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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

stayhome presented by shitamachikobe

森本アリさんが選んだ3冊

2020.06.05

第5弾で本をご紹介いただくのは、神戸・塩屋にある築108年の洋館「旧グッゲンハイム邸」の管理人、森本アリさんです。「三田村管打団?」や「音遊びの会」などで活動する音楽家でありながら、塩屋のまちづくりや、文化・アートの発信を手がける「シオヤプロジェクト」「塩屋百景」を立ち上げるなど、多岐にわたって活躍されています。遠く離れた場所に思いを馳せてみると、自分の足元がもっと知りたくなる。そんな3冊の紹介が届きました。

市場が元気な町はいい町だ

『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場界隈の人々』

著者:橋本 倫史
出版社:本の雑誌社

世界で一番好きな場所のひとつ、沖縄・那覇の第一牧志公設市場。とはいえ足繁く通える訳ではなく、大学受験で訪れた那覇ではじめて迷い込んでからのち、訪れたのは数回。旅行で那覇を訪れると必ず市場を訪ねる。観光客目線しか持てないのだけど、生活に密接する特産品・名産品、交わされる言葉の訛り・リズム、そして空間の構造に目と耳が奪われる。70年以上の歴史を誇るこの市場は、2019年6月に老朽化による建て替えのため閉鎖、現在は近隣に仮設市場を建設し元気に営業中だが、3年後に元の場所で再開される。地縁のない広島出身の橋本さんが大きな使命を背負い、観察し、関係を築き、調査し、取材する。前著『ドライブイン探訪』で驚かされた、店の取材にとどまらずその土地の記憶と記録を探る考察と探求は、継続される。牧志公設市場は迷路である。市場を取り巻く「界隈」に何層にも包み込まれ、複雑な宇宙を作っている。歴史の積み重なりが形作ったその宇宙。40代の若き組合長が発する「この界隈は、まだ戦後処理が終わってないんですよ」にハッとする。

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昔話は生きている。民話採集家の大事な話

『あいたくて ききたくて 旅にでる』

著者:小野和子
出版社:PUMPQUAKES

人から話を聴く仕事をする全ての人に読んでほしい大事な本。子育て真っ最中の大事な休みの日に、宮城の山奥の農村、海辺の小さな漁村を訪ね、見ず知らずの人の家を訪問し、出会ったおじいさん、おばあさんに昔話を話して欲しいとお願いする。何十年も。昔話・民話の中に秘められ、時代と共に薄められ、時には歪められた本当の意味や歴史・風習・社会事情。それだけではない、そのひたむきな行為の先に生じる、きく人・はなす人の関係性。一つの人生に付き合い、分け合うことにもなる覚悟が語られる。昔話ではなく、はなす人が語る人生が現代の民話として記され、飼っていた動物の話が大事な大事な物語に成る。断片のような話が、ミステリーとして立ち上がる。語りつくされたような昔話に対して、これまで行われなかった洞察と解釈を与える優しく真撃な眼差し。面白すぎて読み進みながら姿勢を正し、正座して反芻する、特別な本。

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知ってるところがいっぱい出てくる

『ごろごろ、神戸。』

著者:平民金子
出版社:ぴあ株式会社

湊川公園、パークタウン、ミナエンタウン、東山商店街。この辺りの、地上が地下で、公園の下が映画館で商店街で……、さらに言うと、海=神戸ドックから稲荷市場〜新湊川商店街〜氷室神社=山までの南北一直線の数キロメートルは息をつかせぬエンターテインメントに溢れたエリアで、僕も海外の友人知人が来ると神戸観光として案内するのは決まってこのエリア。平民さんが神戸に移住するキッカケとなった神戸案内が同じコースだったそうだ。そして、本著は主にこの辺りの「ごろごろ」が描かれる。行政の広報として宿題をこなす、神戸の良さ面白さ、極私的観光名所案内はもちろん、子育てや社会的視点、そして市場賛歌・市場哀歌に泣かされ、深く共感させられる。それで終わらずに、定期的に差し込められる、デタラメでフリーダムな(最低で最高な)回が楽しくてしょうがない。

 

実はコレ、オマケ的な(こっちが真髄だったりもする)B面以外の、「ごろごろ、神戸」「ごろごろ、神戸2」「ごろごろ、神戸3」は全てウェブにて無料で読めるのだ。がしかし、編集=和久田善彦、デザイン=小山直基、著者=平民金子の3人が試行錯誤を重ねた、平民さんの言葉を借りると「灰になるまでこだわり尽くした情念の紙版」が見事なので、450ページの紙版は全く別物。両方楽しむべし。
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沖縄と宮城と神戸の、現在過去未来をつなぐ、記憶の記録についての本を3冊ご案内しました。遠くにも行きたくもなるけど、近くをもっと知りたくなる。
こんな機会めったにない。ゆっくりじっくりご近所巡りもどうでしょう。

旧グッゲンハイム邸管理人

森本アリさん

1974年生まれ。「旧グッゲンハイム邸」管理人。「三田村管打団?」や「音遊びの会」などで活躍する音楽家でもあり、ワークショップや音楽祭のディレクターを務めるなど、幅広い活動を行う。「シオヤプロジェクト」(シオプロ)主宰。「塩屋まちづくり推進会」「塩屋商店会」など、まちづくりに関する活動も手がける。著書に、『旧グッゲンハイム邸物語』がある。2020年2月に北区探訪促進ビジュアルブック『ヤッホー!キタク!神戸市北区借景』を発行。

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