リノベーションされた空き家や空き地に伺ってリポートする不動産コラム。第15弾は、長田区駒ケ林町の「多文化共生ガーデン」と「おさんぽ畑」。どちらも空き地を活用して生まれた、地域の人のための農園です。まちづくりコンサルタントの角野史和(一級建築士事務所 こと・デザイン)さんと現地で待ち合わせて、ふたつの畑を案内してもらいました。
人の居場所をつくる、多文化共生ガーデン
「多文化共生ガーデン」はJR新長田駅から南へ徒歩15分、地下鉄海岸線の駒ヶ林駅から南西へ徒歩5分ほどの場所にあります。阪神・淡路大震災の被害で空地となった約90㎡のスペースを、近隣住民と定住外国人が交流する場として再生し、定住外国人の方々が畑でパクチーや空芯菜などを栽培しています。
この場所は密集市街地にあるために接道条件が満たせず、再建築ができない土地でした。土地の所有者が「草抜きなどの手入れが大変で困っている」と角野さんに相談したところ、同時期に「定住外国人と日本人との有効な関係性作りのために、パクチー畑をつくりたい」という相談を別の方から角野さんが受けていたことから、両者をマッチングするに至りました。現在は近隣に定住するベトナム人コミュニティなどで構成する「多文化共生ガーデン友の会」が運営を担っています。
写真のように開拓前は草が生い茂っていたため、2020年2月に地域住民に参加してもらう「草むしりワークショップ」を開催するなど、見知らぬ定住外国人がよき隣人となるように顔を合わせたコミュニケーションを重ねながら土地を整備していきました。角野さんは土地利用の全体計画と調整の役割を担ったといいます。
「資材を置いたり、作業をしたりする平場と畑とで、スペースを半々に分けました。ベトナム国籍の方々が栽培に携わってくれているのですが、彼らは『そんなに平場をつくるのはもったいない』と言って、漁港に捨てられた釣り竿や網を譲り受け、作業場を覆う形でネットを張ってヘチマを植えています。収穫した野菜やハーブは、近隣の方におすそ分けして交流を深めています。“外国人”というくくりで見られていた彼らが、同じ地域住民として認められる共生プロジェクトとして活動を続けています」
多文化共生ガーデンでは、神戸市の「空き家・空き地維持費用補助事業」と「長田区地域づくり活動助成」を活用しています。前者は、空き地が地域利用のために無償で貸し出しされる場合に維持経費(固定資産税・都市計画税)を上限100万円で補助する制度です。後者は、長田区民が企画する地域づくりのための活動の立ち上げを中心に支援する助成金制度です。
助成金に頼り続けることもむずかしいため、今後は畑での収穫祭の実施や、地域イベントでの出張販売も検討しているそうです。
手ぶらで行ける、おさんぽ畑
多文化共生ガーデンから東へ歩いて3分。角野さんが2022年4月から自主事業として始めたレンタル農園「おさんぽ畑」が見えてきました。
「ここは元々、いわゆる“ゴミ屋敷”と呼ばれるような危険家屋が建つ場所でした。介護施設に入所していた持ち主にも納得してもらって解体した後、土地はまだ売りたくないけど管理はできないということで、僕が管理することに。以前から始めたいと考えていた、貸し農園を行うことにしました」
整備にかかった期間は、2022年3月頭からの1ヵ月間。大枠の工事は工務店にお願いしましたが、ベースとなる土づくりは自力で行うことに。土地全体にわたってガラ(コンクリートブロックなどの建設廃材)が埋まっていたため、30cmほど掘りさげてどかす必要がありました。作業は過酷を極め、何か悪いことをしたかと自分を疑う日々だったと言います。
3月中旬に利用募集を始め、20日間ほどで畑の全区画が申し込みで埋まりました。畑について分かりやすく解説されたチラシを角野さんからもらいましたので、皆さんもご覧ください。
おさんぽ畑は、「空き助ながた」という団体が運営しています。「空き助ながた」は、角野さんの「こと・デザイン」と、畑から徒歩3分の場所にあるホームセンター「アグロガーデン神戸駒ヶ林店」と、福祉事業型の職業訓練校「カレッジ・アンコラージュ」で構成されています。
アグロガーデンには広報や資材協力、技術支援、講習会などで協力してもらい、カレッジ・アンコラージュとは土地の整備や草刈りといった面で協働しています。
角野さんが利用者に畑を借りた理由について尋ねてみたところ、「徒歩圏内で気軽に通える距離感がいい」「小さめの区画が絶妙」「汚れずに野菜づくりができるところ」といった声が多かったとのこと。畑で足を汚さないように通路に敷いた砂利と、すぐに手や野菜を洗える流し台は角野さんのこだわりポイントです。区画のサイズ感も含めて、初心者にやさしい畑づくりを目指しました。
ハーブや野菜を組み合わせて育てている人もいれば、お子さんが大好きなトウモロコシだけを植えている人も。整えられた小さな畑に個性がギュッと詰まっています。
おさんぽ畑には公式LINEアカウントがあり、利用者ができた野菜の写真を共有しています。また、「Stripe」というサブスクリプションツールをとおして賃料のクレジット決済をしてもらい、月契約でいつでも解約できる仕組みにしています。
畑で育まれる、ゆるやかな関係
この日は取材終わりに強い雨が降りましたが、無人販売コーナーの屋根でしばらく雨宿りをしていると止んできました。雨粒できらめく野菜を眺めながら、角野さんは話します。
「おさんぽ畑では、ゆるやかなコミュニケーションが育つことを期待しています。外に出て少し運動したい。子どもに野菜づくりを体験させたい。それぞれの理由で好きなときに畑に来て、たまたま居合わせた隣の人と『ええナスできてますね』って話すくらいでいいんです。まちを歩いて、お互いの顔が見えることが地域にとって大切じゃないかなと思います」
収穫した野菜は無人販売コーナーで販売することができて、多文化共生ガーデンで採れた野菜をここに置くことも考えているそうです。ふたつの空地が畑に生まれ変わることで、土地と土地、人と人が連動し、まちの表情がより豊かに見えるようでした。
掲載日 : 2022.09.05