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一月二十日(金)

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アボカドとかアボガドとか。
イルビゾンテとか、イルビゾンデとか
あっくんとか、あっちゃんとか。
いつも通りの男、金なし足長おじさん。

呼び名は違えど、それはそれで、そこに間違いなく存在していて。
僕、宮本篤は、いま、ここにいる。

ここってのは、新長田。
2022年の4月から働いている職場が、ここにある。
職を転々としてきた僕が、ようやく見つけた居場所だと感じている。

2023年1月20日金曜日。

「宮本くん久しぶり」
東京の神楽坂、小さな編プロで働いていた時の上司からメールが届いたのは数日前。

「神戸で取材があるから呑みに行かないか」
とのお誘いに、二つ返事で行きますと応えた。

前回、僕がタンザニアに行く前に、少し顔を出した程度だから、それから5年は経ったし、呑むとなったら、僕が退職した時以来だから10年ぶりだ。

僕を訪ねて呑みに来る人がいれば、行きたい店がある。
丸五市場にあるメイリンだ。
めいりん、かも。

とにかく、お気に入りの中華屋で、味は勿論(水餃子、最高)そこに集まる人たちが好きだ。
行く度に千鳥足になるくらい呑んでしまうので、最近、行くのを我慢している。
行っても、そんなにたくさん呑まなければいいんだろうけど、呑んだ次の日はいつも「僕もアホだなあ」と呟きながらシャワーを浴びているのだ。

僕は大きな目標よりも、日常の延長、ささやかな呑み会が予定されると嬉しいタイプで、
その夜に向けてソワソワと指折り数えて整えていた(特別に何かしていたわけではないが)。

呑み会の前日。
訃報が届いた。

僕の職場に入居していた人の旅立ちだった。
千鳥足確定の明日の呑み会を断り、21日に教会で行われる葬儀の準備に専念することにした。

はっぴーの家ろっけんは、少し特殊なサ高住らしい(僕は介護の現場を、ここしか知らないので「らしい」としか言えないのだが)。
ご本人やご家族さんの希望に沿って、看取りや通夜、葬儀、火葬などもウチのメンバーが取り仕切る。
僕は、そんな職場で働く介護士だ。

生ききった。

その人の姿を、最期まで近くで一緒に過ごしていた僕らだからこそ、伝えられる事があるはずで。
だからこそ、一般的には、ここまでしない「らしい」のだが、ウチは火葬場に行くまでウチで一緒に過ごすのだ。

葬儀の準備をするから呑み会にはいけません。とLINEで断りをいれた。

「人間に対して真摯に向き合っている素敵な職場だね」
「宮本くんに合っているよ」
「我々は生きているから、また会える、いつになるかわからないけど」

そんな返信をもらい目頭が熱くなった。
僕は、すぐ熱くなってしまうタイプだ。

というわけで、予定変更、介護士としての真髄。
急遽、オリジナルTシャツ作りをはじめましょう。

僕がこの職場で働きだして10人ほどお見送りしたが、毎回、その人の個性に合わせた装いを準備するのだ。
ある時は中華街、ある時はバー。
生ききったあの人が好きだった物、空間、人を集めて最期まで一緒に過ごす。

今回の僕の担当はTシャツ作りと、雑誌の表紙風ポスター制作。
ウチのスタッフさんたちが描いた故人の似顔絵をデザインし、ユニクロで買ってきたTシャツやパーカーに印刷するのだ。
会場である教会での準備を他のメンバーに託し、閉店間際、三ノ宮のユニクロに滑り込む。

三ノ宮、ろっけん、教会、ろっけんと。

なかなかにロッケンロールな動きで22:00。
ようやくTシャツ作りがはじまった。

「Tシャツ作り手伝うよ」

こんな時間なのに、家から、わざわざ駆けつけてくれたYさん。
教会準備組から引き続き来てくれたSちゃん。
当初は皆に迷惑をかけず黙々と制作するつもりだったが、
誰かと一緒に何かをやるってのは、単に効率的なプラスはあるんだが、
いろんな視点を巻き込んだ方が楽しいって事に、気がついた。

2人と一喜一憂、試行錯誤しながらTシャツプリント君(初めて使う)と奮闘。
紆余曲折、獅子奮迅の2人の力で23:30に1枚目が完成した。

24:30終電の僕の当初の予定では、いまくらいの時間に10枚完成して、お疲れ様ビールをこっそり呑んでいるはずだったが。僕の予定なぞ、知ったこっちゃないよね現実は。

こりゃあ、お疲れ様ビールを呑む時間はないなあと思い、Sちゃんが持ってきてくれていた缶ビールを、そっと冷蔵庫に戻す。

さあ、残り10枚、お願いします。

そう「お願いします」だ。

Tシャツプリント君の使い方を3人で試行錯誤しているうちに、僕の役立たずぶりが発揮され、僕は1枚目を印刷する頃には、隣で夜食のピザを食べるだけの存在となっていた。

カラフルなTシャツやパーカーに白で印刷されるデザインは、その少しザラついたインクの質感も相まって、とてもウキウキする仕上がりだった。

事務作業を終えたSさんが合流し、帰ったはずのBちゃんも集まり、その仕上がりにテンション爆上がり。
夜勤のKさんも明日の準備に余念がない。

僕は終電に間に合うように24:30に「家」を出た。

「あとは任せて早く帰りなさい」

みんな頼もしくて優しくて目頭が熱くなった。だから、僕は、すぐ熱くなるんだって。

いつもと違う時間、深夜の商店街の静けさを感じながら、いまの僕の職場は「はっぴー」であり「家」のようで「ろっけん」にあるんだなあと、しみじみ感じた。

いろんな呼び方があるものも多くあるけど、この名前以外、ないんじゃないかと感じるくらいこの職場と名前がフィットしている。

編集者、チョコレートピエロ、芋男爵と様々、名乗ってきて何者でもなかったような僕だが、現在は、はっきりと介護士であると言える(Tシャツを作ったエピソードだけど、これは、いい介護だと思っている)。
僕の呼び名がフィットしているかどうか知らないが、とにかく帰ってから、明日の朝までに、実はまだやらなければならない事があるのだ。

財津和夫の「青春の影」を聴きながら長い一本道を抜けた。

A2C|はっぴーの家 介護士

1981年兵庫県姫路市生まれ。
東京、広島、大阪での様々な活動を経て、現在は神戸の新長田を中心にアテのない人生を歩き、アテをつまみ千鳥足で帰る生活を送っている。
飼っているピロリ菌の成長を楽しみにしながら、はっぴーの家ろっけんで介護士として働く。座右の銘は「一笑懸命」。

掲載日 : 2023.02.07

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