角打ち特集第2弾は兵庫編。角打ち(かくうち)とは、酒屋で購入したお酒をその場で愉しむ呑みスタイルのこと。かつては、夜勤明けの工場労働者が仕事後の一杯を求める場所として朝から営業している角打ちが重宝されていました。現在は手頃な価格で気軽にお酒を愉しめることから、由来を超えて若者や女性たちからも注目が集まっています。今回の巡り人は、長田区編に引き続きサービス付き高齢者向け住宅はっぴーの家で介護士として働くA2Cさん。A2Cさんには、一夜で巡った兵庫区の選りすぐりの角打ち5店と一期一会のエピソードをご紹介いただきました。
また、角打ちの語源や愉しみ方、長田区のおすすめ角打ち店を知りたい方はこちらもぜひご覧ください。
▶︎下町の酒屋で気軽に立ち飲み文化を味わおう!おすすめの角打ち6選【長田編】
Table of Contents
創業100年以上、大正レトロな趣を随所に感じる「木下酒店」
木下酒店
地下鉄「和田岬」駅から徒歩1分、和田宮神社の鳥居から伸びる一本道に木下酒店はあります。1921年に開かれた創業102年の老舗の酒屋で、3台目の店主が暖かく迎え入れてくれます。5畳未満のこぢんまりとした店内にL字カウンターがあり、ギュッと詰めると大人が10人ほど入る立ち飲み空間。天井の張りや柱、酒蔵看板など、随所に昔ながらの味わいが感じられます。軒先テントにはベンチが置かれており、ホカホカのおでんとお酒があれば外でいただくのもまた一興です。
飲み歩き1軒目:「ほな、いってきます」
小さな酒店の店内には1枚板の立派な看板や古い年号の書かれた酒販免許、干支の描かれた縁起物が壁にかけてあり、埃の積もっていない額縁に、お店の歴史や店主の誇りを感じる。「今日は、まだ〇〇さんは来てないね」角打ち独特の距離感を味わえる会話を耳にしながらポテサラと瓶ビールを注文する。
「そろそろ〇〇さんが来る時間やろな」。誰に言われるわけでもなく、彼らも僕らもギュッと体を寄せ合い、スッと席を作る。特別に何か面白い話を交わしたわけではないのだけれど、それだけで、あたたかな気持ちになれるのは角打ちの醍醐味と言って過言ではない。
「いってきます」。ほんのり頬を紅潮させ、僕らは静かに店を後にした。「ごちそうさま」ではなく「いってきます」。老舗特有の身内感が決して押し付けがましくなく、「いってきます」がこの店に合うと思って不意に口から出てしまった。
店舗情報
木下酒店 |
常連が集う賑やかな立ち飲み処「ピアさんばし」
ピアさんばし
地下鉄「和田岬」駅から徒歩4分、赤い灯台が目印のピアさんばしは1925年創業の歴史ある立ち飲み処です。店名のピア(pier)は日本語で桟橋や波止場を意味します。店内は広々としており、真ん中にはU字の木製カウンターが置かれ、内装は船舶のキャビンをイメージして作られています。60人程度が立ち飲みできる広い空間で、貸切予約などにも対応しているそう。アテは乾き物からお惣菜まで豊富なラインナップで、ドリアやグラタンなどお店の雰囲気に似合う洋風なアテも揃っています。ヴィッセル神戸の本拠地であるノエビアスタジアムが近くにあることから、試合開催時には追加営業することも。
飲み歩き2軒目:「僕でも予約できるんですか」
がっしりとした体躯のマスターは寡黙で堅物かと思いきや、お話が上手で柔和な人物だった。「はじめまして」とハイボールを注文する僕らにも、常連さんと同じような口調で迎えてくれる。
広々とした店内は昔のホテルに併設された遊技場のような大人の趣きがあって、その空間で交わされる、ちょっと大人な会話が心地よい。
ちょうど日本酒の飲み比べを予約販売していて「残り1枠残っているよ」とお誘いを受け、常連さんが予約表に名を連ねる中、厚かましくも僕が予約させて頂いた。
世知辛い老若男女の溝を渡りたい。
吊り橋では不安になってしまうが、がっしりした桟橋ならば、安心して酔える。
店舗情報
ピアさんばし |
酒屋直営でお手軽価格で愉しめる立ち飲み居酒屋「清水酒店」
清水酒店 立飲み居酒屋「わんまいる清水」
