
「今夜、シタマチで」と題した飲み歩き企画、今回は新開地エリアへ。まちを案内してくれたのは、新開地の表も裏も知り尽くしたまち系PRプランナーの西島陽子さん。最近、公開した記事でもまちへの想いを語ってくれてましたが、今回は夜の新開地を案内していただきました。落語から始まる夜のはじまり〜はじまり〜。
文:西島陽子 写真:前畑温子
はじまりは一通の手紙だった。源八寿司の若大将が、桂文枝師匠が書いた新聞のコラムを読み、上方落語協会に手紙を書いたことから始まる。「神戸に第二の繁昌亭をつくるなら、新開地へ」。それから4年。2018年7月にオープンした上方落語の定席「神戸新開地・喜楽館」。1年365日まいにち落語が楽しめる。

新開地まちづくりNPO 提供

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13時半、一番太鼓が商店街に鳴り響く。開館の合図だ。”どんどんどんとこい” 。大入りになるよう縁起を担いだこの儀式は、すっかりこのまちの名物になった。13時45分、喜楽館昼席は、先ほど一番太鼓を叩いていた若手の開演前の一席(開口0番)からゆるりと始まって、場を温める。
二番太鼓が鳴って14時開演。古典落語もあれば創作落語もある。オチのある笑い噺もあれば、涙を誘う人情噺もある。聴いたことのある噺も、落語家によって聴かせ方が違っていたり、オチのタイミングが違っていたり。通えば通うほど、知れば知るほど、落語の世界は奥が深くて面白い。
落語6席とイロモノ1席、合計7席の約2時間半。たっぷり笑ってココロが満たされた16時半。メリケンさんの前で産業遺産写真家の前畑温子と落ち合う。メリケンさんとは、喜楽館から歩いて20分ほどの松尾稲荷神社に祀られている日本最古のビリケンさんにあやかってつくられた像。膝をさするとウヒャヒャヒャと大声で笑う。“膝が笑う”をシャレにしたもので、噺家の笑い声が吹きこまれている。日(週ごと?)によって声が替わるので、きょうは誰の笑い声かな?とさわってみるのも楽しい。

さて、ここから新開地の夜が始まる。前畑温子と私は、湊川隧道部の部長、副部長として活動。湊川隧道を拠点に、湊川新開地エリアや兵庫区のまち歩きや情報発信をおこなっている。お互い、ここから歩ける場所に住んでいて、ランチミーティングをしたり、パフェミーティングをしたりすることは多いが、子育て中ということもあって、夜に会うことは少ない。でもほんとうは、お酒も好きで、食べることも大好き。(こんな企画をくれたシタマチコウベ、ありがとう)
はりきって、1軒目はタチノミの名店「世界長 新開地直売所」へ。新開地は、川崎重工の夜勤帰りの人が一杯ひっかけていけるようにと、明るい時間から呑める店が多い。この店も、そんな一軒。馬蹄型のカウンターはすでにたくさんの客で賑わっていた。ひとり呑みのおっちゃんもいれば、しごと帰りらしき会社員のグループや若いカップルも。ダークダックス立ちで、まずは乾杯をして、壁に貼られたメニューを見ながらアテを選ぶ。


タチノミ店らしからぬアテの充実ぶりは、お世話になりはじめた20年前から変わらない。この店の名物は、店主の岸田耕治さんが長年の付き合いのある専門店から仕入れるマグロ。すき身、そして串焼きはぜったい食べる。それだけでもかなり充たされるが、目の前にある大きなおでん鍋を見ればおでんが食べたくなり、隣の客が食べているイワシフライを見ればそれが食べたくなり、と、私たちの食欲は止まらない。いやしかし、きょうのテーマはハシゴ酒。軽くひっかけて次に行くつもりが、腹八分目(九分目?)状態になってしまった。


2軒目に訪れたのは、聚楽横丁にある老舗焼鳥店「鳥八」。20代前半で店を継いでから、20年以上。男前の店主が1人で店を切り盛りする。焼鳥のメニューは当時から変わらず至ってシンプルで、きも、ねぎみ、砂ずり、だんご、かわ、手羽先、もも焼きの7種類のみ。タレはなく、塩でいただくスタイルも昔から変わらない。注文が通るたび、右手を高く上げて塩を振る。先代のやり方を見よう見まねで覚えたというが、こうすることで塩が均一に振れるらしい。その姿に見惚れながらいただくお酒が、またおいしい。


まずはきもから手羽先までの6種類をオーダー。炭火でじっくりと焼かれた焼鳥は、どの部位もパリッとジューシーで、切りかたや大きさ、焼加減まで細部にまでこだわっていることが垣間見える。とくに、私はここの”だんご“が大好きで、小さいながらも存在感がたまらない。決して”つくね“ではなく、店によっては”みんち“ともいうらしいが、唯一無二。鳥八でしか食べられない”だんご”なのだ。もちろん、この日も追加オーダーした。



二軒ハシゴしたところで、さすがにお腹いっぱい。だけど「〆に行っとく?」と訪れたのは、行列のできる名店「MARUIらーめん」。屋台からスタートして、現在の場所に店を構えて50年近く。ストレートの細麺に絡む透明なスープは、シンプルながら深みがあっていつ食べても飽きない。つい飲みほしてしまうスープは、鶏ガラと豚骨がベースで長時間鍋につきっきりでアクをとっているそうで、丁寧なしごとぶりにいつも感動する。ちなみに、ウチの中2男子のラーメンランキングでは、ここが一位だそう。

夕食に食べるなら、ワンタンメンか味噌ラーメンと、から揚げや茹でワンタンをたのんでビールを飲むことが多いけど、飲んだあとなので”らーめん“一択で。あんなに食べて飲んだのに、ふたりとも一気に完食。いつも笑顔で迎えてくれて、笑顔で見送ってくれる、MARUIファミリーのみなさん、ご馳走さまでした。

よく食べ、よく飲んで、よく喋った新開地の夜。昔ながらの店もまだまだ多いが、さいきんはフレンチやイタリアンなど新しい店も増えていて、新開地がじわりと進化している。お次はどこに行こうかな。
掲載日 : 2025.12.24


