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シタマチコウベ

下町くらし不動産

現代アーティストが滞在・制作・発表するオルタナティブスペース

2023.03.10

リノベーションされた空き家や空き地に伺ってリポートする不動産コラム。第19弾は、長田区駒ヶ林町のオルタナティブスペース「ジョブ・スペース・ラボ」。新進気鋭のアーティストの表現活動を支援するために、NPO法人芸法が空き家になっていた物件を活用して、2022年10月に開所しました。芸法の理事長である小國陽佑さん(shitamachi NUDIE vol.24)に、改修についてお話を伺いました。

 

きっかけは、芸術祭での会場利用

「下町芸術祭 2021」の実行委員長を務めていた小國さんはある日、作品を発表する会場としてこの物件を使うことができないかと、建築士の角野史和さん(shitamachi NUDIE vol.27)と建物の前で立ち話をしていたそう。そこにたまたま通りがかったのが、駒ヶ林町1丁目の自治会長さん。物件の持ち主と知り合いだったこともあり、すぐにつないでもらって内見させてもらうことに。家主に事情を説明すると、会場として一時利用できることになりました。

下町芸術祭での展示利用も問題なく終わり、継続して賃貸契約が結べると決まったのが2022年6月ごろ。芸術祭では現状維持で会場として利用したものの、本格的にアトリエやギャラリーとして使うとなると改修が必要でした。その資金繰りに困っていた小國さんは、神戸市の「建築家との協働による空き家活用促進事業」の募集を見つけ、角野さんと相談のうえ申請。改修費用1000万円のうち、500万円の補助を受けることができました。

「いまギャラリーとアトリエとして使っているスペースは、設計事務所のオフィスとガレージとして以前は使われていました。その事務所の屋号が『JSR(ジョブ・スペースラボ)』だったんです。ラボはアルファベットで書くと『LABO』ですけど、おそらく間違って“R”にしちゃったのかなと。その感じがちょっと長田っぽいなと思って、名前を引き継ぐのもありかと考え始めて。アーティスト・イン・レジデンスの施設は増えているけど、滞在・制作・発表をコンパクトにそろえた場所はあまり見ないから、前々からやってみたかったんです。『Job=展示や発表ができるカフェ・ショップ』『Space=アーティストの滞在場所』『Rabo=作品制作のアトリエ』と強引ですが、屋号と要素を結びつけられることもあって『ジョブ・スペース・ラボ』という名前に決めました」

その後、角野さんの知り合いの施工業者や、パテ処理やペンキ塗りを手伝ってくれた福祉事業型の職業訓練校「カレッジ・アンコラージュ」の方々の協力もあり、工事開始から2ヵ月ほど経った2022年10月、オープニングイベントとして現代アート公募展「assembly」を開催することができました。

 

平面・立体・インスタレーション・VRなどの作品が、ジャンルレスに展示されました。アーティスト、関係者、地域外から来る鑑賞者、地域住民が交わり、場所としての機能や使い勝手を確かめる絶好の機会になりました。

 

間取りとスペースについて

滞在・制作・発表という3つの要素を兼ね備えたジョブ・スペース・ラボの中の様子を、改修前後の写真とともにご紹介します。

【1階の間取り】
建物に向かって、左が滞在スペース、中央がアトリエ、右がギャラリーショップ兼カフェ。アトリエとギャラリーは部屋がつながっており、行き来ができる。滞在スペースは独立していて、表から出入りする。

改修前

改修中

改修後

【RABO = ギャラリーショップ・カフェ】
アトリエ側からギャラリー側を見た、改修前・改修中・改修後の写真。新たに開口部をつくり、ガラスをはめ込んでいる。改修前はオフィス空間で、日に焼けたベージュのクロスを剥がし、壁面を塗装し直した。

キッチンを新たにつくり、窓の外にはカウンタースペースを設けて、まちとの接続点となるように意識した。カフェは常設ではなく、展示に合わせたイベントのような形で使用される。

改修前

改修中

改修後

【JOB = アトリエ】
建物の入り口側から見た、改修前・改修中・改修後の写真。アーティストによっては水場をよく使うことを考慮して、流し台のあるバックヤードに簡単にアクセスできるよう、壁の位置を一部変更。確保した収納スペースには、陶芸用の材料や電気窯を置く予定。内装は角野さんにほぼ任せていた小國さんだったが、ギャラリーとアトリエの間に分厚いガラスの開口部を設けることにはこだわった。

特にコンセプチュアルな作品をつくる作家にとって、周囲のノイズは時に集中の妨げになりうる。ガラス窓の仕切りがあることで、アーティストと鑑賞者はほどよく距離を取りながらも、互いに見る・見られる関係を持つ。ワーク・イン・プログレス(作品の完成、または解体までのプロセスを見せる手法)での制作を望む場合は、入り口の電動シャッターを開けておくのもいいし、コミュニケーションを積極的に取りたいならガラス窓に「話しかけてOK」と書いた札をかけてもいい。

【SPACE = 滞在場所】
住居として使われていた建物で、2階に寝室用スペースとベランダがある。下町芸術祭2021では、元町にあるアートギャラリー兼カフェ「プラネットアース」のオーナーで芸術家の宮崎みよしさんと、宮崎さんとつながりのあるアーティスト20名ほどの作品が飾られた。誰も住まなくなった空虚な空間に、多くの作品と人が入り乱れる景色は心に強く残ったという。胸を張って中を見せられるように、ただいま追加の整備中。

 

作品とまちに流れる、言葉ならざる想い

屋外に出て、あらためて建物の外観を眺めて目に飛び込んできたのは、丸や波の形、そして文字のようなもの。抽象画アーティストの中元俊介さんが描いた壁画です。

「この壁画は、船や海をモチーフにしているそうです。ここにはさまざまなアーティストが出入りして、作品やそこに込められた思念が残っていきます。港のようなこの場所に多くの人が往来して、この不思議な文字のような言葉ならざる想いが浮かぶ場所であることを表しています。ジョブ・スペース・ラボは、駒ヶ林や長田のまちの風土のようなものをアーティストが咀嚼して、制作に没頭できる場所でありたいですね。そこで生まれた作品が空間の内外で発表されて、アーティストやこのまちを知るきっかけになればうれしいです」

現在、ジョブ・スペース・ラボは利用者を迎えるにあたって、室内の整備等を行っている段階とのこと。連棟長屋など、連なった空間のリノベーションに興味がある人は展示が始まった際にぜひ足を運んでみてください。

 

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