
2026年7月26日、六間道商店街にある「したまちの駅ろっけん」で、「START UP TALK vol.2」を開催しました。
2023年度から始まった「シタマチスタートアッププロジェクト」。新長田南エリアにある空き家や空き店舗を活用し、新しく事業や活動を始める人を、物件の紹介や改修費用の補助、地域の人とのつながりづくりなどを通して支援する取り組みです。
今回のゲストは、パフォーマンスとミーティングのためのスペース「house next door」を運営する中間アヤカさん、衣服や身の回りの困りごとを縫製で解決する「柳谷縫務店」の柳谷菜穂さん、ご飯やさんとエステサロンを営む「隠れ家 巛せん」の江本聖子さん。
ダンス、縫製、食とケア。それぞれ異なる仕事をしながら、新長田で場所を持ち、活動を続けている3名から、場所を始めた経緯や地域との関わりについてお話を伺いました。
アーティストの創作過程を、路地にひらく

最初に登壇したのは、中間アヤカさん。
大分県出身の中間さんは、2012年にDANCE BOXが実施する「国内ダンス留学」をきっかけに新長田へやってきました。当初は8カ月の滞在を終えたら別の場所へ移るつもりだったそうですが、創作と生活を無理なく重ねられるこの町に魅力を感じ、その後も新長田を拠点に活動を続けています。
2024年には、丸五市場と本町筋商店街の間にある長屋を改修し、「house next door」を開設しました。
隣り合った2軒の長屋をつなぎ、一方はパフォーマンスや稽古に使うスタジオ、もう一方はアーティストが滞在できるレジデンスとして活用しています。「みんなにとっての第二の家」を目指し、アーティストの創作や発表だけでなく、地域のミーティングや習い事にも場所をひらいています。
路地に面した大きな窓も、この場所の特徴です。舞台や作品の完成形だけではなく、アーティストが試行錯誤しながら作品をつくる過程も、通りを歩く人の目に入るように設計されています。
これまでには、海外のアーティストを招いた滞在制作や展示、深夜から翌日の深夜まで一日を通して行うパフォーマンスなど、この場所だからこそできる企画も実施。新長田で生まれたまち歩きの作品が、東京や京都、アメリカへと展開していった事例も紹介されました。
「新長田を拠点にして、世界で活動しているというのが格好いいと思っています」
暮らしの場所と創作の場所が近くにあることが、中間さんの活動を支えています。
町のものづくりとつながる「縫う工務店」

続いて登壇したのは、柳谷菜穂さん。
柳谷さんは神戸芸術工科大学で建築を学び、工務店や建築事務所で働いてきました。大学時代には、新長田の空き家や空き店舗を調査するアルバイトに参加し、駒ヶ林や周辺商店街を歩いたことが、この町との最初の接点だったといいます。
縫製を始めるきっかけになったのは、コロナ禍でした。自宅で帽子を作り始めたことから、次第に縫うことそのものにのめり込み、「工務店」の「工」を「縫」に置き換えた「柳谷縫務店」を立ち上げました。
現在は、衣服の補修やカスタマイズ、帽子の製作、着物や古着のリメイク、ダーニングのワークショップなどを行っています。「縫うことを通して、町の小さな困りごとを引き受ける」という、地域に根ざした工房です。
トークでは、新長田にあった「神戸ザック」の製造過程で生まれる端材を使った帽子づくりや、地域の金型工場と連携した製作についても紹介されました。
手作業で一枚ずつ切っていた生地を、近所の工場で金型を作ってもらうことで、一度に裁断できるようになったこと。糸や生地、機械や技術を持つ人が、自転車で移動できる範囲にいること。ものづくりの基盤が町の中に残っていることが、柳谷さんの仕事を支えています。
また、新長田では、町で人と会い、話をしているうちに、ワークショップや共同制作の企画が決まることも多いといいます。業種を越えて声をかけやすく、協働するまでの距離が近いことも、この町で活動する魅力として語られました。
暮らしの変化に合わせて、場所も変えていく

3人目は、「隠れ家 巛せん」の江本聖子さん。
駒ヶ林の路地にある平屋の長屋で、麹や薬膳を取り入れたおばんざいランチと、エステやリラクゼーションを提供しています。ランチには、ご飯と味噌汁、メイン料理に加え、複数の小鉢が並びます。美容だけではなく、体に取り入れる食事も大切にしたいと考え、食とケアを組み合わせた現在の形になりました。
江本さんは、新長田周辺でこれまでに4回、活動場所を移しています。
最初に開いた築100年ほどの古民家では、シロアリが発生し、営業の継続が困難になりました。その後も、子育て中のスタッフや自分たちの子どもが過ごせる場所を確保するため、暮らしと仕事の状況に合わせて場所を移してきました。
そのたびに、仲間と一緒に壁を塗り、内装を整え、できるだけ自分たちの手で改修してきたといいます。
一つの完成形を守り続けるのではなく、生活や働き方の変化に合わせて場所もつくり替えていく。江本さんの話からは、小さな事業を続けるための柔軟さが伝わってきました。
新長田を離れて暮らした時期もあったそうですが、地域のおばちゃんたちの温かさや、路地に流れる空気が忘れられず、再びこの町へ戻ってきたと話します。
相談すれば、何かが動き始める

後半のディスカッションでは、なぜ新長田で活動を続けているのか、地域の中に仲間がいることが仕事にどのような影響を与えているのかが話題になりました。
中間さんは、アーティストではない地域の職人や店主とも協働できることを、この町の特徴として挙げました。舞台美術として庭をつくりたいと考えた時、近所の造園業を営む人に相談し、実際に劇場内へ庭をつくってもらったこともあるそうです。
専門分野が違っていても、まず話を聞いてもらえる。柳谷さんも、「相談すれば、何かしら解決策が見つかるのではないかという安心感がある」と話しました。
また、近年、新長田で新しく場所を持つ人に女性が多いことも話題になりました。仕事だけでなく、食事や銭湯、子育てなどの日常を共有する中で関係が生まれ、そのつながりが次の仕事や企画へと発展していきます。
仕事と暮らし、人間関係と地域活動。その境界が少し曖昧だからこそ、新しい取り組みが始まりやすいのかもしれません。
話の続きを、食卓を囲みながら

トーク終了後は、江本さんが用意した料理を囲んで交流会を行いました。
登壇者に具体的な相談をする人、参加者同士で活動について話す人、これから新長田で場所を探したいと伝える人。トーク中には聞ききれなかった話が、食事をしながら続いていきました。
今回登壇した3人は、最初から明確な事業計画と完成された場所を持っていたわけではありません。
自分に必要な場所について周囲に話し、紹介された空き家を見に行き、地域の人や職人に相談しながら、少しずつ現在の形をつくってきました。
場所を持つことは、建物を借りて改修することだけではありません。その場所をどのように使い、誰と関わり、変化しながら続けていくのか。3人の実践を通して、新長田で仕事と暮らしを重ねることの具体的な姿が見えてくる時間となりました。
シタマチスタートアッププロジェクトでは、これからも空き家や空き店舗を活用した新たな挑戦をサポートしていきます。
新長田で拠点づくりや事業を考えている方は、ぜひシタマチコウベで発信している参加事例もご覧いただき、このまちでの新しい一歩をイメージしてみてください。
掲載日 : 2026.08.02

