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シタマチコウベ

週刊下町日和

森本アリ 4th week 『うしなわれゆくものとはいわせない』

2021.07.22

こんにちは。森本アリといいます。塩屋という神戸の西の海辺の町で、旧グッゲンハイム邸という洋館の保存活用をしています。だいたいいつも塩屋にいるので、他の場所で知り合いに会うと「異和感あるわー」と言われたりするけど、実は時間さえあれば長田区、兵庫区の地下鉄海岸線沿線付近をひたすら散歩している。何かと縁のある地域で、こどもが兵庫の「ちびくろ保育園」に通っていることもあるし、活動を始めて15年になる音楽集団「音遊びの会」の拠点も和田岬に移って3年になる。来春でこどもの保育園通いが終わってしまうので、ついでが少なくなる前に、最近は送迎の度に兵庫~長田間の通ったことのない道を一本一本開拓中。

地下鉄海岸線・JR和田岬線の和田岬駅から御崎公園駅の間は徒歩10分程度。この10分の距離の間に、重要文化財級の立ち飲み「木下酒店」があり、面白い人たちが集い、結果的に町を耕す食堂「カルチア食堂」があり、NHK「ドキュメント72時間」の神回を始め伝説を更新し続ける、子どもからオヤジまでが集う駄菓子屋「淡路屋」がある。ちょっと飛んで、北欧ヴィンテージ家具・雑貨とカフェが融合した「北の椅子と」。一癖ある面白いお店が軒を連ねる「笠松商店街」には、わざわざ遠くからも買いに来る人が絶えないパン屋「メゾンムラタ」、常連のために開けつづけご新規さんに銭湯の良さを知ってもらうためのイベントにも目配せを欠かさない「笠松湯」。

 

古き慣習や伝統を守る、工場通いの労働者が家に帰る前のクッション、セカンドホームの立ち飲み屋たちのような昔からの店も多いが、若い感性による最近できた店も多い。共通するのは、それまでの歴史や建造物の上に地続きにあるということ。

 

日本の家の一般的な耐久年数は30年と言われる。解体された住宅の築年数から算出される数字なのだそうだ。それは、レンガ造りが主流のアメリカでは55年、イギリスでは77年とある。ヨーロッパの古い町に行くと都市全体が何百年、中心部はほとんどの建物が築三百年以上なんてこともよくある。さすが石の文化、燃えても石の構造が残る。木造は30年~80年、鉄骨構造は30年〜60年、鉄筋コンクリート構造(RC造)は40年~90年が、日本での一般的な建物の耐久年数。

 

でも、例えば木造の五重の塔。奈良の法隆寺は築1300年。木造住宅の耐久年数と大きな隔たりを感じるのはなぜか。もちろん構造も材料も超一級なのは間違いない。でも最も大きな違いはメンテナンスだ。新品を購入してボロくなったら捨てる。家に対してもそんな感覚なんだろうか。修理、メンテナンスをし続ければ、街全体だって維持できる。再開発も道路拡張も区画整理もいらない。安心安全、緊急車両が通れる道幅、そんな大義名分を盾に失われていくものが多すぎる。狭い路地だから行き届くお互いの気づきも多い。助け合いも多い。緊急車両だって町に合わせて小型化すべきだ。

 

和田岬の町にあるいいもの、駄菓子屋・銭湯・立ち飲み屋は、「うしなわれゆくもの」だと言われそうだ。うしなわれゆくものとはいわせない。

 

御崎公園駅に近づく。和田岬地区から浜山地区に入るとガラッと雰囲気が変わる。「音遊びの会」の拠点として使わせてもらっている和田岬会館はそのボーダーにある。数年ごとに名前が変わる神戸ウィングスタジアム→ホームズスタジアム→今は「ノエビアスタジアム」。その前には大型店舗がどしっと構え、その先は両脇に高層マンションだ。一本奥に入るとかつての営みが残る住宅街が広がっていたりもするが、そこには断絶があり、地続きな感じがなくなる。

 

震災で大きなダメージを負い、大きな舵取りが必要だったのだろう、虚しく「まちづくり」の字が光る。少なからず「まちづくり」に関わる身として、「まちづくり」という言葉は重い。「つくる」はおこがましい。僕らがしなきゃいけないのは、「守る」「継続する」。その大前提のもとでの、「かえる」「つくる」。「まちづくり」の替わりに「まちあそび」「まちいじり」なんて言ってみることがある。その時々のシチュエーションには合った言葉選びだけど、今でもいい言葉が見つからない。「まちづくり」という言葉はきらい。

 

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