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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

下町日記

石川由佳子

十月二十七日(木)

2022.11.22

滞在1日目(2022年9月16日) ー 長田の洗礼 ー

東京から、大きなスーツケースとド派手なリュックを背負って辿り着いたのはここ長田。

今日から始まる、長田区との共催プロジェクト「アーバニスト・イン・レジデンス」のために、私は3週間この街に滞在する。

元同僚と二人で始めた都市体験のデザインスタジオ「for CIties」は、「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに国内外の都市を飛び回りながら、よそ者ならではの視点で街の価値を再発見するようなプロジェクトを行ってきた。

ここ長田も、その舞台の一つである。

昼過ぎに到着した私は、9月だというのに汗ばむ陽気の関西の気候に、東京との距離を感じながら、重い荷物を片手に滞在拠点「シリイケコンバレー」に向かった。

ここは「尻池市場」があった場所で、元魚屋さんの長屋を、廃屋建築集団「西村組」がアーティスティックに改修して蘇った場所だ。

前回の視察で一目見た時から一瞬にして心を奪われた場所だった。

到着すると早速、この場所の制作者である塚原さんが短パン一丁で迎え入れてくれた。どうやら最後の仕上げをしていたらしい。

なんともワイルドなお出迎え。これが長田バイブスかと、最初の洗礼を受けたのだった。

そして、まだ空っぽだった部屋に西村組のインターンのメンバーが次々にベットを担ぎ入れ、ビンテージなスタンド照明や生活道具を設置し、一瞬にして「家」っぽくなっていった。

相方の杉田真理子も合流し、今夜の晩御飯をどうしようかと考えていると「トーゴディナー会がご近所である」という情報を仕入れる。

ダンス留学をきっかけに長田に移住したトーゴ人のアランさんというダンサーが、トーゴ料理を振る舞ってくれるというのだ。

いくしかない。と西村組から借りた自転車で急いで会場である「r3」に向かった。

街の人が続々と集まるその場所は、はじめてきた私たちをすんなり受け入れてくれる、あたたかい場所だった。

トーゴ料理と、アランのミニダンスショーを満喫した我々は、帰路に着こうと外に出た。

すると、街の人から「はっぴーの家で今日はお通夜がやっているよ、行ってみるといいよ」とお誘いを受ける。
この地域のハブにもなっている介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」では、お通夜を地域に開いて行っているというのだ。

いくしかない。と、はっぴーの家へ向かうと、故人が好きだったもので溢れた空間に、地域の子供から大人までがひっきりなしに訪れていた。

これぞ長田の洗礼かと、なんとも、印象的な出だしの長田滞在初日であった。

photo by PEPE

 

登場人物

石川 由佳子|一般社団法人for Cities共同代表理事

アーバニスト/エクスペリエンス・デザイナー。「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに、渋谷、アムステルダム、カイロなど国内外のさまざまな都市に「よそ者」として介入しながら、市民主体の小さな活動を街の中で企てていく。(株)ベネッセコーポレーション、(株)ロフトワークを経て独立。都市体験のデザインスタジオ「for Cities」を杉田真理子と共に立ち上げ。リサーチ、企画、編集、教育プログラムの開発などを都市をテーマに行う。

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