神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン シタマチコウベ

  • X(旧Twitter)
  • Instagram
  • facebook
  • X(旧Twitter)
  • Instagram
  • facebook

神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン シタマチコウベ

Shitamachi NUDIE

下町の人たちのインタビュー記事です

今夜、下町で

下町の飲み歩き日記です

下町くらし不動産

物件情報やリノベーション事例を紹介します

下町日記

下町に暮らす人たちに日記を書いてもらいました

下町の店≒家

下町ならではの家みたいな店を紹介する記事です

ぶらり、下町

下町の特集記事です

下町コラム

下町の「あの人」が書く連載記事です

Shitamachi Chemistry

下町の「あの人」×「あの人」の科学反応を楽しむ企画です

下町ギャラリィ

インスタグラムで#シタマチコウベをつけている投稿を紹介します

下町くらし不動産 vol.23

1人のダンサーが長屋に開いた新スペース!

この記事をシェアする

リノベーションされた空き家や空き地に伺ってレポートする「下町くらし不動産」。
今回は、24年4月にお披露目された、ダンサーの中間アヤカさんによる「house next door」を訪ねます。丸五市場と本町筋商店街の間の路地にある長屋を改装して、パフォーマンスとミーティングのための場所としてつくられたこちら、下町に生まれたアーティストランとしても注目のスペースです。

 

最初は稽古場のつもりだったけど

2012年、「ダンスボックス」が始めた国内ダンス留学に応募して、大分から新長田にやって来た中間さん。新長田に8か月間滞在してダンスに取り組むというプログラムですが、気づけばそのまま12年以上、中間さんは新長田に留まって、今や全国各地、海外公演まで行うダンサーへと成長しました。

そんな彼女が住まいとは別にもうひとつの拠点を新長田で構えるにいたった理由。ひとつは、公演ごとに増え続ける舞台のための小道具や制作物を保管する場所として、そして、自身の稽古場を持ちたかったからだといいます。

中間さん:コロナ禍のときに、劇場や公共の場所から締め出されたという経験があって、やっぱりアーティストは自分の場所を持っておくべきだって、ダンスボックスの横堀(ふみ)さんの意見を聞いてから、確かにそうだなって自分も後押しされたところもあります。だから、当初はお客さんを呼べるような場所としては思ってもいなくて、自分のための場所として探していました。

それから数年間、地元の不動産屋を探すも、スペースや条件面でこれという物件に出会えないままだったところ、市が始めた空き家活用とプレーヤーのマッチングを目指した「新長田シタマチスタートアップ」の準備段階で実施した、下町の古民家ツアーに中間さんも参加。そこで出会ったのが、「house next door」を構える現物件でした。

中間さん:見学したときに、絶対に借りたい!と思いました。2軒隣り合った長屋が空いていて、この物件だったら稽古場にするだけでなく、私以外の人、たとえば遠方から来た人がここに滞在して作品を発表するみたいなこともできるかもしれないって、パッとひらめいたんです。

扉を開けると丸五市場内へ。反対側は本町筋商店街に通じる小さな路地に立地。

現場にも参加して想像を超える改装に

10年以上空き家だったという物件。市の仲介のもとで大家さんに会って、原状回復を気にせず改装してもいいといった条件も聞けたところで2軒続きの長屋を借りることを決定。改修設計は、新長田で「一級建築士事務所 こと・デザイン」を営む角野史和さんに依頼した。そのための予算は神戸市の補助(建築家との協働による空き家活用促進事業)と中間さんがダンサーとして受けているフェローシップの支援金を組み合わせて。

中間さん:まず、もとの長屋の図面を角野さんが作ってくれたので、顔を突き合わせながら、これいらない、これいらないってちょっとずつ引いていく作業が多かったと思います。稽古場で舞台にもなるスペースは、ダンサーとしてどんな床に立ちたいかなって想像しながら、柔らかさ、滑りやすさ、見た目の感じとかもトータルで考えて、桜の木にしました。自分が立つ舞台を床から決められるなんて、自分の人生であるなんて思ってもみなかった。けど、正直なところ、実際にできあがるまでは私はあまり全体のイメージがついてなくて(笑)。それでも図面ができた後も現場であれこれ相談しながら、大工や左官作業にも参加しながらつくっていけたことがとてもよかったです。


