角打ち(かくうち)とは、酒屋で購入したお酒をその場で愉しむ呑みスタイルのこと。手頃な価格で気軽にお酒を愉しめることから、近年は由来を超えて若者や女性たちからも注目が集まっています。一方で、角打ちはハードルが高いと思っている人が多いのも事実。この記事では、神戸市長田区にある地元民が集うディープな酒屋から駅近で豊富なお酒を味わえる角打ち店まで選りすぐりの6店を紹介します。今回の巡り人は、長田区にあるサービス付き高齢者向け住宅はっぴーの家で介護士として働くA2Cさん。呑みの場をこよなく愛するA2Cさんに角打ちの醍醐味や実際に飲み歩きをした際の濃厚なエピソードを教えていただきました。
Table of Contents
角打ちとは?立呑み屋とも異なる独自の愉しみを紹介!
角打ちとは?意味や由来を紹介!
角打ち(かくうち)とは、酒屋の一角でそこで購入したお酒を飲むスタイルのことを指します。語源は諸説ありますが、当時樽に詰められた酒を量り売りする際に用いられていた四角い升にお酒を入れて直接飲んだことに由来すると言われています。これが時代とともに意味が変化し、買ったお酒を家まで我慢できないから酒屋で一杯ひっかけるという呑みの愉しみ方を指す言葉となりました。角打ちの文化は北九州の炭鉱地帯が発祥と言われています。炭鉱では夜勤作業もあるため昼夜を問わずに働く人たちが、仕事終わりの一杯を味わう場として朝から営業している酒屋が重宝されました。角打ちはこのように工場勤務者のニーズを満たせるという背景から、かつて重工場が多く立ち並んでいた神戸市長田区・兵庫区にも浸透し、多くの酒屋が角打ちを始めました。
巡り人的、角打ちの醍醐味『人間っていいな』
文:A2C
十数年前、小倉で連れて行ってもらった角打ちが、僕の初めての角打ち体験だったと思う。
ガラス張りの冷蔵庫から自分たちで缶ビールを持ってきて、大将が置いてくれたビアタンに注いで、連れと乾杯をする。
オニオンスライス1皿、缶ビール2本を置けばいっぱいになるテーブルで「どーってことない立ち話」をヘラヘラして、シャッと呑んでスッと店を後にする。
「何をするかと言うより、誰といるか。」そんなことを常日頃から曰う僕にとって、そんな距離感で過ごせる角打ちは居心地が良い。
角打ちを共にする人は、僕にとって近しい人であり(お近づきになりたい!かも知れないが)、つまり、その時その場にいる人は、勝手にちょっと近い人なんだという錯覚に陥る。
きっと、酒の甘美な魔力と空間の物理的な近さが、そう思わせるんだろう。
シャッと呑む故に、大将の熱を感じることができるのも角打ちの魅力だ。
酒屋という小宇宙にギュッと大将の熱が詰まっているから、端的にその魅力を味わうことができる。小宇宙旅行を繰り返すうちに、ふと、僕はある疑問にぶち当たる。
「角打ちで味わえるものは多種多様な酒? 個性ある素朴なアテ?」
酒でもなくアテでもなく「人」を味わえるのが「角打ち」なのかも知れない。
つい、そんなクサイ台詞まで吐いてしまう。
きっと、酒に魅せられた僕の吐息の物理的な臭さが、そうさせるんだろう。
朝から地元民とディープに一杯「大原酒店」
大原酒店(酒ショップ おおはら)
地下鉄「駒ヶ林」駅から西にまっすぐ4分ほど歩くと見えてくる「酒ショップ おおはら」の看板。お店は左側が角打ちスペース、右側が酒屋スペースに区切られています。角打ちスペースにはL字のカウンターがあり、ビール瓶のケースに段ボールを敷いたお手製のカウンターチェアが置かれています。お酒のアテにおすすめなのは、常連さんも絶賛の羽つきギョーザ。パリッと香ばしい味わいはビールにピッタリです。日曜日も営業しているので休日の朝からディープにお酒を愉しめます。
飲み歩き1軒目:「待ってないで呑も呑も」
店の前で連れの到着を待っていると、タバコを買いに店から出てきた常連さんの兄貴から声がかかる。
