
2026年度、シタマチコウベの新たな取り組みとしてスタートした「LOCAL EDITORS」という連載企画。
シタマチコウベの各地域に詳しい方々に、町の魅力や楽しみ方、旬の情報などを届けていただきます。
今回の記事でご紹介するのは、新開地エリアを担当していただく西島さんによる「大衆演劇の楽しみ方」。
きっと多くの方がまだ触れてない新開地の魅力。記事を読んで足を運んでみてください。
文:西島陽子
初めまして。西島陽子と申します。2005年から新開地のまちのPRをやっています。当時は”PR”という職種は馴染みがなかったし、“まちづくり”なんていう分野があることも知りませんでした。ただただ、知れば知るほどオモシロい新開地の深みにずぶずぶハマってしまい、気がついたら21年も経っていました。
新開地に行ってみたいけど、ディープやし、なんか怖いし、ひとりじゃちょっと心細い。誰か連れて行ってくれたらいいのになあ。そんな声から生まれたのが「知的でいい女限定 ザ・シンカイチツアー」だ。
――いまから21年前の2005 年、新開地生誕100年という節目の年。新開地まちづくりの事務所にはまだ、”どないすんねん新開地” と筆文字で書かれた大きな額縁が飾られていた。この100周年のチャンスをモノにしなければ、新開地に未来はない。大げさかもしれないが、当時の新開地にはそんな空気が漂っていた。
そんな重圧のなかで私たちは、”新開地ファンづくり”を掲げ、100年に掛けて月ごとに様々なイベントを仕掛けた。同時に、WEBサイトやメルマガ、手書きの手紙を添えたダイレクトメールなど、様々なアプローチで新開地のおもしろさ発信した。
そのなかで企画したのが、新開地ツアーだ。かつて20館以上の劇場を抱え、一大歓楽街だった新開地の個性を色濃く伝えることができるのは、大衆演劇しかない!そうして、新開地劇場をメインに据え、観劇前のランチには高田屋京店のおでん、腹ごなしに新開地山側のまち歩きとパルシネマロビー見学。観劇後には喫茶エデン(※いまは閉店)でミーコを飲みながら女優気分で撮影会。晩ごはんはグリル一平の洋食、おみやげは春陽軒の豚まん。

取材の日はたまたまツアーに同行させていただいたのでスペシャルランチに。普段のおでん定食と写真は異なるのでご注意を。

高田屋京店(たかたやきょうみせ)定休日は日曜日と祝日のみ。11時から21時30分まで営業。ラストオーダーは21時。
とにかく新開地らしさを詰め込みまくった。新開地=おっちゃんのまちのイメージが強いので、あえて女性限定に。“知的で大人のいい女限定”というのは、話題づくりのための謳い文句。リピーターお断りが原則だ。
ツアーに参加した女性たちの多くはその後、自分が案内役になって、新開地に友人や家族を連れてくる。そのほとんどが大衆演劇を観に行く。初体験のあの衝撃を、誰かと共有したくなるのだ。
きらびやかな衣装にメイク、音響、照明。時代劇のような世界観を想像していた人は、最初は戸惑う。日本髪を結って美しく着物を着こなし、演歌にのせて踊る正統派な日本舞踊ももちろんある。が、キラキラなメイクと金髪のかつら、流行りの曲に合わせてくるくる踊るインパクトは強烈だ。若い座長の流し目にズキュンと撃ち抜かれ、目が合えばドキドキする。心のなかでキャー♡と叫んでしまう。妖艶な女形姿で登場されたらたまらない。まるでアイドルグループのライブのような舞台に、いつの間にか惹きこまれてしまう。まさに夢舞台なのだ。
大衆演劇のそもそものはじまりは江戸時代初期。出雲阿国が庶民の娯楽として始めたとされる歌舞伎がルーツだ。その後、全国の温泉地や芝居小屋を巡業する「旅回り一座」に変化。現在の大衆演劇のスタイルが確立した。

開演時間の前になると続々と人が集まってくる新開地劇場。
新開地劇場は、戦後すぐの昭和20年、神戸でいちばんの歓楽街だった新開地に芝居小屋としてオープン。美空ひばり、江利チエミ、雪村いずみなど、往年の大スターたちがステージを飾り、その後、昭和55年に大衆演劇専門劇場(常打ち小屋)として生まれ変わる。
大きな舞台に花道、2階席、ゴンドラまで備え、大衆演劇専門劇場としては全国有数の規模を誇る。実力ある劇団でないと、ここの舞台には上がれないとも言われている。
旅役者と言われるように、劇団は月ごとに入れ替わる。毎月1日からスタートし、月末前日の昼の部が千秋楽で、1ヶ月ほぼ毎日公演が行われている。劇場につくファンもいれば、劇団や座長・座員についているファンもいて劇団といっしょに日本各地をかけめぐる。全国にある劇団の数は120、役者はおよそ1000人と言われている。

