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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

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vol.45

citygallery2320 オーナー|向井修一さんにまつわる4つのこと

二葉町の路地でふれる、現代美術の未来

2022.03.10

JR新長田駅から徒歩9分。本町筋商店街のアーケードから路地に入ると見えてくるのは木造2階建のアパート。中央の入り口をくぐれば、そこはコンテンポラリーアートのギャラリー「citygallery2320」です。今年に入ってその両隣にオープンした美術専門のライブラリー「藝術文庫」、そして自宅をギャラリー兼事務所に改装した「W/M 事務所」を巡りながら、オーナーの向井修一さんにギャラリストとしての活動についてお話を伺いました。

文:柿本康治 写真:岩本順平

 

もう一度、ここで始める

高校を卒業後、京都の古美術店や大阪の画廊などで美術品の取り扱いについて学びました。その後、現代版画センターの支部活動のような形で版画作品の売買に携わるようになった1979年に元町の物件と巡り合って「citygallery」をオープンしました。初めの数年間は版画展をメインに行っていましたが、そのうち関西の若手から中堅作家の展覧会を多く開くようになり、80年代の「関西ニューウェーブ」と呼ばれるアートシーンの盛り上がりとともに、作家を含めた多くの関係者が出入りする場所になりました。元町から三宮に移って、1995年の阪神・淡路大震災で被災して、その年の2月に「We are Here」という展覧会を最後に大阪へ移転。2007年までギャラリー活動をした後も、作品の取引や執筆活動を10年間ほど続けていました。2017年に兵庫県立美術館の学芸員の方から、神戸時代の画廊活動についてインタビューを受け(兵庫県立美術館紀要12号に記載)、長田区の自宅でなら新しい形でギャラリーを長く続けることができるのではないか、という気持ちが湧いてきました。それで、新長田の路地にある2階建アパートの実家を一部改装して「citygallery2320」を2018年にオープンしました。

 

制約のない空間

ギャラリーでの展覧会は、僕がおもしろいと思った作家のアトリエに伺って直接お願いします。レンタル料はもらわず、「この場所をどう使っても構わない」と伝えています。先日開催していた美術家の友井隆之さんの個展では、1階と2階の天井を含めたすべての壁面に鉄線で立体物を設置し、直接ペンキで描いて、空間全体を作品として展開してもらいました。壁に穴を空けられないとか、最終日は早めに撤収しなければいけないとか、作家に対しての制約を極力なくすようにしています。作家それぞれのポテンシャルをこの空間で最大限に引き出したいのです。2022年11月には「終末の考古学」というコンセプトで創作活動を行う台湾の若手作家、チャン・テンユァンさんの展覧会を予定しています。大阪のギャラリーで初めてドローイング等の作品を観て気に入り、これまでに10点ほど購入しました。今は、小豆島にある「醤の郷現代美術館」でその作品を観ることができます。また、同美術館にて2022年4月から開催される瀬戸内芸術祭の企画展では、妻であり画家の和田直子の作品も常設展示され、別棟ではうちで展覧会をした滑川みざさんやズガ・コーサクとクリ・エイトさんが現地制作した作品が展示される予定です。自分が見初めた作家が評価されて彼らの活動が広がる流れは、ギャラリストである醍醐味ですね。昔から展示作家に関しては、名声にとらわれることなく声を掛けています。

 

共有財産としてのアート

citygallery2320の特色として、作家とともに制作している作品集があり、今までに15冊発刊しました。展覧会は会期が過ぎれば終わりではなく、準備期間も、会期後の活動も、画廊として継続的にフォローしていきたいのです。図録は200~1000冊ほど印刷し、そのうちの100冊ほどをギャラリーで預かって美術館などに送ります。ここだけではなく、ほかの美術関連施設でもアーカイブしてもらうことで、作品の魅力が広がり、そして残っていく。展覧会はアーティスト、ギャラリー、コレクター、観客の方、作品集を手に取ってくれた方、Facebookを見てくれる方など、様々な人との共有財産だと思います。それと、僕にとって画廊はプロダクトを作る場でもある。2021年6月に現代美術作家の榎忠さんの展覧会を行った際は、ポスターを3種類作りました。サイン入り3種類セットの販売数は70セット。シールなどのギャラリーグッズも制作しました。次の秋には、チャン・テンユァンさんの版画集を出版予定です。ビジネスと創作活動のバランスを取りながら、美術をどう継続していくか。それはずっと考えていくべきことですね。

 

ギャラリーを続けること

新長田でギャラリーなんて、初めは成り立たないと思っていました。ここまでわざわざ来る人も限られているだろう、と。だけど、いざオープンしてみると、作家と来場者はまち歩きも楽しみにして遠方から来てくれる。丸五市場の「ここキムチ」で毎回キムチを買う人がいたり、路地の手前にある果物屋「安田商店」でフルーツを買う人がいたり。新長田は飲食店が充実していて、僕もベトナム料理店「39SAIGON」などのお店を人にすすめたりする。アートは分からないってよく聞くけど、分からないことが楽しいからそれでいいんです。まちの中のひとつの場所として足を運んでもらえたらいい。作家にとってもそんな停車場のような場所であってほしいです。ひと言で表すならば、“現代美術のプラットフォーム”でしょうか。いろんな路線が入り交じる駅のように、各地を旅した作家がまた戻ってきて、新たな表現をこの空間で披露してもらいたい。そのためには、私と妻の和田直子が楽しくマイペースにギャラリーを続けていくことが一番大切だと思っています。

citygallery2320 オーナー
向井修一(ムカイ シュウイチ)

神戸市生まれ。1979年に元町で「citygallery」をオープン。当初は版画作品の取り扱いが中心だったが、2年目以降は関西の若手から中堅の美術作家の企画展時を多く行うようになり、関西アートシーンの発展に大きく寄与。1990年初頭に三宮へ移転し、阪神・淡路大震災により大阪へ移転。2005年からギャラリー活動から離れ、作品売買や執筆活動は継続。2018年、長田区二葉町の自宅アパートを改修し、コンテンポラリーアートのギャラリー「citygallery2320」をスタート。2022年、その両隣に美術専門のライブラリー「藝術文庫」とギャラリー兼事務所の「W/M 事務所」をオープンし、訪れる人々をあたたかく迎え入れている。

 

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