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shitamachi NUDIE vol.35

ニューヤスダヤ店主|藤村勇輝さんにまつわる4つのこと

西出町そのものがカレーのスパイス

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    神戸屈指の賑わいスポット 神戸ハーバーランドから西へ徒歩約5分、海岸線ハーバーランド駅からなら南へ徒歩約10分。そんな神戸の中心街のすぐそばに、西出町というシタマチがあります。神戸の造船・鉄鋼業が今よりもっと盛んだった高度経済成長期に「仕事終わりの一杯」を提供してきたこの町は、シタマチ情緒を好む人の心を掴んで離さないエリアです。今回は、惜しまれつつも閉店した西出町の老舗居酒屋『ヤスダヤ』を居抜いてカレー屋『ニューヤスダヤ』を開店した、藤村勇輝さんにお話を伺いました。

    文:則直建都 写真:岩本順平

     

     

     

    繁華街には出店したくなかった

    この場所は知り合いが教えてくれたんです。「合いそうな場所あるよ」って。それで見にきたら通行人がみんなくわえタバコしてて、「ここや!」って思いました。今どき珍しいですよねこんな場所。でも、そんな人たちが普通に暮らしてる街が気に入ったんです。自分の店を持ちたいなと思いながら大阪のカレー屋で5年くらい働いていてたんですけど、実はその前は神戸のベーカリーで15年くらい働いてたんです。その頃から自分でカレーを作るのが好きだったから、よく北野までスパイスを買いに行ってました。当時はまだ今みたいにスパイスが出回ってなかったけど、神戸では手に入ったんですよね。だから「神戸はいいスパイスが手に入る場所」っていうイメージがあって、それに仕事終わりによく飲み歩いてたから土地勘もあったから、この場所に店を出すのに迷いはなかったですね。とにかく繁華街に出店したくなかったので、ちょうどよかったです。繁華街だと何かと不自由じゃないですか。ちょっと騒がしくしたら近所迷惑が気になるし。でも西出町は、そういう意味で賑やかな店が多いから(笑)

     

     

    思ったよりパンチの効いた街だった

    ここら辺のおじいちゃんおばあちゃんって、カレーを食べたことない人が多いみたいなんですよね。わざわざ三宮までは食べに行かないけど、近所なら「食べてみよか」って人もいるみたいで見ていて楽しいです。でも、ずっとこの店が台湾料理店やと思ってる人もいて「はよラーメンも出してくれ」っていう人もいて謎ですよね(笑) いまでこそパンチの効いた西出町に慣れてきましたけど、いま振り返ってみると開店当初は街に飲み込まれないように必死でした。向かいのコンビニでポテチを買ってきて勝手に飲み会を始める人がいたり、旧ヤスダヤの常連さんが来て「牛すじ作ってくれ」って言ってきたり、朝お店に来たらおじさんが寝てたり。だから「弱気でいると負ける!」と思って、お店の前で知らない人と相撲とったりよく分からんことしてました(笑) でも、そういう人と街の空気感に触れて「自由でいいだな」って思うようになったし、「この街でカレー屋するんだったらおもろいもん作ろう」と思うようになったんです。いわば、パンチの効いた街そのものがカレーのスパイスというか。カレーにも内装にも運営スタイルにも、西出町から受けている影響は大きいと思います。

     

     

    西出町の老舗店は若い店に寛容

    ニューヤスダヤをオープンして1年半くらい経ちますが、西出町には若い人がけっこう住んでるということが分かってきて意外でした。神戸の中でもシタマチ風情が色濃い場所だと思いますけど、三宮にもJR神戸駅にも近いというアクセスの良さもあってか、新築の大きなマンションができたりして新しい人が入って来てるみたいで。そういう感じの若い人も店に来てくれてます。でも、せっかく来店してくれた女子大生の横に、ベロベロに酔っぱらったおじさんがいることもあって。そういう場合は来てくれなくなっちゃいますよね(笑) 僕自身もこの街からしたら新しい人ですけど、最近は知り合いが増えてきて昔から西出町で営業されてるお店さんとも繋がりが生まれてきました。そういったお店さんが、お客さんを回してくれたりするんですよね。もちろん逆もしかりで、ニューヤスダヤが満席の場合は近くのお店さんを紹介しています。こういった店同士の繋がりに入れてくれる懐の深さも、西出町のいいところですね。

     

     

    この街はテーマパーク

    この街でお店をしてる年配の方は、僕たちみたいな世代が店を始めることを好意的に感じてくれてるみたいで、その点は安心しました。実際にオープンに向けて改装している時も、「なんか変なことしてるな〜」と面白がってくれたり、「ヤスダヤを継いでくれてありがとう」と感謝されることもあって。本当に後継だと勘違いしてる人もいたんですけど(笑) 店を継ぐという言葉を聞いた時は、胸がアツくなるのを感じました。そういうこともあって、店名にヤスダヤを残したり、できるだけ店内の雰囲気をそのまま残すようにしています。改装はDIYの予定だったんですけど、ビルオーナーの平井さんが道具を貸してくれたり、知り合いに声をかけてくれていろんな人が手伝ってくれました。作業しに店に行ったら、全然知らない人が作業してくれてたりして(笑) すごく助かりましたし、西出町に住む若い人の繋がりのおもしろさを実感しました。西出町って外から入ってくる人が多いみたいで、平井さんにしても僕にしても、この街を面白がって入ってくるんですよね。街自体がある種のテーマパークというか。だから、ニューヤスダヤはシタマチ感を楽しみにくる人の期待を裏切らない店でありたいですね。

     

    ニューヤスダヤ店主
    藤村勇輝

    大阪出身。神戸のベーカリーに15年、大阪のカレー店に5年勤めて独立。2019年3月に西出町でカレー店「ニューヤスダヤ」をオープン。20年以上の自作カレーのキャリアを集約させたカテゴライズ不可能なスパイスカレー「謎カレー」を中心に、冬場の謎鍋などオリジナリティーのあるメニューを提供している。

    掲載日 : 2020.10.22

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