ヤスダヤビル家主/つくる人 平井陽さん にまつわる4つのこと 週末だけでつくりだす豊かな空間と空きビル生活の実践

兵庫区西出町、新開地から川崎重工を結ぶ川崎本通沿いに佇む老舗居酒屋「ヤスダヤ」。2017年、惜しまれつつも閉店したそのお店のビルを購入し、休日を中心にDIYをしながら生活する平井陽さん。平井さんは和田岬にある居酒屋「カルチア食堂」のビル改修をきっかけに神戸に移住してきました。現在は大阪の建築会社に勤めながら、週末を中心に仲間たちとともにDIYでビルを改修し、新たな地域の拠点をつくっています。

文:山口葉亜奈 写真:白石卓也


ゆかりのない町に移住してはじまった空きビル改修プロジェクト

(撮影:白石卓也、提供:平井陽)

僕はこの町からしたらアウトサイダー(余所者)だと思うんです。出身は岡山、勤務地は大阪で、僕が町と関わるのは夜と休みの日だけ。神戸で活動するようになったのは、和田岬にある「カルチア食堂」のビルを、マスターで幼馴染の仲島義人(shitamachi NUDIE vol.7)と一緒に改修することになったことがきっかけなんです。それまでは京都の古民家でルームシェアをしつつ、義人とはアートユニットを組んで絵描きやイベント企画などの活動をしていました。ちょうど彼が料理人として独立を考えていた頃に、和田岬で安く借りられる3階建てのビルが見つかって、1階で義人がお店を開き、2階を僕の住居にして、3階を自分たちの活動拠点にしようと誘われたんです。和田岬から大阪は通えない距離ではないし、自分たちが好きにできる場所をつくることに魅力を感じて、2013年に神戸に移住してきました。「カルチア食堂」の改装をはじめるまでは、野外舞台の設営くらいしか現場経験がなかったので、自分の手で空間を創り上げていくことが面白くて。タイルや木材など色々な材料を集めてきて、夜な夜なビールを片手に音楽を聴きながら好きなように創っていきました。生活のすぐそばに何か創り続けられる空間があるって面白いですよ。ずっと何かしら創っていた気がします。翌年には、「カルチア食堂」のお客さんと一緒に空き家だった隣の元釣具屋のビルも借りて改装をはじめました。週末だけ作業をして完成まで1年以上。壁や天井の解体から始まる大掛かりな作業だったのでかなり苦労しましたが、DIYのスキルが身についた気がします。

下町の地域柄が後押しする表現活動

(写真:岩本順平)

「自分で自由に改装できる家が欲しい!」と言い続けていたら、兵庫区西出町にある築50数年、4階建ての「ヤスダヤビル」を紹介してもらい、2017年に購入しました。以前は、1階に「ヤスダヤ」という50年以上営業していた居酒屋さんがあって、2017年6月まで80歳近くのおかあさんが家族で切り盛りしていました。すごくいいお店でしたよ。ほかの人の手に渡るのはもったいないと思い、勢いで購入しました。今も、お店の内装はそのまま残っています。2階以上は長く使われていなかったようで、まだ手を加えないといけないところが多いのですが、不便さをも楽しみながら、気が向いたときに作業を進めています。今は1階の元「ヤスダヤ」に入ってくれるテナント募集していて、面白い人がやってくるのを期待しています。
このあたりの地域柄としてありがたいのが、空き物件がたくさんあって、それを安く賃貸や購入ができること。昔、兵庫区南部は海運で栄え、神戸の商業活動の一大拠点として機能していたそうです。特に西出町は川崎重工に通勤する人たちで賑わい、たくさんのお店が立ち並んでいて、「ヤスダヤ」もその一つ。だけど時代の変遷とともに、人が減り、廃業するお店も多く出てきて、空き物件が生まれたようです。空き物件がたくさん眠っていることは、決してネガティブなことじゃなくすごく地域の魅力だと思うし、地価が安いことはアーティストやこれから活動しようとしている人たちにとって追い風になると思うんですよね。以前東京のワンルームマンションに住んでいたこともありますが、狭いし、改装もできないので、退屈でした。東京の街は好きなんですけどね。

大阪都心と神戸ローカルの距離感を日々楽しむ

もともと僕は建築物が好きで、大学では建築を専攻し、まちづくりや都市計画など、都市の環境デザインを主に勉強していました。大学時代にインテリアデザインの会社でアルバイトをしていたこともあって、内装設計やリノベーションにも興味を持つようになったんです。あとはダンスをしていた経験から、舞台演出や空間演出に興味があり、社会人になってから劇団の手伝いをするようになって。その時に手作りで空間を創り上げることに魅了されたんですよ。
そんな興味から、いつか手作業で自分の理想の空間を作りたいと思っていたので、住む家や地域にはこだわっていて、利便性よりもどんな町に住んだら面白いのかを常に考えていました。今も1時間かけて電車で通勤していますが、その移動も楽しんでいます。職場のある大阪でも飲み会やイベントがあるので仕事以外でも大阪と関われているし、移動があることで三宮など様々な町に立ち寄ることができる。そして帰ってきて兵庫区で仲間と一杯。大阪都心のオフィスと、神戸ローカルの自由気ままな空間と、移動距離があるおかげで自分の世界が広がっている気がします。暮らしている街では週末にしか活動できないけれど、そのおかげで客観的な視点を保てているし、僕にとってはちょうど良い距離感です。

町にある“余白”で遊び生まれるもの

僕が空きビル改修やイベントを企画するのは、町の活性化を意図しているからではなく、自分や仲間が楽しく遊べる空間や出来事が欲しかったからなんですよね。そしてこの町には自由な表現活動を許容する余地があった。かつて時代とともに栄え、時代の流れで寂れていき、“余白”が生まれたエリアだからこそ、僕のような余所者が活動できているんだと思います。最盛期の新開地とかも楽しかったと思うし見てみたかったけど、たぶんそこには自分たちは入り込めない。それに、まだ未開拓な部分が多く残る土地だから、空きビルの改修やそこで生活していることが珍しい活動として埋れずに注目してもらえている。そんな活動に面白がって集まってくれた人たちとつながって仲間になっているんです。
これからは、もうあと2、3軒空き家や空きビルを利活用した拠点ができて、この町全体がリノベーションされて面白いエリアに生まれ変わっていくような動きになればいいなと思います。仕事もこの辺りで探すとなると限られると思うので、僕のように仕事は他都市でしつつ、この町の空き物件をリノベーションしながら暮らすという生活スタイルの実践者が増えても面白いですよね。僕自身もヤスダヤビルがある程度の形になったらまたどこか次の物件に手を出しはじめると思います。来年ぐらいじゃないですかね。