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兵庫みなと動物病院 院長 豊福祥生さん

vol.56

兵庫みなと動物病院 院長|豊福祥生さんにまつわる4つのこと

小さな命と家族の想いに寄りそう、動物のお医者さん

2023.09.06

兵庫区の地下鉄海岸線「御崎公園駅」から西へ徒歩2分。幹線道路沿いのきれいな歩道の上には、おだやかな青空が広がっています。今回訪ねた先は「兵庫みなと動物病院」。2014年の開院以来、日常のケアから予防医療、ケガや病気の治療など、犬猫を専門に総合医療を行っています。この場所で病院を開いた経緯や、「小動物診療を通じて人の心を癒す」という診療理念に込められた想いについて、豊福祥生(とよふく しょうき)さんにお話を伺いました。

文:柿本康治 写真:岩本順平

 

命を救う仕事への興味

兵庫区浜中町にある兵庫みなと動物病院

地元は垂水区です。親族に医療関係者はおらず、父は消防士でした。中学1年生のときに阪神・淡路大震災が起きて、父は現場の第一線で救助活動に当たっていました。そのときから命に関わる仕事に興味を持つようになって、高校生のときに獣医を目指すことに決めました。きっかけは進路の適正検査です。農業系で生命の仕組みを勉強するほうが向いている、という結果が出て。理系でデスクワークが好きではなかったこともあり、パッと目についた獣医という職業に惹かれました。親に進路希望を伝えたらびっくりしていましたね。団地住まいだったので犬猫を飼ったこともなければ、動物病院に行ったこともなかったので。獣医の大学を卒業した後は、大阪と西宮の動物病院で勤務獣医師として、夜間救急の動物病院で非常勤獣医師として働きました。大阪の病院では対応する件数がかなり多くて、経験も浅いなかで大変でしたが鍛えられました。西宮の病院は受診料が高い分、検査が丁寧にできたのでより客観的なデータを得ながら診察することができました。救急病院ではチーム医療が確立されていて、それぞれの勤務先での経験が開業してからも活かされています。開業場所は神戸の西から東まで探しました。この辺りはあまり馴染みがなくて、ノエビアスタジアムでたまにサッカー観戦していたくらいです。街がきれいで動物病院も少なく、のんびり暮らせそうだと思って、2014年に開院しました。

 

飼い主参加型の診療

兵庫みなと動物病院 院長豊福祥生さん

兵庫みなと動物病院では、犬猫を対象として健康診断・定期検診などの日常ケアから、予防接種といった予防医療、ケガや病気の治療、去勢・避妊手術などの対応をしています。基本的に予約制にしているのは、飼い主さんやペットの負担を減らすため。それと、診察とコミュニケーションの時間を確保するためです。治療の選択肢とその安全性、期待できる効果、費用面などをきちんと説明します。飼い主さんとの治療方針の擦り合わせは、一番大事にしていますね。獣医に成り立てのころとは、ガラッと考え方が変わりました。当時は病気と治療法を勉強して、とにかく治すということを中心に考えていて。悪い考えではありませんが、行き過ぎると飼い主さんと衝突してしまうんです。治療にあたってペットに多少なりとも苦痛を与えることを飼い主さんが恐れて、がんばれば治せる病気なのに治せなくなると、邪魔をされているように感じてしまって。自分本位な考え方だと今は思います。あるとき、治療を一緒にがんばってくれた飼い主さんのペットが亡くなった後、「こんなにつらい思いをするなら、もう動物は飼いたくない」と言われたことがあります。今までで、一番記憶に残っている言葉です。治すことに全力を尽くしても、共に長く過ごした家族との生活が、最後につらい思い出になってしまった。このやり方を続けていても先がないなと感じました。治療に集中してがんばるお医者さんにもニーズはありますが、僕は飼い主さんの気持ちをサポートしながらよりよい診療を一緒に考えていくことを心がけています。天寿を全うした子と経験した病気や治療のことを、次に迎える子との暮らしに活かしてもらえたらと思います。

 

健康なときこそ、顔を見せてほしい

開業当初から目標にしてきた「緩和ケア科」を2020年に設けました。たとえば、がんを患った高齢の犬猫に対する治療として外科手術・抗がん剤・放射線治療などがありますが、完治するかは分からず、ペットには負担をかけます。入院して治すことだけが正解ではなく、痛みや苦しみを和らげながら在宅で共に過ごすこともひとつの治療方法です。動物病院にも得意分野や専門性があって、この病院は緩和ケアと、アレルギーや腸内環境など内科の分野に強みがあります。最近は犬猫のアレルギーも増えてきて、牛乳や大豆、肉がダメな子もいるので、何を食べてもらうか相談したり。免疫力が十分備わっていれば、腸内細菌を弱らせる抗生剤を極力使わなかったり。病気が見つかっていなくてもそうした予防医療の相談で来られる方もいて、実は飼い始めや元気なときから定期検診に来てもらうことが大切なんです。ペットの基準となる状態を知れると病気のサインに気づきやすいし、飼い主さんとはお互いの人となりや考え方が分かっていると、いざというときに診療を円滑に進められるので。飼ってから2週間ほどはおうちの環境に慣らして、その後は数ヵ月に1回のペースでの来院をおすすめしています。飼う前に相談に来てもらってもかまいません。散歩デビューはいつにするといいとか、トイレのしつけはどうすればいいとか。いまあるお困りごとを気軽に話してもらっています。

 

肩の力を抜いて暮らせるように

兵庫みなと動物病院

住めば都で、今まで暮らしてきたまちはそれぞれのよさがありました。最近この辺りでは見かけませんが、飲んだくれた人が朝方にフラフラと歩く下町の風景も味がありますよね。開業と同じタイミングで、御崎公園のエリアに住み始めたのですが、この地域はせかせかしていないところが好きです。うちのワンコと夜に散歩するとき、ノエビアスタジアムをぐるっとまわって兵庫運河のほうに行ってから帰ります。運河もきれいで、誰もいなくて落ち着いたスタジアムもいいんですよね。お昼休みに時間があれば、近くの「豆醍珈琲」に行ってリフレッシュしてから、午後の診療をします。店主の上田善大さんは知識も経験も豊富でおもしろいし、珈琲を味わって人としゃべることで頭もスッキリします。この前、上田さんとも「この地域に惹かれて移ってくる人って、一度は心身を痛めている人が多いよね」と話していました。ここは道が広くて、空も近くて、歩いて景色を眺めるだけで楽しい。気持ちにゆとりが持てる。忙しくしていると狭い範囲のことに集中して疲れてしまうから、時間がゆっくり流れるこのまちにやってくるのではないか、と。神戸もまちに賑わいをつくろうと再開発をする動きがいろいろとありますが、賑わなくてもいい場所を残しておいてほしいです。子どもや犬猫と一緒に、家族でのんびり暮らせるまちであってほしいです。

兵庫みなと動物病院 院長 豊福祥生さん
兵庫みなと動物病院
豊福祥生(とよふく しょうき)

神戸市垂水区出身。麻布大学獣医学科卒業。大阪市・西宮市にて勤務獣医師、夜間救急動物病院にて非常勤獣医師を経て、2014年、兵庫区の御崎公園駅近くに「兵庫みなと動物病院」を開院。神戸市獣医師会、日本獣医がん学会に所属。愛犬の名前は「ぽんず」くん。

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