DANCEBOX 横堀ふみさんにまつわる4つのこと アートと生活が地続きに展開される街で暮らすこと

2009年に大阪の新世界から新長田に拠点を移し、劇場を運営しながらダンスを主とした多様なアートプロジェクトを展開するNPO法人DANCE BOX。プログラム・ディレクターの横堀ふみさんは、多文化が混在するまち新長田で、地域、歴史、習慣など独自の切り口からプロジェクトを立ち上げています。新長田でベトナム人の夫と3歳の息子と生活し、活動する横堀さんに、この街でプロジェクトを起こすことの面白みや暮らしについてお聞きしました。

文:山口葉亜奈 写真:岩本順平

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「ダンス」を通して浮かび上がる新長田像

新長田は様々な言葉や文化、習慣が混在していて、出会うことのできる町。DANCE BOXが大阪の新世界から新長田に移ってきた9年前は、阪神淡路大震災で大きな打撃を受けた街ということ以外は何も知らなかったんです。だから、「新長田のダンス事情(仮称)」という5カ年のリサーチプログラムを立ち上げ、「新長田で踊る人に会いに行く」をコンセプトに、私たちが日頃取り組んでいる「ダンス」を通して、地域の人と出会いながら街を知ることにしました。稽古場や発表会など、踊りの現場を訪問し、踊り手に話を聞く。なぜ踊るのか、踊りの背景にはどんなルーツがあるのか。リサーチを繰り返すうちに、踊りの根底にある新長田ならではの要素が見えていった気がします。踊りは、それを支える様々な要素、例えば言葉や音楽、食、コミュニティ、場所の特性などが絡み合って形成されるもの。だから、多様なルーツを持つ人たちが暮らし、それぞれの文化や価値観を許容しながら共存しているこの街に、ダンスというものを捉える思考やアイデアの幅を拡げてもらっていますね。すごく貴重な環境だと思います。

地域の中からアートプロジェクトを立ち上げていくこと

2018年に動き出したプロジェクト「新長田アートマフィア」の構成員たち

この街で活動をはじめるまで、地域でプロジェクトを立ち上げるということは、それほど重要な関心事ではありませんでした。だから、大阪に拠点があった時、劇場はアーティストの発表の場で、プロジェクトも地域の枠組みを越えて成立するようなものが多かったんです。でも、この街に来てからは、地域の文脈からプロジェクトが立ち上がっていくことに面白みを感じていて。最初は、地元の人が作品に出演するような、直接的な関わりじゃなく、アーティストが地域に滞在し、制作するレジデンス・プログラムに重きを置いていました。

アーティストたちは滞在中、リサーチやインタビューから地域を知ると共に、この街で生活するので、商店街や銭湯など、日常生活の中で地元の人たちとふれあい、五感で町を感じ、作品に落とし込んでいく。この過程で、私たちもアーティストを通して地元の人たちから話を聞く機会を得たり、生活の場を共にすることで、ダンスという切り口だけでは出会えなかったであろう人たちとの繋がりができていきました。今は面白いことに、アート関係者だけでなく、地域の病院や介護施設、ホームセンター、クライミングジムなど、様々な拠点で働く方々と活動を共にしています。各々のフィールドで新たな状況をつくり出す方ばかり。学ぶことがとても多いです。

多様性を持った街の見えない文脈を紐解く面白さ

筒井潤+新長田ダンス事情「滲むライフ」(2017)下町芸術祭にて上演

プログラムを考える上で、新長田という町がどのような文脈を辿って今ここにあるのかを意識するようにしています。筒井潤+新長田のダンス事情「滲むライフ」という作品のリサーチで、在日コリアンのコミュニティの中に息づいている儀式について探ったのですが、その儀式が今に伝わるまでの背景には、歴史はもちろんのこと、食文化や、食を通した多地域間のつながり等、様々な要素が入り混じっていました。在日コリアンの方や食材店に話を聞いていくと、同じ儀式のことでもそれぞれが違う解釈がされていて、また違った文脈が見えてくるんです。それがおもしろくて。だから昨年、自分の欲求のままに、「習俗とアート夜話 -新長田アジア学-」という勉強会形式の講座を開きました。本を読んで知るよりも、対面で話を聞くことの方がワクワクするし、それぞれのテーマに切実に取り組んで来た専門家のフィルターを通して見る街は、全く違う姿をしているだろうと思ったから。知れば知るほど、気になるところが出てきて、この街への興味が尽きないです。

仕事と生活の場が同じだからこその暮らしやすさ

ベトナムにある夫の実家にて(写真提供:横堀ふみ)

DANCE BOXが新長田に移って来てしばらくは、塩屋で一人暮らしをしていたのですが、ベトナム人の夫と結婚し、長男を授かった3年前に新長田で暮らしはじめました。以前の日々とはガラリと変わり今は息子が中心の生活。だから新長田に越して来て、仕事と生活の場が一緒になった事で、日常的に言葉を交わす人たちがたくさんいて、みんなが息子を見守ってくれているこの環境はすごく心強いです。あと、たくさんのお地蔵さんが子どもたちを見守っているのもこの街のありがたいところ。ベトナム食材店もベトナムコミュニティもあるので、ベトナム出身の夫も安心して暮らせている。住むほどに、私たち家族にとってはすごくピッタリな環境だなと感じています。最近は、今後私たちが暮らしていく「家」をどうするか考えるのがマイブーム。そこでは、日本人とベトナム人がゆるやかに混ざり合う場もつくれたらと願いつつ。公私ともに、ダンスと生活、いろんな事が地続きに混ぜこぜになっていく状況をつくれたらと思いますね。