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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

下町日記

わいわい和田岬編 by 森本アリ:後編

vol.06

2018.06.23

森本アリさんが行く、和田岬の角打ち。 神戸・塩屋の旧グッゲンハイム邸の管理人、「三田村管打団?」などで活躍する音楽家であり、塩屋のまちづくりや文化・アートの発信を手がける「シオヤプロジェクト」「塩屋百景」の発起人である森本アリさん。 普段、ひとりでは飲み歩かないという森本さんが、旧グッゲンハイム邸のスタッフのみなさんと巡ったのは、和田岬の角打ちの数々。古くから三菱重工の工場があるこのエリアでは、和田岬の重要文化財とも言えそうな歴史あるお店から駄菓子屋に至るまで、子どもも(?)大人もサクッと安価で飲めるお店が存在します。 3部構成の超大作(?)、読んでいるうちに「何の記事だったっけ?」と惑わされるので、念のためここでも説明をしておきます。このコーナーは、下町を飲み歩き、その雑感を記してもらう企画です。

文・写真:森本アリ 写真:岩本順平

 

長男に続き次男の保育園への兵庫通いが続く中、僕と和田岬の関係が勝手に加速した。この「今夜、下町で」のお話をもらった時に、幾つかの候補地があった。真っ先に和田岬と思ったのは昼の和田岬しか知らないからだ。そして、もちろん、もっと和田岬を知りたいからという思惑もあった。

 

 

飲み歩きも、一人飲みも得意じゃないので、日頃から町呑みを文化として嗜んでいる、旧グッゲンハイム邸スタッフ、佐々木くんと小山くんに同行をお願いしたら、即快諾&お店の提案や流れまで行く前から大いに盛り上がった。というわけで「旧グッゲンハイム邸事務局御一行」の「今夜、下町で|和田岬、角打ち篇」がやっと始まる。この文章の依頼はここからだ、ここまでの私と塩屋と兵庫の下町と和田岬個人史は全て蛇足。編集者は大いに焦った、だろう。
和田岬の角打ち文化は割と早い時間に始まる。僕らは全員、仕事を早退。実店舗に行けた試しがなかった、笠松商店街にある「メゾンムラタ」に挨拶&パンを買って食べる。美味しい。その並びの「笠松湯」の暖簾をくぐったのは16時半、いい湯いい気分で笠松湯の暖簾から再び顔を出すと、このシリーズの立案者であり写真家で「下町芸術祭」のプロデューサーでもある岩本くんがすでにカメラを構えている。

 

「えー中で待ち合わせいうたやん」「いやー今まで仕事やったんすよー」、その仕事というのは、笠松湯から徒歩5分の「北の椅子と」で、店長のオーナーの服部真貴さんのインタビューを終えたところだという。服部真貴さんの長男とうちの長男が「ちびくろ保育園」で同じ組で、息子たちは成長を共にした。保護者のアンサーラップでステージを共にしたり、僕は僕で深く携わっている「ちいきいと」(神戸発、町の写真とトークでシノギを削る大喜利地域抗争)を「北の椅子と」で開催させてもらったりしている。「ちいきいとvol.11 マチの家具篇」には服部さんにもご出演いただいた。その時の、兵庫駅から乗る夜のJR和田岬線の写真となんだか成瀬巳喜男の映画的だった日常的な気づきと幸せの話は今でもたまに反芻している。

 

▲写真(左):森本アリ提供

知り合いばっかだ、それも結構しっかり関わっている人たちが和田岬に多く居るみたいだ。伊達に44年生きてきているだけのことはある、でも角打ち巡りは初めてだ。笠松湯の側面の細い路地で笠松湯の間取りが見えるような配管とレガシーなコインランドリーに興奮しながら着いたのは「木下酒店」。外観は迫力あるバラックっぽい店構え、中に入ると濃厚!大正十年創業、もうすぐ百年一瞬にして包み込まれる空間の心地よさ。一番古いでしょうの問いかけに「そんなことないよ、ここらはもっと昔からやっとるところいっぱいあるから」。創業が古い店が幾つかあろうと、この内装は和田岬の重要文化財。