カウンター10席ほどの店内に案内され、連れが男である事を告げると兄貴の顔はあからさまに寂しそうになった。
小柄な大将が、すでに満席近い店内で、どのお客さんとも肩肘張らずにお喋りをしている。お客さんが差し入れで貰ってきたというトマトを初めての僕にも出してくれる。
「硬いやろ」「硬いな」「まだ酸っぱいな」差し入れであっても歯に絹きせぬ物言いが心地よい。手作り餃子はニンニクが効いていて(そんな言い方では、よくありそうな味を想像するだろうが)他所では味わえないものだ。絶賛すると、大将は(頼んでも無いのに)レシピを自慢げに見せてくれた。
途中、常連さんの一人に店を託し、大将は配達に出かけた。
店舗情報
大原酒店(酒ショップ おおはら) |
地元の味をしっぽりカウンターで「ためがね酒店」
ためがね酒店
JR「新長田」駅から徒歩7分、地下鉄「駒ヶ林」駅から徒歩2分、新長田エリアの南北を貫くタンク筋にある創業30年の「ためがね酒店」。店内にはカウンターと細長いテーブル席が2つ。夫婦で切り盛りしており、カウンターやセルフ冷蔵庫には奥さんお手製のアテが並びます。朝の9時から営業しており、17時以降は向かいにある合同庁舎の職員さんや地元の人で賑わいます。ここではビールや焼酎、日本酒だけでなく長田の昔ながらの名物ジュース「アップル」も味わえます。酔い覚ましに懐かしの一杯で〆るのもまた一興。
飲み歩き2軒目:「コロナ以降なかなかお客さんが戻らない」
健康的な笑顔でぼやく姐さんが、ハイボールを出してくれた。
カウンターには珍しいタバコが並んでいて「他所で買えないものだから、お客さんが興味本位で買ってくれるんよ」と悪戯に笑う。
姐さんの手造りらしいアテがカウンターや冷蔵ショーケースに所狭しと並んでいる。
入り口の小さなテーブルで大きめの独り言をいいながら、椅子から半分落ちそうになっているコテコテなシチュエーションの先客が放つ印象とは裏腹に、大きな通りに面していてスッと入れる点や、ふと視界に入ってくる飾り気のないアテが、姐さんの小気味良い笑顔と相待って、サラッとマイペーしで、とっつきやすい印象の店だ。
椅子もあるので、お腹を空かせて、じっくり姐さんとの会話とアテを楽しむのも一興だろう。
店舗情報
ためがね酒店 |
おつまみでもガッツリ食べたい時でも「永井酒店」
永井酒店
永井酒店は、JR「新長田」駅から南に徒歩10分、本町筋商店街のアーケードを過ぎてさらに進むと見えてきます。地下鉄「駒ヶ林」駅からは徒歩4分。カウンターと小さいテーブルが3卓あり、入り口の冷蔵ケースからアテやお酒を自分でとって申告するスタイルです。カウンターには季節の食材で作られたアテが並びます。かつては神戸中の飲食店にお米を卸していた米穀販売店も兼ねていたこともあり、ここのおにぎりは格別。お昼からランチも兼ねてお酒を愉しむのもおすすめです。
飲み歩き3軒目:「カウンターでいいかな!」
三つ編みツインテール、アラレちゃんメガネの姐さんがチャキチャキと迎え入れてくれた。満員状態の店で、姐さんは留まること無く動いている。
広めな店内である故に、3、4人で来て盛り上がっている様子も伺える。ガヤガヤとした立飲み居酒屋のような雰囲気で、別々に来たはずのお客さん同士の距離が近く、その時に混じりあって、一緒に一期一会を楽しみやすい雰囲気だ。
クジラの歯ごたえが良く、エイヒレの柔らかさも僕の好みにあっていた。
懐っこく話しかけてくれる名も知らぬ先輩と、仕事や旅、郷土の話を、名も知らぬ故に忌憚なく語り合える。僕の角打ちの髄とも言える店だ。
店舗情報
永井酒店 |
随所に老舗のこだわりひかる「飯田酒店」
飯田酒店
地下鉄「苅藻」駅から徒歩5分、木製の立派な酒蔵看板が目印の飯田酒店は創業100年以上の老舗酒屋さんです。店内は手前に酒と駄菓子の販売スペースがあり、暖簾をくぐった奥に角打ちスペースが広がります。カウンターにはずらりと小鉢が並べられており、壁には日替わりのおすすめメニュー札が。酎ハイ缶の種類も豊富なため、アルコールがあまり得意でない方も気軽に立ち寄れます。ここでは神戸の銘酒「櫻正宗」が頂けるのも嬉しいポイント。寒い日には熱々のおでんと日本酒がよく合います。角打ちスペースは17:00から始まるため、仕事終わりの一杯にぜひ。
