シタマチ風情が残る長田の海側エリア「駒ヶ林」。そのなかでも、しっとりと落ち着いた雰囲気のある住宅街の一画に、抽象画家 CBA(シーバ)さんのアトリエができました。東京でグラフィックデザインの仕事に20年以上携わった後アーティストに転身し、海外芸術祭への出展、ファッションブランドとのコラボ、さらには映画に精通していない僕でも知っている(しかも好きな)異色邦画のサウンドトラック制作に参加したりとマルチに活躍してきたCBAさんが、なぜ駒ヶ林に? ご本人に会って、根掘り葉掘り伺ってきました。
文:則直建都 写真:岩本順平
アーティストライフを実現するため神戸へ
今年(2020年)の4月中旬に、神奈川の相模原から神戸に引っ越してきました。きっかけになったのは、生活のために画業と並行して携わっていた障がい者支援の仕事を辞めて、画業だけで独立しアーティストとしてのライフを実現したいという考えでした。そうなると、日々の生活費をどうするのかがネックになります。僕の活動スタイルだと、年数回の大きな仕事で暮らしが成り立っているため、日々の支出はできるだけ抑えたい。そのため、行政によるアーティストのための補助を活用しようと考えたんです。神奈川でも補助事業を活用して新しい拠点を探したのですがいい場所が見つからなくて、たまたま実家のある神戸に戻ったタイミングで神戸市の補助事業について聞いてみようと市役所に行ってみました。そこで、「アーティスト・クリエイター等の活動拠点支援事業」のことを教えてもらって、その制度を利用して神戸に拠点を移すことに決めたんです。なので、正直なところ場所はどこでもよかった(笑)海外も考えていましたが、コロナ禍でビザが出にくいということもあって。たまたまというか、縁があったというか、神戸でアーティストとしてのライフを実現させていくことになりました。
生きること、創作活動に制約はいらない
僕が場所にこだわらないのは、僕の創作活動が場所にあまり影響されないからなんです。実際、いま取引が多いのはinstagramから連絡をもらった海外の相手だったりします。そもそもinstagramを作品発表の場にし始めた理由は、僕がギャラリーに所属していない「アウトサイダーアーティスト」だからでした。美術業界では、ギャラリーに所属していないと作品をギャラリーに持っていっても美術界の情報網に引っかからないんです。そんな状況に絶望感を抱きつつinstagramで作品をアップし続けていると、海外から反応があり作品が売れだしました。作品の販売についてアーティストがイニシアチブを握れる今のスタイルを、これからも続けていきたいと思っています。生きることや、創作活動に制約はいらないですよね。ただ、コロナ禍の影響で輸出しにくい状況になったのは想定外のダメージでした。輸出そのものができない国があったり、これまで利用できていた輸送プランが停止してしまったりして困っています。でも、こういった状況もいつか復活すると信じて、今は作品づくりを続けています。
出会いは選べない、だから準備しておく
4月に完成したばかりのこのアトリエは、もともと近くの神社の屋台を納めていた場所だったそうです。土壁とモルタルで造られた古い建物でしたが、作業スペースとして使う1Fを補助金を活用して業者さんに改装してもらいました。賃貸物件に改修費をかけるのはちょっと勇気が必要でしたが、諸々込みで家賃がやっていけそうな範囲に収まる算段がついたので、「ま、いいか!」と決断しました。2Fは予算の都合で手をつけずに物置にしています。そういえば、アトリエが完成した時にご近所さん向けに見学兼展示会を開催したのですが、来てくれたおばちゃんたちがおもしろかったんですよ!作品とか僕の話じゃなくて、自分の家とか地域の話だけして帰っていって(笑)でも、なんとなくこの地域の雰囲気が分かったので開催してよかったです。あと、先日は岩本さんに丸五市場に連れて行ってもらって、地元のクリエーターさんたちともたまたま出会っていい機会になりました。なんとなく、彼らから自分と同じアウトサイダーな匂いを感じて、可能性が広がった気がします。若い頃に感じた「何かを思いつきで始めて、仲間とグルーヴしていく感覚」にまだ夢をみている自分がいるので、いつでも何かを始められるように心の準備はしています。出会いは選べませんからね。
海外のマーケターにも、近所のおばちゃんにも
今後の活動における最大の目標は、まずは自分自身のアーティストとしての生き方をつくり、それを継続させていくことです。引き続き、instagramを活用しながら、海外での展示を増やしていきたいと考えています。来年(2021年)の1月15日〜3月15日には、スペイン・マドリッドにあるフランクミュラーの店舗で展示する予定です。この案件もinstagram経由で、マーケターの方からDMが来ました。僕の作品のような「抽象画」は、言葉・文化を突き抜けてダイレクトに観る人の心に伝わるアートで、具体的でないことに価値があります。例えば、「幸福」を具体的にしていくと、すべての人に当てはまるものではなくなっていきますよね。instagramと相性がいいのも、表現したいものをイメージと色と形だけで届けられるからでしょう。僕の「観た人の気持ちをアゲたい!ハッピーになって欲しい」という想いが、言葉や文化が違っても音楽のように伝わっているのだと思います。ジャズやブルースのように12小節の中でノート(音調)を選ぶように、僕は構成ありきで線やテクスチャを選んでいるので。観賞する人にアートの知識はなくたっていいんです。アトリエ見学に来てくれた近所のおばちゃんも「元気でるわ!」って言ってくれてましたからね(笑)
抽象画家
CBA
1965年大阪府出身。Tokyo Design Academy 卒業。東京で書籍装幀、雑紙、広告等のグラフィックデザイナーを20年以上経験後コラージュ、ペインティング、ドローイング、映像制作を主とした画家としての活動を始める。最近の展示は、グループ展 “ 絵画と音楽 “ at KOMAGOME 1-14cas 2018年7月(山塚EYE、五木田智央、中原昌也、角田純)、Solo Exhibition “裸のコンポジション “ at Cafe 104.5,(2019年4 月~6月)、ドイツ・デュセルドルフ、アートレジデンシー参加(2019年6月)など。セッションベーシストしても過去多くの経験をもち、映画『東京ゾンビ・浅野忠信主演』ではサントラレコーディングに参加。
掲載日 : 2020.12.09