外の長椅子&机で飲み終えたお客さんがお勘定と入ってきた。430円、えっ、串2本と日本酒だよ?素晴らしい。分厚い無垢材のカウンターに4人で並ぶ「もうちょいしたら、兄ちゃんらもうちょい詰めてな」柱時計の差す時間は17時15分。17時10分に三菱の工場が終わる、17時25分にここはいっぱいになるそうだ。そのことを聞いて外を眺めたのは17時20分。角に面した「木下酒店」に3方向から自転車が向かってきて3台共に「キィーッ」と停車、事件現場に直行する警察のようなこの映画的な状況にすでに大興奮。その後続々と現れる労働者たち。スコッチエッグと豚巻(おいしい!)とビールと日本酒ですでに大満足。早々と混雑し始めた「木下酒店」、先輩たちにカウンターを譲り店を後にする。素晴らしかった!また来ます!

和田神社、インド・ネパール料理屋の焼うどん的なドライなカレーうどん、その2階の800円のお昼のランチバイキングの立ち並ぶ看板のワンダーランド具合に感動しながら到着したのは、こちらは地域交流の和田岬の重要文化財「淡路屋」さん。18時前、まだまだ子どもがたむろっている。「18時やでー、◯◯くんかえりやー」とそれぞれの門限も熟知してる伊藤さんが声を掛ける。そう、ここは18時くらいを境に子どもと大人が入れ替わる店なのだ。今までは外で駄菓子やクレープを嗜んでた昼の大人の私、今日はさながら昔の電車の中のように廊下の両側に向かいあわせるあの素敵な空間に堂々と座るのだ。

▲(写真(左):森本アリ提供)「淡路屋」憧れの対面座席はこんな感じ。

あの夜の大人の空間に・・・あれっ、小学生が居る。携帯ゲーム機とおしゃべり中の4人の小学6年生達と向かい合う形で座る4人のおっさん、彼らはコーラやソーダと駄菓子。私たちはビールと日本酒と駄菓子。ない、ない、こんな対等に大人と子どもが向き合う空間は知らない。かくして、私たちは子ども達と対等に雑談しながら、ボードゲームをしたり、学校の話を聞いたり、飴ちゃんをもらったりした。ほどなく、門限を1時間オーバーしてそろそろ帰らなほんまに怖いから、とか言いながら4人ともがいなくなったのは19時前。一応、皆一度、家に帰ってランドセルは置いてから、公園で遊んだりしてから、「淡路屋」にくるそうだ。ちなみに、「淡路屋」の隣に小洒落た白い空間がある、伊藤さんがカフェにしようと頑張ってリノベした空間はもちろん子どものたまり場だ。お店とは言えない。たぶん子どもたちも数十円を消費して使用するフリースペースでコミュニティースペースな「淡路屋」アネックス。「ねえちゃん」と呼ばれながらもすっかり肝っ玉かあちゃん的存在の伊藤さんは、子どもの居場所作りやら学童やらをという必要な町の機能を、自然な成り行きで我が事としてお店にハイブリッドさせてゆくハイパー駄菓子屋さんなのだ。

子どもから大人がボーダレスに集うお店のボーダレスなメニューも記しておかなければいけない。ところてんのサイズはレギュラー(120円)からダブル、横綱、親方、理事長(800円)まで5種類のサイズがある。うまい棒が卵焼きに巻かれた“スナックロール”、水餃子140円の下にはプリン50円が違和感なく並んでる。おかしいでしょ、安すぎでしょ。BLEサンドはベーコン・レタス・エッグ。甘い、しょっぱい、あらゆるクレープのバリエーションの中に、ツナカツの文字、「これなに?」「メンチカツにツナマヨ乗せてクレープで巻くねん」って、子どものデタラメなおもいつきでメニューが増幅。お昼のランチもやってます!たまたまその日は小学校の遠足を次の日に控えた日、暗くなっても、スーパーの数倍のバリエーションのおやつが買える駄菓子屋に300円握りしめ集う子どもと親子の客足が絶えませんでした。
楽しかった!また来ます!

