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村田圭吾

五月二一日(日)

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1日が終わる時間をちょっと過ぎる頃、私の1日が始まる。

福井県の修行時代も、
神戸の修行時代も、
フランスでの修行時代も、
いつも厨房に入るのはムラタが一番乗りだ。

元々昭和男子な私は、誰よりも早く厨房に入って先輩方が来るまでに全部の電気をつけ、
異常がないかをチェックし、厨房を温めておく。
もうかれこれ20年くらいしていることになる。

朝が早くて大変ですね。
なんてお声がけいただけることもあるが、
ただ一般的な時計より6時間早く進んでいるだけなのである。
言い方を変えると、一般的な時計より18時間遅く進んでいるのかもしれない。

今日も無事に機材が動いてくれている。
あと6時間後にはいつものお客さんが、いつものパンを買いに来る。

そんな当たり前な1日が始まるための大事な儀式が厨房に一番乗りして、
全体を『始らせる』ことなのだ。

そんな儀式が突如として暗転することが一年のうち数回あるのだ。

フランスで厨房に入ったら、シャワールームの水道管が破裂していて床中水浸しだったこと。
スタッフが前日にオーブン内に入れ忘れたパンや型が黙々と煙をあげ、厨房が火事かと思うくらい煙が充満していたこと。
ブレーカーが落ちて、全部の冷蔵庫の電源が切れていて、パン生地が冷蔵庫の中から溢れて『こんにちは』って顔を出していたこと。

心の安定が損なわれる瞬間である。

そんな事が無いことを願って今日も電気のついていない厨房の鍵を開ける。

さー、今日も平凡な1日になりますように。

村田圭吾|メゾンムラタ

福井県生まれ、15歳で高校を中退してパン職人になる。17歳で単身神戸の『ビゴの店』に修行先を移し、22歳で奥さんと一緒にフランスに修行へ。27歳で第一子を授かり日本に帰国し、パン教室から初めて、2015年「メゾンムラタ」を開業。
神戸のパン屋文化のした支えができるように和田岬でパンを焼いてます。

掲載日 : 2023.06.07

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