神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン シタマチコウベ

  • X(旧Twitter)
  • Instagram
  • facebook
  • X(旧Twitter)
  • Instagram
  • facebook

神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン シタマチコウベ

Shitamachi NUDIE

下町の人たちのインタビュー記事です

今夜、下町で

下町の飲み歩き日記です

下町くらし不動産

物件情報やリノベーション事例を紹介します

下町日記

下町に暮らす人たちに日記を書いてもらいました

下町の店≒家

下町ならではの家みたいな店を紹介する記事です

ぶらり、下町

下町の特集記事です

下町コラム

下町の「あの人」が書く連載記事です

Shitamachi Chemistry

下町の「あの人」×「あの人」の科学反応を楽しむ企画です

下町ケミストリー vol.04

コーヒーが醸し出す
下町の美味しい関係

松本 真悟|MATSUMOTO COFFEE 代表取締役社長

齊藤 仁史|岬の焙煎所 店主

上田 善大|豆醍珈琲 店主

この記事をシェアする

ひとりの視点から語るのではなく、対談を通して、地域や取り組みの中にひそむ多面的な魅力を探る座談企画「シタマチケミストリー」の第4回。
今回は、偶然にも兵庫区の南側でコーヒー店を経営する3人が登場。同じコーヒー店といっても、焙煎業、卸売業、喫茶業…と、実はそれぞれに主とする業態はまったく異なっていて、家族も含めたご近所づきあいもあるという3人。あたかも「ボクらの時代」(※3人のゲストが自由に話すトーク番組)のように、自由気ままに語っていただきました。

文:竹内厚 写真:岩本順平

コーヒーの面白さと哀しさと

上田 この3人でシラフで話したことないから今日はちょっと心配なんですよ。

松本 飲みながら話してる内容も全然覚えてないけど(笑)。同じ“コーヒー屋”と言っても、それぞれジャンルがぜんぜん違うから、普段から気を遣わずにいられるんですよね。

上田 仕事の話には特にならないから。

齊藤 いやいや、僕はめちゃめちゃ仕事の話もしたいよ。

上田 お酒がだいぶ入ると、齊藤さんのもやもやとした悩みが飛び出すから。ふたりは年齢も近いけど、ボクだけ年上で。

松本 それもバランス的にはいいんじゃないですか。自己紹介的に話しておくと、僕は大学を卒業してから東京に一度出て、コーヒーの会社で3年働いてから地元に戻ってきて、MATSUMOTO COFFEEを継ぎました。それが15年くらい前。

齊藤 松本さんはお父さんの会社を継がれたんですね。僕は25歳くらいのときに廃業するコーヒー卸の店を継いで、同じく15年くらいです。

上田 その頃、松本さんのお父さんともよく話をしてたんでしょう。

齊藤 というより、僕が勝手に押しかけていただけ。引き継いだ店と(松本)真悟くんのお父さんがやってる会社がすぐ近くだったし、僕は真悟くんのお父さんのことが人柄も含めて大好きで、話がよく通じたというのもあって。というのも、真悟くんのお父さんが創業したときの業態と、僕が引き継いだ店の業態がよく似てたんです。自分の店に残っていた従業員の方と話をすると、どうしても喫茶店全盛期の話になるんですけど、もうそんな時代ではなかったから、真悟くんのお父さんから「早よ変えていかなあかんで」って、いろいろと教えてもらって。

松本 喫茶店が主体だった時代から若い人がカフェを始めるような時代に変わっていくわけですけど、僕らはその両方の時代を見てきたんですよね。父が創業した頃は、喫茶店をお客さんとした卸業でいえば、商品の主役は必ずしもコーヒーじゃなかったんですね。

齊藤 ほんと、僕はそのことが衝撃でしたね。

上田 喫茶店を開業するとなったら、コーヒー卸の店がコーヒー豆だけじゃなくて、コーヒーミルから店の看板、冷凍食品まで全部手配して持って行くっていうのが当たり前だったんですよね。