▲写真(右):森本アリ提供

 

さてさて、まだ19時だ。次に目指すのは「淡路屋」さんから徒歩1分の「ピアさんばし」さん、これまでの規模から言うと広い!真ん中のU字形のカウンターに集う方々以外にも2グループほどいらっしゃる。これまでよりも新しい、でもsince1925とある。この辺りは何と言っても「兵庫の津」ですから、歴史が深いのだ。食べ物は、お料理のセルフブースと乾き物のセルフブースがある。僕らは入った瞬間に「生にしますか?」的な問いかけに答えたような気がする。そして、おしゃべりに花を咲かせながら観察すること十数分。ここは家に帰る前の家みたいなもんなんだ、ということを理解し始める。お客さんが入ると「おかえりっ」と定位置に着くまでの5秒の間に「いつもの」がオーダーなしに出てくるのだ。生ビール、チューハイ、日本酒・冷・常温・熱燗、それぞれの「いつもの」。熱燗はポットに熱々のが入ってる。それが定位置に着くまでに注がれ、湯気が上がる。サービスにも頭がさがる思いだが記憶力にびっくりする。

さらにその記憶力に驚くことが起きた。佐々木くんと小山くんは2度目の来店だった、マスターの4代目三橋さんに話しかけられる。「たしか、塩屋の洋館の・・・」「あ、今日はボスも来ましたよ」(ボスとか社長とかアリちゃんとかいろんな呼ばれ方されてます)「森本さんっ」「えーーーー初めてなんですけど」「いやあ、お母さまがね、同窓生なんですよ」「こんどそちらで同窓会をしたいと思ってるんですよ」「ちょっと待ってね、責任者に電話します」「かくかくしかじかで、代わります」「え、はい、あっ」とスピードにまったくついて行けないまま、来年同窓会が行われることが決まったのだった。「キデナさんとも話しててねー」と塩屋の酒屋さんの話が自然と出てくる。やっぱりなんか人が近い。母と三橋さんが同窓生。そうだった、僕は2歳から塩屋在住の兵庫区生まれだった。この兵庫区、下町の空気が馴染むのも自然な流れだっんだ。びっくりしました!また来ます!

20時前、4軒目「大石酒店」に入る。ここも家の延長だ、そしてカウンターにはおいしいおかずが結構なバリエーションで置いてある。兵庫の角打ちはお一人様も多い。静かに飲んで、さっと、店を後にする。生活の中の延長線上の、特別な行為ではない家に帰る前のワンクッションのルーティン。そろそろ酔いが回ってだいぶいい気分、僕らの声も大きくなってきた、ざっくばらんな、ここに書けないような話も出てきた。カウンターには大きな字で書かれたJR和田岬線の時刻表が貼ってある。20時36分を逃せば、1時間後。まだまだ夜は早いが、バッチリ決まってる。JR和田岬駅に向かうことにする。静かにします!また来ます!

この無人駅は改札もない、なーがーいホームの至る所に、道路とホームを結ぶ階段があり、電車に乗り込むことができる。発車5分前くらいに乗り込むと車両に僕ら4人とまばらだった乗客がみるみるいろんなところから乗り込んでくる。いっぱいに乗せた車両は一駅、第二の我が家的なお店を通過してきた乗客を兵庫駅まで運ぶ。
「今夜、下町で|和田岬、角打ち篇」普段の生活の先にある酒飲み文化を堪能しました。
ありがとう和田岬!また来ます!

 

 

 

※掲載内容は、取材当時の情報です。情報に誤りがございましたら、恐れ入りますが info@dor.or.jp までご連絡ください。

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