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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

Shitamachibudie

vol.54

西村組にまつわる4つのこと

廃屋の価値を伝える、有機的な建築集団

2023.05.24

自身を「廃屋ジャンキー」と呼ぶ建築家の西村周治さんと待ち合わせた場所は、長田区梅ケ香町の小さな鉄工所。話を聞けばすでに契約を交わしていて、建築集団「西村組」の新たな工場として使う予定だそう。その場に居合わせた西村組のメンバーである塚原正也さんと上野天陽さんも、親方のひと声で急遽取材に参加。工場から近い東尻池町のシェア工房「シリイケバレー」や、竹林沿いにあるバラック(ボロ屋)群を直して村おこしをした「丸山バラックリン」のお話を交えながら、西村組の活動について伺いました。

文:柿本康治 写真:岩本順平

 

個性が集う西村組と廃屋再生

西村:西村組のメンバーは、本業がある人がほとんど。出入りも自由で、フリーランスの人に仕事を発注しています。得意なことはそれぞれ違って、塚原さんはオールラウンドプレイヤーですね。植物のことから木や鉄のことまで、なんでも。

塚原:やったことがないことも、とりあえずやってみて覚えていますね。初めは西村さんに改修の仕方とかいろいろ教えてもらいました。西村さんが長田区の丸山エリアにある廃屋を直して住むからと、手伝うことになって。仕事がない休日にその家の屋根を張ったり、内装工事をしたり、家の前の草を刈って畑をつくったり。しばらくしてコロナ禍に入ったら、本業の仕事が全部なくなってしまったんです。「じゃあ、フルタイムで来てください」って西村さんに言われて、手伝うことになりました。

上野:僕も関わり始めたきっかけは、丸山にある西村さんの家ですね。自分が生まれ育って、今も生活している丸山で畑をしたいと前々から考えていたから、畑のスペースを一緒に使わせてもらいました。「家を直せるようになりたいんですよね」とお話したら、西村さんが「じゃあ、うちに来たら?」と声をかけてくれて。その頃の主な仕事としては、設計とまちづくりのことを学ぶためにスタヂオ・カタリストで働きながら、神戸市の空き家おこし協力隊(※)の相談員として働いていました。今では掛け持ちしていた西村組での仕事の割合のほうが多くなりました。

西村:廃屋再生はこんなにやるつもりじゃなかったんですよ。廃屋を買っては住みながら直して、ヤドカリみたいに次の廃屋に引っ越して。それが楽しいから自然に続いただけ。最近は丸山バラックリンとか兵庫区梅元町の村「バイソン」とか、エリアごと再生しているけど、それも成り行きです。1軒買おうと思ったらその一帯が空き家ばっかりで所有者が困っていて、じゃあ全部買うか、と。社会人になって初めて直した家は兵庫区東出町にありましたが、タワーマンションを建てるということで、仲間が直した周辺の家の住人とともに強制退去にあって跡形もなく取り壊されました。そういう苦い経験もしたから、若い人が自由に自分の場所をつくれたらいいな、と漠然と考えながら廃屋を直しています。

※神戸市が設ける相談員制度。空き家問題を総合的に解決するために各分野の士業や専門家が、空き家・空き地の処分・活用にお悩みの所有者の相談を無料で受け付けています。詳しくはこちら。

 

下町に入っては下町に従え

西村:ここから近い東尻池町のシリイケバレーはオープンして1年経ったくらいかな。塚原さんは2年間住み込みで改装作業をしていたよね。塚原さんは地元に首元までどっぷり浸かるタイプで、近所のスナックとか飲食店に通っておっちゃんおばちゃんと仲良くなるのがいいところだと思う。

塚原:よそもんが隣の家を買って好き勝手やるって、まず気に食わないじゃないですか。先住民にリスペクトがないと、僕らの仕事ってたぶんうまくいかない。僕は飲食店巡りも好きだし、住んだほうがまちの人と対話しやすくなります。顔見知りになって僕らのことも知ってもらえたら、「よかったら、隣の空き家も買ってもらえへんか?」という相談が舞い込んできたりもする。近所のおばちゃんと話してて半日終わる、なんてことはよくあります。

西村:塚原さんはもうシリイケバレーに住んでいないから、近所のおじいちゃんが「どこ行ったんや、塚原さんは?」ってこの前さびしそうに僕に尋ねてきました。現場に住めるなら住んだほうがいいって、それはそうだけど、なかなかできないことですよね。

塚原:下町に住んでいる人のほうが、僕は合いますね。長田区の人の一番いいところは、向き合って正直に話せば認めてくれるところ。お年寄りが多い地域だと家にいる時間が皆さん長いから、工事音がうるさくないかと気を遣います。「今から壁をどつくんで」と声をかけるだけで違うし、イベントをするときもコソコソせずに伝えたうえでする。それでも怒られることはあるけど、「この時間は工事禁止」といった隣人との取り決めが段々とできてきて、衝突はなくなっていく。ウソをついたり、本心を隠したりするとダメなんです。下町の気質に合わせて、こっちも愛想なんか使わずに堂々と話せば、みんないい人です。

