滞在幾日目(2022年9月某日) ー 道に名前をつけてみた ー
私が滞在している東尻池の真野地区は、昔から市民主体のまちづくりが活発で、今もなお、まちづくり協議会が精力的に活動をしている。
一方で、かつて労働者の街で賑わっていたというこのエリアは、今は大きな商店街や特徴的な場所は他のエリアに比べると少なく、年季の入った長屋と、比較的最近建ったような一戸建てや低層のマンションが並んでいる住宅街だ。
ここに滞在していて困ったことが、目印がないということだ。
車道から入った細道に沿って住宅が建ち並んでいるのだけれど、それぞれに道の名前がなかったり、角に特徴がないため、自分の家の場所や誰かの家の場所を、第三者に説明しにくいのだ。
ただ、外からきた私にとっては、角を曲がるたびに異なる風景の細道に密かに心踊らせていた。
路上園芸がモシャモシャあるような道や、「カンカンカン」と鉄加工している音が聞こえる道。どの道も実は個性が結構あるのだ。
そこで、ふと考えたのが、道にもっとアイデンティがあれば、場所に対して愛着と認識が高まるのではないかと。
そして、早速「道に名前をつけてみよう」という小さな実験を始めてみた。
命名:シリイケイチバ
かつての尻池市場はその石畳の趣だけ残しているが、アーケードや看板もなくなって閉まっていた。
命名:風のリビング
かつての尻池市場の入り口に、フェンスで囲われた空き地があった。密集した住宅地の中で、スーッと風が通って呼吸ができる場所だった。公園になればいいのにな。
命名:十人十色
ふと見るだけでは気づかないけれど、よくよく見てみると、それぞれの家の素材やカラーリングが全部違って素敵な一角を発見。みんな違ってみんないい。
命名:かけぬけ小道
奥には公園があるこの道を、地元の小学生が駆け抜けて公園に行く様子が想像できた。
命名:角の貴婦人
空き家になっているのだけれど、最初にこの街に訪れた時から気になっている角の喫茶店。どうやら何年も閉めてしまっているけれど、その上品な佇まいは今も健在である。
目を凝らしてみてみると、やっぱり街って面白いもんだ、と改めて感じながら帰路についた昼下がりだった。
石川 由佳子|一般社団法人for Cities共同代表理事
アーバニスト/エクスペリエンス・デザイナー。「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに、渋谷、アムステルダム、カイロなど国内外のさまざまな都市に「よそ者」として介入しながら、市民主体の小さな活動を街の中で企てていく。(株)ベネッセコーポレーション、(株)ロフトワークを経て独立。都市体験のデザインスタジオ「for Cities」を杉田真理子と共に立ち上げ。リサーチ、企画、編集、教育プログラムの開発などを都市をテーマに行う。
掲載日 : 2022.11.24