玄関入ってすぐの空間は、2階を抜いて屋根と梁まで見えている開放的な形に。といってすべて抜いてしまうのでもなく、上から見下ろしたり、スタッフがいられるような「キャットウォーク」と呼ぶL字型の通路を残したのは、様々な舞台を経験してきた中間さんならではのアイデア。そこにスチールのフェンスを付け、1階片側の壁面をシルバーにという長屋らしからぬ異素材を使ったのは建築士の角野さんの提案だという。

中間:私には思いもつかないことなんですけど、この場所をつくっているときにやっていた私の舞台衣装を角野さんが見て、これが中間アヤカのアイデンティティだ! って提案してくれて(笑)。結果的に空間に広がりが出たし、ちょっと尖った感じにもなったのですごく気に入っています。


外でも内でもない曖昧さで路地に開く

普段は住人以外は通ることのないような、市場と商店街の間をつなぐ小さな路地。ここで場を開くためにも、改修工事の段階から近所への挨拶回りを行って、なるべく工事の現場も見てもらうようにしたのだそう。

中間さん:長年住み続けている方だったり、ベトナムのご家族だったりって近所の全員と顔を合わせて話せたのがすごくよかったことで。ご迷惑をおかけしますけど…って言っても、思った以上にみなさんすごくウェルカムで、若い人がそうやって始めてくれるのはすばらしいって言ってくれて、こちらが恐縮するほど。いずれはここでダンス公演だけじゃなく、近所に住んでる方にも使ってもらえるようなことを考えていきたいです。

そしてもうひとつ、「house next door」の大きな改装の特徴として、玄関扉横の路地に面した外壁を大きく開け放つことができる縁側窓にしたことが挙げられる。扉と両方を開け放てば、路地に対してとてもオープンな空間ともなる。

中間さん:いわゆる劇場って中がまったく見えないから、チケットを買う人たちのひとつ手前にいる、気になってはいるけどチケット購入まで踏み出せないという人たちに対して、どうしてもその敷居を下げることが難しくて。だから、路地に対して大きく開けられるようにすることで、劇場の敷居をまたぐ前の人たちに届けられる場所にできたらなって。

自分で場を持つことで再確認できたこと

この場のお披露目となった4月の2日間は自身のパフォーマンスとトークイベント、過去作品の展示を、5月には東京の劇作家・山田カイルとダンスボックスのスタッフでもある野田容瑛によるプロジェクトの公演を行った。そして、7月にはドイツからの4人組ユニットが日本ツアーの一環として、「house next door」でも公演を行うことが決まっている。

中間さん:実際にやり始めてみると、誰かスタッフがいるわけでもないから、何もないところからすべて自分たちの手作りでやらなくちゃいけなくて。舞台に立つ人って劇場のことはスタッフさんにおまかせして、自分たちは作品のことだけを考えてやってきたところがあったけど、でも、そもそも場をつくる、作品をつくるってこういうことだよなって気づきました。それに、ゼロからつくっていくことで、受付のやり方ひとつとってもいろいろと試すことができるから、すごく面白いなと思ってます。

以上3点、5月の公演「1(忘)LDK」のリハーサル風景より。野田容瑛に加え、中間自身も出演した。

中間さん:ずっと空き家だった建物だったこともあって、最初に見たときにはちょっとひんやりする感じというか、老いてしまった建物という印象も持ってたんですけど、こうやってできあがって、人の出入りがあるだけで、こんなにも建物って明るく生まれ変わるんだなって。まだまだ自分の場所と思えるほどには慣れてないけど、使っていくうちに、もっともっといろんなアイデアも湧いてくるかなと思っています。

ステージの真上に残した和室は楽屋としても。

玄関土間には長田港で拾った石を左官屋さんとともにひとつひとつ埋めた。

中でもつながっている隣りの棟の1階。ソファはベッドにもなる。

かつて大家さんのお母さんが暮らしていたという。2階の壁も土壁に変えて、レジデンスには十分な部屋に。

屋根上の物干しスペースはそのままに残した。ザッツ下町な眺め。

掲載日 : 2024.07.19

この記事をシェアする

記事一覧

新長田でスタートアップしませんか

2024.09.06

八月十日(土)

2024.09.05

八月四日(日)

2024.09.02

子ども連れでも安心!和田岬の親子でいける飲食店【後編】

タグ一覧

関連記事

2018.06.26

新長田に住み、舞台に立つ、ということ