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shitamachi NUDIE vol.49

切り絵作家|トダユカさんにまつわる4つのこと

御崎公園のそばで、ものづくりを楽しむ

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    JR和田岬駅から、西へ徒歩7分。初夏の御崎公園に入り、木陰を進んでいくと、住宅地にポツリと佇む一軒の珈琲屋が見えてきました。店先で手を振って出迎えてくれたのは、切り絵作家のトダユカさん。夫の上田善大さんが営む「豆醍珈琲(トウダイコーヒー)」の上階にあるアトリエへと案内してもらい、制作のことや御崎町での暮らしについてお話を伺いました。

    文:柿本康治 写真:岩本順平

     

    どう生きて、切り絵で何を表現するのか

    切り絵を始めたきっかけは、大学の授業です。絵本を内容からデザイン、製本まで自分でつくる課題があって、別の授業で先生にほめられた切り絵で、動物がたくさん登場する大判の本をつくりました。その絵本を見た友人が、元町にある雑貨店のモダナークに作品を紹介してくれて、ポストカードをつくって販売することに。そのうち、まわりの人から結婚式のウェルカムボードや、お店で使うロゴ、おうちで飾る切り絵のオーダーを受けるようになり、口コミで依頼が増え、気づいたら切り絵作家になっていました。結婚当時は和田岬のマンションに暮らしていましたが、2人目の子どもが生まれて手狭になったため、夫の実家が近い御崎公園のそばに移りました。当時、夫は元町でカフェバーを営んでいましたが、私が自己免疫疾患を持ったため、感染症のリスクを考えて店を閉め、2021年に自宅の隣家の1階に「豆醍珈琲」を新しく開きました。その2階は私のアトリエです。病気を患ったことで、私はどう生きたいんだろう、切り絵で何を表現したいんだろう、とよく考えるようになりました。体調のこともあるし、最近はオーダーの受注を少し抑えて、自分がつくりたいものをつくろうという気持ちになっています。

     

    公園と運河と、家族の話

    この「きょうだい」という作品は、2人目の子が生まれたときのことを思い出してつくりました。弟の誕生を待ち望んでいた長女が、赤ちゃんの顔をやさしく見つめながら抱っこをする姿がキラキラしていて。とても美しい光景でした。近くにいる家族の存在は大きくて、自然と絵に表れますね。日々の出来事が作品のヒントになることもあれば、文字と動物をセットにしたあいうえお表のように子育てを兼ねた作品も生まれます。子育てといえば、私たち家族にとってはすぐそばの御崎公園は大切な存在です。土にふれることができて、水場にはカエルやメダカがいる、子どもの遊び場です。私も木陰の芝生でゴロゴロして、よくリフレッシュしています。和田岬にあるパン屋のメゾンムラタさんファミリーと、パンと珈琲を持ち寄って夜ピクニックをしたことも。公園のそばを流れる兵庫運河の夕景も好きですね。家の台所に小窓があって、そこから見える空がきれいな日には、家族に「夕日、観に行く―?」と声をかけて出かけます。子どもがいると騒がしくて切り絵に集中できないときもあるけど、それも私なりのペースだからいいんじゃないかな、と思います。

     

    まちのあちこちで、楽しい暮らし

    オーダー作品の制作は控えめにしていると話しましたが、「こんなの、つくれないかな?」と相談されたら、やっぱりうれしいものです。ご近所だと、メゾンムラタさんや岬の焙煎所さんとは家族ぐるみで仲良くしてもらっていて、ショップカードやパッケージなどに切り絵を提供しています。メゾンムラタさんとは、子どもの保育園が同じで親しくなりました。岬の焙煎所さんは、コーヒー豆の特売日にご主人の齊藤仁史さんとしゃべっていい人だなぁと思って、夫とお店に通うように。奥さまの由香さんも素敵で、パワフルな人。「和田岬を一緒に盛り上げましょう!」と誘われて、岬の焙煎所さんのドリップバッグ、メゾンムラタさんのシュトーレン、豆醍珈琲の保存缶をセットで販売して、ありがたいことに予約完売になりました。3点とも、私の切り絵を夫がデザインしたパッケージです。近くにいる人たちと居心地のいい関係で過ごせるのが幸せです。この「あちこちいのち」という作品は、長女が生まれたときにつくったもの。大きな木のそこかしこで、動物たちが思いおもいに過ごしています。切り絵作家としての将来像はあまりないけれど、暮らしはこの作品のようであったらいいなぁ、と思ってます。

     

    枠にとらわれなくてもいいのだ

    わが家はみんな頑固者で、意思が強い人ばかりです。やりたいことはやりたくて、イヤなものはイヤ。子どもが3人いて、上の子ふたりは学校が苦手なので、彼らのペースで通っています。長女が登校したくないと言い出したときは戸惑ったけど、近所にある北の椅子とさんがカフェでケーキのつくり方を子どもに教えてくれたり、家の外で交流してくれるまちの人たちがいるため、救われました。気にかけてくれる大人が身近にいるからですかね、子どもたちは頑固だけど、みんなやさしいんです。身体を動かすことが好きな長女は、今年3月にテントと寝袋を携えて西日本をまわる自転車ツアーに参加しました。その旅の資金を集めるために、私はアトリエで切り絵展を開いて過去作品を販売して。長女は私の友人がつくったハチミツを配達してくれたり、シール貼りを手伝ってくれたりして、お金は無事に集まりました。自転車旅はとてもいい経験だったようで、「今度は四国をまわる旅に行く」と長女は話しています。子どもの不登校にも、私の病気にも、明確な理由があってそうなった訳ではないと思います。そして不登校や病気がそのまま不幸につながる訳でもないだろうとも思うんです。自分達がどうにか出来る範囲を超えてやってくる物事があって、それに翻弄されるのですが、その翻弄される中にいても自分の意思を持って進んでいこうと思います。道中で大変なこともあるけれど、嬉しいこともたくさんあるから、これでいい。いま大切だと思うのは、誰かの決めた枠や価値観に左右されずに、自分と家族ひとりひとりが楽しく暮らしていくことです。和田神社に家族でたまに立ち寄るのですが、あまり願いごとはしません。好きな切り絵をさせてもらっていることや、家族が元気でいてくれることについて、いつも感謝しています。

    切り絵作家
    トダユカ

    兵庫県明石市生まれ。神戸市の印刷・デザイン会社に勤務後、2004年より切り絵を中心とした制作活動をスタート。2006年、西区で服飾作家の友人と共同アトリエ「NORA TORA」をオープン。お互いの結婚を機にアトリエを閉じ、兵庫区へ移住。現在は御崎公園のそばで3人の子どもの母として暮らしながら、夫が営む「豆醍珈琲」の上階にあるアトリエで制作を行う。近年の仕事に、「神戸市営地下鉄海岸線20周年記念」ロゴマーク・各駅スタンプ、「岬の焙煎所」商品パッケージ、「メゾンムラタ」ショップカード・シュトーレン包装紙(2021年)など。

    掲載日 : 2022.08.01

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