仕事や家事をできるし、その子たちは家ではできないことができて嬉しいと話してくれました。こういったwin-winの関係を自然体で築ける新長田の子どもたちを見てると、この子たちは「どこでも生きていけるだろな〜」って思うんです。だから、今は自分自身の子育てを通して、子どもたちが「新長田の子たち」になる秘密を探ってる実験の最中でもあります。どこで、誰と、どんな状況でも、人と協力し合えるという「生きる力」を、自然体で実践しながら身につけていく。いつかその体系を解明して、ひとつのモデルケースとして他の街にも役立てていきたいなと考えてます。

 

 

保育士|起業家

小笠原舞

1984年生まれ。学生時代に「資格を持っていると住む場所に縛られない」と考えて保育士免許を修得。大学卒業後は空間設計事務所など数社を経て、2011年にNPO法人「オトナノセナカ」の立ち上げに関わる。翌2012年に保育士として保育園「まちの保育園」の立ち上げに参加。同年7月には子育て支援コミュニティー「asobi基地」を設立。2013年に「オトナノセナカ」代表・小竹めぐみとふたりで「こどもみらい探究社」を設立し共同代表を務める。2017年11月に自身の子育てのために新長田へ移住。

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