齊藤 そういうサービスだけじゃなくて、高品質で持続可能なスペシャルティコーヒーの営業に励んでみたけど、やっぱりなかなか難しくて。

松本 喫茶店に向けた食品卸というのが実際的な仕事だったかもしれませんね。だから、うちもコーヒー専門店へと舵を切って、そこを目指すことになるわけですけど。

上田 店で煙草が吸えて、モーニングにトーストが付いていてスポーツ新聞があって、それが大事だった時代。そういえば、ボクは今の店(豆醍珈琲)をやる前、元町で「スジャータ」というコーヒー店をやっていて、そこは夕方からの営業だったので、午前中だけ齊藤さんのところでアルバイトしてたことがあるんですよね。いろんな喫茶店への配達業務を引き受けて。

齊藤 僕は上田さんからデザインのことを教えてもらってたので、それにあわせて配達もお願いしていた感じですけど。

上田 いやいや。けど、齊藤さんが前のオーナーから引き継いだ取引先って、すごくいい喫茶店も多かったんですよ。そういう店はだいたい魅力的なマダムがひとりで店をまわしていて、いい常連さんがついていて…。

齊藤 上田さん、よう言うてましたよね、「あの人、昔きれいやったやろうな」って(笑)。

上田 そう、人間的な魅力があってね。ただ、どこも後を継ぐ人はいないからどんどんなくなっていくんです。しょぼんとしますね…。

松本 うちの場合は、今は喫茶店のお客さんがすごく少なくなっているので、そういった話はあまりないのですが、ロースターさんが廃業することになって、そこから何十年と豆を仕入れてきた喫茶店が困ってるというので相談を受けることはあります。その喫茶店としてはずっと同じコーヒーの味でやってきたから豆を変えたくなくて、同じように焙煎してくれないかって。

齊藤 そういう相談、どうされるんですか?

松本 うちでは再現はしない、というかできないですよね。扱っている原料も機械も違ってるので。だから、僕らとしてはこういうコーヒー豆を扱ってますというのをあらためて提案させてもらって。クラシックなテイストに寄せたものをご紹介しても、こういうコーヒーは初めて飲んだって驚かれますね。

上田 喫茶店のご店主が。

松本 そうです。といって、その喫茶店のお客さんが、その味を喜ぶかどうかはまたまったく別の話。なので、あらたに仕入れを始めてくれた喫茶店にはお客さんの反応を定期的に聞きに行くんですよ。豆が変わったことにお客さんが気づいてないというくらいの反応が多いですけど。

上田 そこがね、コーヒーの面白いところであり、哀しくもあるところなんですよね。

松本 ですよね。ただ、僕らもプライドを持って仕事をやっているので、昔ながらの喫茶店のアップグレードにどうすれば関わることができるか、そこはまだいろんな可能性があると思ってます。

 

ご近所さん同士のローカルトーク

齊藤 (松本)真悟くんと話すようになったのは、お互いの子どもが同じ幼稚園でバスの送り迎えのときに奥さん同士が話すようになって、というところからでしたよね。

松本 そうそう、お父さんとお父さんとして。

上田 意外とそっちがキッカケなんや。松本さんが今住んでる家はうちのすぐ近所で、歩いて20歩ぐらいかな。

松本 毎日、上田さんの店の前を通ってます(笑)。母方の祖母の実家で、長年誰も住んでなかったので、そこを改装して引っ越したんですね。子育てのことを考えたときに、地域密着で住みやすい街かなと思って。

上田 ボクはずっと変わらずそこに住んでるから、松本さんのおばあちゃんのことも覚えてますよ。ボクが小さい頃、セダンに乗ってはる姿をよく見かけて、かっこいい女の人やなと子ども心に思ってました。それが今では、松本さんのところの子どもがうちに遊びに来て、一緒にゲームしたりして。齊藤さんのところは娘さんが2人で。

齊藤 何の話なん(笑)。けど、そう思ったら、本当に家族どうしでの付き合いですね。

上田 松本さんは兵庫運河の清掃とかにも参加されてますよね。

松本 はい。齊藤さんもそうだと思いますけど、兵庫駅前でのマルシェだったり、ノエビアスタジアムでの企画だったり、兵庫区内の南の方のエリアでお誘いがあれば、積極的に参加するようにしています。

上田 MATSUMOTO COFFEEは全国区だから、お客さんってほとんど県外じゃないの?

