筆者:糸谷謙一(漁師/兵庫漁業協同組合 理事)
編集:岩本順平(DOR)
イラスト:田岡 和也
「イカナゴがいなくなるわけがない」
25年前に、神戸で3代、祖父が住んでいた四国では何代続いていたかわからないほどずっと漁師を営んできた家で育ち、漁師になりたいと思った自分が言っていた一言です。
毎年、春になると報道などでよく聞くと思いますが、神戸の春の風物詩だった「イカナゴ漁」はほとんどできていません。今年(2024年)は大阪湾で初の禁漁となりました。25年前、いくらでも獲れていたいかなごが、漁師を目指すきっかけだったイカナゴが、海から消えています。
こんな想像できなかった状況にある神戸の漁業のこと、あまり知られていない神戸の漁師のことを全3回の連載で知っていただきたいと思います。神戸の漁業の状況やわたしたち漁師が取り組んでいること、そして、未来に向けた挑戦を知っていただき、暮らしに遠いようで近い、漁業に目を向けて、食卓で魚を味わっていただければ嬉しいです。
今回のテーマは「神戸の漁業の今」。
神戸の漁業の歴史は古く、江戸時代などの資料にも残っていて、豊かな漁場といわれてきました。実際、瀬戸内海の潮流と六甲山から流れてくる地下水がぶつかる和田岬は、プランクトンが発生し、豊かな漁場で自分たちも普段から漁をしている場所です。
神戸に漁師がいるの?と言われることが多いのですが、実は今でも200人以上の漁師が活動しています。主にタコやエビ、ヒラメ、カレイなどを獲る底びき漁、イカナゴやシラスを獲る船びき漁、地先の海でおこなっている海苔養殖、その他にも刺し網漁やかご漁、つぼ漁、一本釣りなど様々な漁業が営まれています。とはいえ、イカナゴ漁をはじめ、昔獲れていた魚が獲れなくなっていること、魚を食べる習慣が失われていっていることなど、漁業経営は厳しくなってきています。
そんな中、漁業を次の時代に受け継いでいくために、2種類の活動を積み重ねています。1つ目は環境保護活動、2つ目は魚食普及活動です。1つ目の環境保護活動は、兵庫漁業協同組合が拠点としている兵庫運河を中心に、水質改善の取り組みなどを地域の方々と協力しながら実践しています。運河のハタケといった農家さんともコラボするプロジェクトなども実施し、海から陸を考えるきっかけを作っています。また、浜山小学校と一緒に干潟を活用した環境学習を実施してきました。詳しくは第3回目のコラムで書く予定ですのでお楽しみに。
2つ目の魚食普及活動ですが、2011年に日本人の肉食と魚食のバランスが入れ替わったことは皆さん知っていますか?意外ですが約10年前までは、みなさんの食卓にはお肉よりもお魚が多く登場していました。そこから、肉のバランスがどんどん増えていき、たぶん、皆さんの食卓に魚が登場するのは多くても週に1度といった頻度ではないでしょうか。
食文化が変わっていっていることは仕方ないこともありますが、僕たちは自分たちが獲ってきた魚をもっと地域の方に味わっていただきたいし、魚のおいしさに気づいていただきたいと思っています。そのために、兵庫漁業協同組合として、年に数回、地域の方々に魚を購入していただけるイベントを企画していたり、他地区の漁師と一緒にイベント出店などをおこないながら、魚に触れて、たべてみる機会を増やしていっています。その結果、自分たちの漁業が次世代にも残っていくことを願っています。
こういった取り組みを実践していきながら、消費者と生産者が交流し、失った資源を回復させ、持続な可能な漁業を営んでいくことを目指しています。
次回の記事では、漁師たちが実際に取り組んでいる「未来に向けた漁業」を書いていきますので、ぜひご覧ください。
糸谷謙一|兵庫漁業共同組合 理事・漁師
1981年生まれ。漁師の家系に生まれ、大学を中退し漁業の世界に飛び込む。主に船曳網漁に従事しながら、兵庫運河にて干潟や藻場の再生に取り組む。兵庫運河の自然を再生するプロジェクトや兵庫運河Sea Change Projectにて活動中。
田岡和也
1983年、香川県生まれ。現在は神戸市で暮らし、六甲ミーツアートや下町芸術祭などのイベントに多数出展。駅や図書館、銭湯などで個展を開催するなど、展覧会、ワークショップ、壁画、ライブペイントと、活躍の場を広げている。
https://taokakazuya.jimdofree.com/
掲載日 : 2024.07.01