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NPO法人の事務局+地域とアーティストのためのオルタナティブ・スペース

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    リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第9弾は、長田港のそばに佇む築80年以上の古民家「角野邸」。駒ヶ林駅から徒歩7分ほどの場所にあるこの建物は、かつては迎賓館として使われていました。現在は、NPO法人芸法(以下、芸法)の事務所として、そして展示やダンスパフォーマンス、映画のロケ地などの用途を持つオルタナティブ・スペースとして活用されています。芸法の理事長である小國陽佑さんに、物件と地域での活動についてお話を伺いました。

    20年以上、空き家だった迎賓館 

    芸法は、若手アーティストの活動支援を主に行っているNPO法人です。小國さんは2013年、以前からつながりのあった長田区のまちづくり課の仲介で、角野邸の保全・活用を推進していたスタヂオ・カタリストの松原永季さんを紹介してもらい、初めて内覧で訪れました。

    「家の所有者である角野一平さんのおじいさんが長田港の網元(漁業経営者)で、迎賓館として角野邸を建てて美術品などのお宝をしつらえては、客人をもてなしていたそうです。でも、足を踏み入れたら部屋中ゴミだらけで、何がお宝か分からない状態。改修に苦労しそうではありましたが、ギャラリーは敷居が高くなりがちなので、ここで地域に向けて開放性のある展示会を開いてみたいという気持ちで短期間借りることにしました」  

    小國さんはアーティストと毎週末集まり、1年ほど掛けて残置物の片付けなどを行いました。阪神・淡路大震災以降、空き家の状態だったこともあり、補修が必要な部分もいくつかありました。和洋折衷の近代建築の建物の3分の2は和室で、残りは洋室という造り。和室の畳はほぼ張り替え、洋室の壁は黄ばんでいたので白く塗り直し。そのほか、電気・ガス・水道などライフライン関連の機器の取り替え工事を行いました。

    改修に掛かった費用は、トータルで120万円ほど。残置物の処理が40万円、畳の張り替えが15万円、ガス給湯器の取り替えが20万円。そのほか、白壁の塗料や水道工事、スタッフのごはん代、土壁の補修など費用が重なりましたが、松原さんやこと・デザインの角野史和さんが地元の業者を紹介してくれたおかげで、それぞれ一般的な費用よりも抑えることが出来たそうです。

    「初めて物件を見たときは、思いっきり手を入れようと思っていたんです。でも、家を片付けていくと日記やアルバム、昔描いた絵なんかが出て来て、捨てるに捨てられず。角野一平さんから物にまつわるエピソードを聞くなかで、アーティストも私も角野邸に愛着が湧いてきました。建物の物語を紐解くにつれて、場所に対して親近感を持つようになったんです。建物の意匠を活かす形で地道に改修を進めて、2014年に初めて行った展示イベントの後もこの場所を借り続けることに決めました」

     2014年のお披露目イベントでは、片付けを行っていた関西圏の20名ほどのアーティストがコアとなり、平面作品を持ち寄って建物内に飾りました。片付けのときに仲良くなった駒ケ林町2丁目の会長さんも絵の展示で参加したりと、地域住民との交流も初回から生まれていたそうです。その後、小國さんは角野邸に6年間ほど住みながら、地域活動にも関わっていきました。角野邸は、現代アートの展示企画を行ったり、若手アーティストのアトリエ兼住居として短期間貸し出したり、自治会の会合に使ってもらったりと、多様な使い方を受け入れる施設へと生まれ変わりました。


    角野邸の意匠と改修について

    改修中、建築業者の方々から意匠について教えてもらって、建物に対する敬意が生まれたという小國さん。改修後に開いた展示会の様子と合わせて、元からあるデザインを極力残した角野邸の魅力をご紹介します。


    2階の客間】
    2階客間の改修前後。写真奥の左に違い棚、中央の床の間に家紋入りの畳、右に琵琶床があり、それぞれ手を入れずに残した。唯一この場所だけあった家紋入りの畳を見た業者の方が「これは大事なもんやから、絶対替えたらあかん」と教えてくれた。

    【和室の障子】
    和室の障子は縦格子で、空間に緊張感を持たせている。近くにあった母屋と違って、迎賓館として使われていたことは、非日常を感じるこうした設計から感じられる。障子や戸には節目が細かい高級な木材が使われている。

    2階の元ミシン部屋】
    1階から2階へと階段を上がったところにある、元ミシン部屋。大きいミシンを移動して、小さな展示室として活用。ガラス窓には二重の戸があり、海風を防ぐ重厚な造りになっている。

     1階廊下の雪見障子】
    中庭の雪景色を楽しめるよう、ガラス部分が所々に散りばめてある。ガラスは当時のものを残した。よく見ると少し曲がっていて、気泡が含まれていたりと味がある。平面作品の展示にも奥行きを与えている。

    【中庭】
    中庭には植物がこんもりと生い茂っていて、掃除にひと苦労。家主の角野一平さんも自分では片付けが困難だったため、きれいに片づけて使ってもらえてうれしかったそう。実は一平さん自身も油絵画家で、展示に参加することも。屋外スペースで展示を行うこともあり、展示内容によってガラリと空間の雰囲気が変わるのもアートの魅力。


    遠まわりでも、同じ目線で 

    小國さんたちが角野邸を地域に向けて開き、多くの人に利用してもらうなかで「カフェをやったらもうかるんじゃない?」とよく言われたそうです。しかし、小國さんにはこの場所でお金を生み出したいという思いはありません。アーティストの支援という目的を持ちながらも、家主の思い出を紡いでいくこと、地域に見守られてきた角野邸の歴史をつないでいくことを大切にしています。

    「角野邸には多くの人を呼べるほどのキャパシティはないので、地域全体がアートビレッジみたいになればと考えています。もし長田区にアートセンターの機能を持つ施設を造ることが出来たら、角野邸はその補助施設としてアーティストが滞在制作をしたり、『下町芸術祭』のように会場のひとつとして使用してもらえたりするといいですね」

    角野邸のこれまで、そしてこれからのお話を伺いながら、たとえ遠まわりだとしても家主の方や地域の人々と共に時間を過ごすことで、地域のなかで持つべき役割をまわりの人と同じ目線で捉えることが出来るのだと感じました。少人数の事務局で対応出来る範囲はあるそうですが、ご興味のある方はぜひ展示やイベントの際に角野邸についてお話を伺ってみてください。

    掲載日 : 2021.11.10

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