駒ヶ林で下町芸術祭のための制作を終えて梅元町に帰ってきた。
バイト先の京都のスナックで、「一昨日来た時は往やったんや。今日のオレは復や」とおじさんが言った。今朝、往のワタシが自転車で駆け抜けた坂道を、いま復のワタシがのぼっていく。
ふくふく。ふくふく。
自分の足音までそんなふうに聞こえてくる。
お腹減ったなあ。
坂道を走って降りてきた男の子が、坂の途中の家に入る。
この子の復は、下り坂。
行きの道も、長い長い帰り道の始まりなら、ワタシの復も下り坂かも。
この時期珍しいことのように思えるけど、この坂道は金木犀の匂いがあまりしない。なんか渋くてええなと思う。
いろいろな形の金木犀があるのだ。大きな盆栽みたいに、雲のような形の葉と花の塊が枝の先についているもの。かがり火のごとく燃え盛っているもの。箱型に刈られて生垣になっているもの。一人暮らしをしている京都のアパートの近くを自転車で走っていると、キチンこんまりと刈りそろえられた金木犀に出会った。
その日の夜、シェアハウスにピアノがやってきた。たくさんの人に弾かれてきて、湯葉みたいになった鍵盤からは、一番風呂というより銭湯のお湯に近いやわらかな音がなる。不協和音の淀みが心地よくてぷかぷか弾いていたら、「もう夜遅いで」と怒られた。
ワタナベモモコ
京都在住。神戸市垂水区に生家が、兵庫区に実家がある(19で見つけた家を実家と呼んでもいいなら)。身体表現を軸に、あまり箱や枠や型にはまらず表現する。
2021年、お金を介さず生活する〇円生活を実行。下町芸術祭2023の参加アーティスト。
掲載日 : 2023.10.29