飲み歩き4軒目:「連れの人がいなかったら断ってたよ」
街灯もまばらな閑静な住宅街で小さな間口の酒屋の奥に、ひっそりとテーブルが置いてある。
品揃え豊富な入り口の冷蔵庫から、缶ビールを取り出して静かに味わった。
この日、はしご酒をしていた僕の顔は真っ赤だったので、きっと「酔っ払いお断り」という大将のポリシー(なのかどうか真意は聞けなかったが)に僕の表情はギリギリだったのだ。大将の意気が感じられる空間、それも角打ちの醍醐味だ。
故に、その店それぞれの暗黙の了解を楽しみ、じっくり好きな酒を味わえる。
夜の月明りや、犬の散歩をする足音、多くを語らない大将の息遣いをアテに粋な時間を過ごすのにもってこいの店だ。
店舗情報
飯田酒店 |
自分好みの味が見つかる「松岡商店」
松岡商店
JR「新長田」駅から線路沿いを東に2分進むと見えてくる「松岡商店」。創業85年以上の歴史ある酒屋で、全国から取り寄せた日本酒や焼酎、ワインが店内に所狭しと並んでいます。立飲みスペースではご近所・和田岬の名店メゾンムラタのパンが提供されているのも嬉しいところ。それぞれのお酒の特徴が書かれた一言メモ札が下げられているため、好みのお酒が見つけられます。店内は明るく広々としていて駅近のため、気軽に立ち寄りやすいでしょう。角打ち初心者の方は、まずはこのお店から始めるのもおすすめです。
飲み歩き5軒目:「これ、もって行っていいよ」
僕は酒が好きだ。好きになったきっかけとして日本酒の存在が大きい。
厳選された多くの日本酒が迎えてくれる店内。随所に大将の嗜好が光る空間。普段あまり見かけない銘柄を眺めるだけで頬が紅潮する。
山廃を好む僕は、大将のおすすめ都美人を奥のカウンターでトクトクと注いでもらい、クンと1杯。
その小宇宙で、猪口で、日本酒でしか味わえない音や香りが五臓六腑に染み渡る。
帰り際に、これから出かけるという大将と姐さんが「ひょうごのさけ」と染められたサラピンの手拭いを渡してくれた。
洗練された中で、静かに情が染み渡る、そんな店だ。
店舗情報
松岡商店 |
ビールの魅力を余すことなく「森下酒店&スタンディングバー モリシタ」
森下酒店&スタンディングバー モリシタ
JR「新長田」駅から徒歩7分、1933年創業の森下酒店はベルギービールを中心に世界中のビールやウイスキーを扱う酒屋さんです。酒屋の横にはスタンディングバー モリシタがあり、昼から世界中の珍しいビールが愉しめ、ビール好きには堪りません。バーと言いつつも店内は昔ながらの飲み屋の雰囲気があり、ビールによく似合うアテもお手頃価格で頂けます。角打ちの中では比較的遅めの22時まで営業しているため、ハシゴ酒の終着点としてもおすすめです。
飲み歩き6軒目:「なんでも美味しいよ」
スタンディングバーモリシタと書かれた看板、酒屋さんらしからぬ店内には、珍しいビールの銘柄がびっしりと壁に貼られている。
「おでん」や「焼き鳥」のように、縦書きでベルギービールと書かれた黄色のお品書きに新鮮さを覚える。それは、和式や洋式といった垣根を取り払ってくれ、ただ美味しい酒とアテで素敵な時間を過ごすという、柔和で捉われないジェントルなマスターにピッタリだ。
ビール目当てでチェコに行ったような僕だが、ここでこうして、これだけのビールが味わえるならば、わざわざチェコに行かなくて良かったなあと思ったり思わなかったり。
適当な相槌での何でも美味しいではなく、マスターの言う通り「何でも美味しい」店なので、しっかり食べるつもりで行くのもオススメだ。
店舗情報
森下酒店&スタンディングバー モリシタ |
掲載日 : 2023.11.28