松本 そうなんです。それがうちの事業の強みなんですけど、うちは地元でどういう会社なのかあまり知られてない、というか、地元に向けた活動というのはあまりやってこなかったんです。でも、コーヒーを一般の消費者まで届けようと思ったら地域密着も大事なことで、うちのお客さんにあたるお店はだいたいそういう地域的な活動をやってるんです。だから、僕らも地域で知ってもらうことも大事かなって。

上田 そこは商売っ気なしで。

松本 そうですね。何かお手伝いできることがあれば、くらいの感覚です。

齊藤 うちは卸し業を引き継いで、少しずつ小売業も広げてきたんですけど、そこは家族のおかげでボクひとりじゃきっとうまくいってないと思う。昔からのお得意さんとの関係もすごく大切で、僕が引き継ぐ前の時代からいえば30年、40年とおつきあいが続いてるとなかなか急にはやり方を変えるのは難しくて。そこに葛藤も感じてモヤモヤしてるんですけど。地域とのつながりは私たちの商いにおいて欠かせないものやし、そのへんは奥さんのほうが自然に馴染んでて話も上手なので、任せちゃってることが多いですね。

上田 みんなえらいわ。ボクは地域活性化って言われても、今で十分いい感じやと思ってるので、あんまり乗れないんですね。イベントとか必要かなって思ってしまう。もちろん、街にゴミが落ちてたら拾いますけど、その盛り上げたいっていうのがいまいち…。

齊藤 どんなんやったら乗れる?

上田 うちの奥さん(shitamachi NUDIE vol.49 トダユカさん)の切り絵展とか(笑)。まあ、それは冗談ですけど、齊藤さんや松本さんの店に行けば、こんなに新鮮で美味しい豆が徒歩圏内で買えるということだけでも、この街にとってはすばらしいこと、大きな貢献ですよね。

トダユカさんによるトラTをしっかり着てきていた上田さん。豆醍珈琲(兵庫区御崎町1-5-2)の2階がトダユカさんのアトリエにもなっていて、年に1回ペースで個展が開かれる。

齊藤 うちの焙煎所は人通りの多い場所じゃないし、1杯400円のコーヒーを600円に値上げして…っていうような商売でもなくて。さっきの昔からの喫茶店への卸の話にしても、単純に経営判断だけでは割り切れないところがあるんですよね。合理的に考えればこうなんだろうなって思いつつも、ずっとおつきあいしてきた方たちとの関係性とか、そういう積み重ねもあってなんともいえないモヤモヤがずっと残ってる。うちの業態はどうしても利益を出しにくい構造になってるのもあると思うねんけど。

上田 うちの店だって、店としてやるよりは物件として人に貸して家賃をとったほうが残るお金は大きいはず。でも、新しい人と出会ったりすることの面白さがあるから続けてるわけで、効率とか合理化だけでは語られへんよね。

松本 僕はもっともっとコーヒーを扱う店が増えてほしいんです。この三者でも商圏が同じように見えて全然バッティングしないと思ってるんですけど、とにかくまだまだコーヒーの認知度を上げて、自分好みの味、自分がおいしいと思うものとかが選ばれるようになればなという感覚なんです。

上田 うん、うちのすぐ隣りにスターバックスとかブルーボトルができたら、うちもめっちゃ流行ると思うわ。

松本 ですよね。でも、その逆だと一般に思われてるじゃないですか。競合店が近くにできたらやばいって。

齊藤 そうかな…。コーヒーをもっと広めていきたいって気持ちは常日頃から思ってることですけど、まだまだ自分がモヤモヤしていて…真悟くんみたいに思い切って動けたらいいですけどね。コーヒー屋が増えることに対しても、うちみたいな規模だと正直怖さもあるし、一方で盛り上がってくれたらいいなという気持ちもどっかにあるから…複雑。