地下鉄「和田岬」駅から徒歩5分、住吉橋線上にある清水酒店はお酒以外にもお米や日用品などを取り扱う地域にコミットした商店で、隣で立ち飲み居酒屋「わんまいる清水」を営んでいます。店内には、カウンターとテーブルが数卓ある広々とした立ち飲み屋で、ノエビアスタジアムから徒歩1分の立地のため、ユニフォームを着たお客さんで賑わうことも。アテは日替わりで、焼き鳥や串カツが食べられる日もあり、角打ちのリーズナブルさと気軽さを持ちながら居酒屋のようにしっかりとお腹を満たせます。
飲み歩き3軒目:「こんなに選べるのか」
「おでん」が年中食べられるというだけで、僕の心は踊ってしまう。おでんと熱燗なんて最高の組み合わせだと思う。
活気溢れる店内は、姐さんとお客さんの軽妙な掛け合いが途切れることなく響いている。
誰かの好きな何かが見つかるという和洋中なんでもござれなお品書きは、肴豊富系の角打ちの魅力だが、驚いて(笑って)しまったのは卓に置いてある調味料の豊富さだ。
ソースと言えど一辺倒ではなく「みんなの要望に応える」というサービス精神か「その瞬間によって最良を選びたい」という優柔不断な僕への配慮か、とにかく自分好みに選択して組み合わせることができる面白さのあるお店だ。
こんなに熱っぽく語りながら、僕は結局、おでんと熱燗、餃子にラー油ハイボールという王道な組み合わせで満足して帰路に着いてしまった。
店舗情報
立飲み居酒屋「わんまいる清水」 |
路地中に佇む神戸最大級の角打ち店「菊地酒店」
菊地酒店
地下鉄「ハーバーランド」駅から徒歩7分、湊町線から細い路地中に入ると40人以上は余裕で入りそうな広々とした角打ち店 菊池酒店があります。戦前から続く老舗酒屋さんで店内は震災の数年前に建て直されました。お店の向かいにも数卓置かれたスペースがありそちらでは座ってお酒を楽しめます。カウンターには色とりどりのアテが並べられており、お会計はキャッシュオン制。お店の営業時間は17:00〜20:00と短いながらも、川崎重工で働く方々や近所の常連さんで賑わいます。
飲み歩き4軒目:「お父さんのお勧めは?」
地図を片手に似たような路地を1本2本、行ったり来たり少し迷いながら辿り着く。
住宅街に漏れる灯りがあたたかい。賑やかだけれど、うるさくないという奇跡的なバランスで楽しめる。
カウンターに値札も名前もない肴の小皿が並んで、ビール片手に自分の感覚を信じてギャンブル的に肴を選ぶのも角打ちの醍醐味。
「酢の物みたいなサッパリ系」が脳内を席巻していた僕に、お父さんがお薦めしてくれたのは「和風ピリ辛パスタ」。お父さんのお勧めを断らない。これも角打ちの醍醐味。
長い間、多くの赤ら顔を見ていると、好みが判るのだろうか。パスタを選ぶつもりのなかった僕なのに、現在の僕が求めていたもの以上の美味しさで、目が覚めた。
人を見る目、それがないと閑静な住宅街で、こんなに賑やかに営業できないよなあ、と角打ちの真髄の一端を感じた。
店舗情報
菊地酒店 |
安い・上手い・早いの三拍子が揃う角打ち店「石井商店」
石井商店
地下鉄「ハーバーランド」駅から徒歩7分の路地中にある石井商店。創業当初は米屋として営んでおり、お酒を扱い始めて80年以上、立ち飲みを初めて60年以上の歴史を持つ角打ち店です。大きなL字カウンターと壁つけのカウンター、テーブルが3卓あり、座ってお酒を愉しむこともできます。手作りのアテも豊富で現在も250円〜350円のお手頃価格で提供しており、値段もさることながら味と提供までの速さも評判です。営業時間は22時までと、角打ちの中では比較的遅くまで営業しており、はしご酒にもピッタリです。
飲み歩き5軒目:「お疲れ様です」
実は取材の予定ではなかったお店だけれど、ふらふらと惹かれて戸を潜る。
気軽に、何となく。その軽さ、淀みのなさが角打ちの「いい距離感」を生み出しているのだろう。
カウンターもテーブルも、ほぼ満席状態。お隣さんの卓に並ぶ肴に「それ美味しそうですね」と話しかけやすい騒がしさ。
椅子もあって、長居もできそうなお品書きで、一軒目でも〆でも楽しめるお店として、色々なシーンで活躍しているのだろう。
仕事帰りらしきスーツ姿の人が多く、仕事終わりの熱気に満ちた店内。、
新人さんもベテランさんもネクタイを緩めて酒を交わし、それはネクタイ1本、酒1杯分かも知れないが、お互い熱量のある会話が飛び交っている。。
呑みニケーションという言葉が、まだまだ死語ではないと五臓六腑に沁みる一軒。
店舗情報
石井商店 |
掲載日 : 2023.12.06