この日の劇団は、剣戟はる駒座。
新開地劇場では昼の部が12時~15時すぎ、夜の部が17時半~20時半すぎ。昼の部、夜の部は同じ内容だが、まいにち日替わり公演。第1部・顔見世ショー、第2部・お芝居、第3部・歌謡舞踊ショーという構成で展開される。
芝居の内容は、笑いあり、涙あり、人情あり、殺陣もあってアドリブが多い。昼の部、夜の部と同じ演目を演っていてもアドリブや演出が変わっていたりすることもあっておもしろい。
ひとつの劇団がもつ芝居の演目は200~300、劇団によっては400~500とも言われている。詳細な台本はなく「口だて」いう口頭伝承で、ネタ親と呼ばれる演出家や座長から芝居の筋書きや台詞、感情表現、立ち居振る舞いを伝えられ、稽古をおこなう。前日に演目が決まることもあるというから、すごい!のひとことに尽きる。
演目のなかには歌舞伎と同じものもあり、アレンジを入れて現代の言葉で演じられるので、とてもわかりやすい。男性が女形を演じることもあるが、女性も舞台に立つのが歌舞伎と異なるところだ。
歌謡舞踊ショーでは、演歌や歌謡曲、イマドキのポップスなど、曲に合わせて役者たちが次々と踊りを披露する。太鼓や三味線の演奏、芝居仕立てのショーもあり、芝居じゃなくショーを目当てに観にきているという常連のおばさまも多い。

写真撮影OKな歌謡舞踊ショーの様子をお届けします。
そして「おひねり」という風習も見逃せない。ご贔屓の役者へ心付け(ご祝儀)のことで、「お花」とも呼ばれる。舞台で踊る役者の近くへ行き、着物の衿にキラキラの髪留めで1万円札をそっとつける。1枚だけでなく数枚を扇形にすることもある。ドリンクや食べものの差し入れ、なかには劇場に飾るタペストリーや着物をプレゼントするファンもいる。
見どころが多すぎて、語りきれない。
大衆演劇のいちばんの魅力は、客席と舞台の近さだ。芝居のあとの口上挨拶では座長の思いや劇団の裏話を聞くことができるし、歌謡舞踊ショーは写真撮影OK。終演後には劇団総出でお客様をお見送りしてくれる「送り出し」もあり、握手をしたり、感想を伝えたり、いっしょに写真を撮ったりもできる。

圧巻の客席との近さ。
観たことがないという人には、とにかく観てほしい。毎日演目が変わるので、1つの劇団の良さを知るなら、3回は観たほうがいいと言われる。まずは1回。おもしろいと思ったら、もう1回。もっと知りたいなら、さらにもう1回。月を替えて、ほかの劇団を観にいくのもいい。
料金は大人2,600円。チケットはその日に窓口で購入する。座席予約はなく自由席なので、いい席で観たければ早い時間に来て並ぶことをオススメする。この料金で、この内容の濃さ、この見ごたえは、ほかにはないエンタメだとおもう。これを読んで気になったなら、
さあいっしょに夢の舞台へ。あ、おひねりは用意しなくて大丈夫。

身近な場所で体験できる大衆演劇。ぜひ、足を運んでみて。

西島 陽子|まち系PRプランナー
縁あって2005年、生誕100周年を迎えた新開地で新開地まちづくりNPOの広報PRに就任。ミニコミ誌、SNSなどでの情報発信や、映画祭、マルシェなどPRイベントの企画を担当。バスガイド姿でガイドを務めた新開地ツアーはまちの名物となり、様ざまなメディアで紹介される。
現在は、新開地のほか、マルシン市場のPR、ひょうご観光ボランティアのまち歩きコーディネーター、湊川隧道保存友の会理事、湊川隧道部副部長を務める。
企画、編集、デザイン、イラストなど様ざまな角度からまちのPRを手がける。2021年、デザインを担当している神戸新開地・喜楽館の広告で神戸新聞広告賞・広告主部門で金賞受賞。
掲載日 : 2026.06.30