上田 それは結構、本質的な話やね。

 

最後にさくっとオススメの店や豆の話

上田 齊藤さんの「岬の焙煎所」は、基本は卸がメインなので平日だけの営業なんですけど、第4土曜日だけは週末しか来れないという人のために店を開けられてるんですよね。

齊藤 宣伝ありがとうございます(笑)。ほんとは週末に開けられる日をもう少し増やしたいんですけども。豆のことでいえば、自分の楽しみと経験値を上げるためにも毎月、新しい豆を提供していて、6月に扱ったインドネシア・スラウェシ島の豆はめっちゃ気に入ってます。そこまで深くは焼かなくても、エスプレッソで飲むときにミルクとの相性がすごくよくて。

松本 僕はあちこちの産地をよく訪ねているのですが、今ってコーヒーの世界では発酵がトレンドなんですね。産地にももちろん、そういったトレンドがどんどん入ってきていて、でも、僕は昔ながらの製法でつくったトラディショナルなコーヒーが好きなんです。だから、僕は産地に行って昔ながらの作り方で続けてほしい、それを求めてるお客さんがいますよってリクエストを伝えに行くんですよ。いいものを探し求める行為よりも、こういうものがほしいって言っていくことこそが大事だと思っていて。じゃないと、産地もどんどん変わっていっちゃうんですよ。

上田 松本さんのところは企業としての責任もあるから。

松本 それもありますけど、自分が好きな味を見つけたらそれが好きだってことをコーヒー屋さんに伝えるってことは一般の方でもやったほうがいいと思うんです。通販だったとしても、ひと言メールにコメントで入れるとかもできるはずなので。そのついでに同じテイストの豆を紹介してもらえるかもしれないし、そういうコミュニケーションによって自分のコーヒーライフの満足度も上がっていくと思います。

上田 松本さんの後だと何を言っても薄っぺらく聞こえそうですが(笑)、ボクはやっぱり喫茶店がめちゃくちゃ好きなので、喫茶店にはできるだけ続いてほしいんです。たとえば、和田岬駅にある喫茶店「アミカ」って80くらいのママさんがまだやっていて、すごく好きな店。その向かいにあった「凡」はもうなくなったしね。ふたりは喫茶店はどうですか。元町の「8番館」とか。

齊藤 それは僕が奥さんと出会った場所ですよね(笑)。神港ビル内にあって、もともとは社食みたいな感じで営業されてたけど、今は外からのお客さんも大歓迎なオープンな店になっているので、ぜひ多くの人に行ってみてほしい。

松本 廃業した焙煎業者から引き継ぎを受けた喫茶店ですけど、新長田の商店街にある「カフェエース」は、何十年と続く老舗ながら、今の時代に合わせて変わっていってるような喫茶店で定期的に様子を見に行ってます。店としてバリアフリーになって、高齢者だけじゃなくてベビーカーを押したファミリー世代も歓迎という雰囲気で、実際、いろんな世代の人が来店してるのがいいなって。

全国各地に生豆や焙煎機などを販売している「MATSUMOTO COFFEE」だが、「MATSUMOTO COFFEE warehouse」 (兵庫区駅南通3−4−34)ではコーヒー豆の小売を行っており、すべて試飲もできる。今回の対談はその2階をお借りして実施した。

「岬の焙煎所」(兵庫区和田宮通3−2−22)ではレギュラーの豆に加えて、毎月のスペシャルティ豆も販売。こちらは本文中で齊藤さんが触れていた6月のスペシャルティ、インドネシア・スラウェシ島の最高峰であるラティモジョン山からの豆。パッケージのイラストは、トダユカさん(上田さんの妻)によるもの。

 

掲載日 : 2025.07.18

この記事をシェアする

記事一覧

新長田でスタートアップしませんか

タグ一覧

関連記事

2023.02.17

兵庫区から広がる、コーヒーの輪

2021.10.01

和田岬を旅する人に、一杯の休息を

2023.01.12

豆醍珈琲(トウダイコーヒー)