 

翻訳家のように関係をほぐす

塚原:僕は地域に入っていくけど、上野さんは行政との間に立って関係をほぐしていく“翻訳家”みたいなポジションですよね。空き家で困っている人と西村組をつないでくれるし、必要があれば図面を引いてくれる。他にも店舗の営業許可や補助金の申請といった大切な事務仕事を担当してくれています。

上野:新しくておもしろいことをしたい人が地域にいたときに、活動のサポートや資金面の助言ができる人がいれば、その人の夢を早く実現できるし、まちにとってもいい影響が生まれるんじゃないかなと思っています。僕は生まれてから長田区からほぼ出たことがなくて、「このまちのことが好きなんやね」とよく言われますが、建築の世界では、その地域にある素材や根付いた技術を用いて家を建てるのが理想だという考え方があって。それを人に置き換えるとすれば、そこで生まれ育った人がまちに関わっていく形が理想的だなと。なので、自分が長田で活動することは、好き嫌いではなく、自然な成り行きだなと思っています。

塚原:内々でやれるに越したことはないですよね。外から有名なコンサルタントが外部の職人と共にその場所に似つかわしくないスタイリッシュなものをつくって評判になったとしても、違和感がある。地域の人が、自分たちでつくることには意味があると思う。

上野:建物だけではない、その地域ならではの要素が重なって住まいがそこにあるので、むやみに他所から持ってきた新しいものを貼り付けるような行為には違和感を感じてしまいます。僕は勝手に西村さんや塚原さんと根っこの部分が似ていると感じていて。自分ができることも、まわりの人ができることも変に線引きせずに使って、生きていく環境をどうやったらつくれるかと考えながら実践している。西村組というチームで、近しい価値観を持つ人がまわりにいて、自分の考えはそこまで間違っていなかったんだな、と活動に少しずつ自信が持てるようになりました。

 

“死なない世界”をつくりたい

西村:バイソンの家賃は労働交換できるようにしていて、西村組で週に一度働いてくれたら賃料はなしにしています。バラックリンに家賃はありません。たくさんお金を稼ぎたい人ってそこまで多くはないだろうし、それよりもアーティストとか自分がやりたいことを実現したい人がいっぱいいたらおもしろいから、そうしています。僕は“死なない世界”をつくりたいなと思っていて。僕が昔住んでいた東出町の家は3人でシェアしていて、家賃がひとり5千円。そんなに働かなくても、楽しく生きていけた。でも、世の中はそういうゆるい生き方が許されなさすぎて、ちょっとやばい。めっちゃ働いて、めっちゃ稼いで、めっちゃ家賃払う生き方しかできない場所が多い。

塚原:僕は北海道の僻地に住んでいたことがあって、人口密度が低くて古い建物が多いから家賃もかなり安い。牧場のオーナーから直接借りていた部屋は、家賃300円ですよ。それは極端な例だけど、高い家賃を払う都会に比べればはるかに気が楽で生きやすい。夏場は農業や畜産業があるし、冬場は除雪作業だとかいくらでも仕事がある。本業があっても仕事が少ないときに行けば、日当1万円もらえたりする。おっさんになってもそういう生き方ができる社会があって、救われるというか。でも、神戸には「今日仕事ないんやったら、ウチおいで」と言ってくれる場所が少ない気がする。

西村:そういう生き方を選べる社会が理想ですね。資本主義で売り手が価格を定めることにも違和感があります。改修現場から引き取った古家具を買い手の付け値で売るイベントを開いたりするけど、家賃も借り手に値段を委ねる場所があっていいはず。うまく価値交換ができるなら、借り手に家賃を決めてもらうのもひとつのコミュニケーションになり得るだろうし。

塚原:家賃は本来そうあるべきですよね。固定資産税・設備資金・運転資金をまかなう収入は確保しつつ、借り手の生産性に合わせて家賃を設定するほうが社会にとっていい。西村さんだけが社会の片隅で儲けずにがんばっていたら苦しいけど、そういう考え方に共感する人が増えれば、巡りめぐって相場が下げられるかもしれない。生きるためのインフラに近い家ってもっと選択肢があったほうがいいから、誰かがそういう“いいダンピング”をやらないと狂った世界は変えられないと思います。

西村:実はシリイケバレーは移転する予定で、僕らが再生した場所の借り手、買い手を探しています。価格は相談ですかね。使いたい人や、西村組の現場に参加したい人がいたら、西村組のホームページからご連絡ください。

西村組
西村周治

1982年生まれ、京都府出身の廃屋建築家。学生時代、兵庫区の稲荷市場にあったボロボロの長屋をDIYで改装してシェアで暮らし始める。以来、廃屋を住みながら直して引っ越すことを繰り返している。30代で一念発起して、有限会社Lusie 神戸R不動産で働いた後に独立。「有機的な建築集団」の西村組を結成、親方となる。https://nishimura-gumi.net/

 

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