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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

Shitamachibudie

vol.06

メゾンムラタ|村田圭吾さんにまつわる4つのこと

工場町の商店街だからかなう、地域の人に親しまれるパンづくり

2018.05.10

地下鉄和田岬駅から徒歩2分。自転車や歩いて買いものをする人たちがほどよく行き交い、のどかでどこか懐かしさを感じる笠松商店街に佇むパン屋さん「メゾンムラタ」。店内には、バゲットやカンパーニュなどのハード系から、お惣菜パンや菓子パンまで種類豊富なパンが並んでいて、常にお客さんが出入りしています。「和田岬に店を構えているからこそ、日常の中に存在するパン屋でありたい」。そう語るパン職人村田圭吾さんが作り出すパンは、地域の人たちにおいしさを届け、いつもの暮らしのなかで食べるパンとして親しまれています。

文:岩埼雅美 写真:岩本順平

 

この場所だから完成した、メゾンムラタ独自のパンの味


和田岬は、三菱重工業の工場町で、三菱の城下町ともいわれています。お店には、近所の人たちや、三菱の社員さん、週末にかけては遠方からもお客さんがパンを買いにきてくれていますね。もともと、17歳で神戸の「ビゴの店」で修行して、フランスに渡りパン職人として働いて27歳で日本に戻ってきました。帰国して、フランスから荷物が届く時に住所もなくて。翌日のチラシで見つけたのがこの物件で即決でしたね。和田岬にしたのは、フランスにもついてきてくれた妻が御崎公園出身で「妻のお母さんの自宅まで、自転車で通える範囲のところにしよう」という理由から。その時も「借りてみてだめだったらそのとき考えよう」と、なにごともやってみるのがモットーなんです。「為せば成る。住めば都」ですから。はじめはぼろぼろの半分のスペースだけで、最初の1年半はパン教室をしていて、2年で400人に教えました。それからパン屋をオープンしてちょうど3年になります。工場町というのもあって、土地も安くて、その分できることもある。町の中でのパン屋だったら、家賃のために量も増やしてってなるけど、うちの規模だと無理が生じてしまうし、それならこの土地でできることをしようと、自分たちのできるパンづくりを追求していきました。

 

日常のなかで食べてもらえるパン屋をめざして


和田岬って、三ノ宮のような都会とは、人の多さも求められるものも違います。「街の中のパン屋じゃないなら、どうしようか」と考えたときに「日常で食べてもらえるパン屋になろう」と思って。街中なら特別なパンとして高価なものもあるけれど、500円片手に、子どもも大人も買いにこれるような、手頃でお客さんの手に届くパン屋でありたいと。それで、この土地でやれることと、自分の作りたいものを考えた結果、あんぱんとか、メロンパンとかの下地をハード系にして、お客さんにもハード系のパンに慣れてもらい、パンのレベルもあげて、遠方からもきてもらえる魅力のあるパンを目指しました。その結果、チーズやスパイス、お惣菜など、いろんなバラエティあるパンが生まれています。さらに、10年20年と健康的に長く食べてもらえるように、身体にやさしい小麦粉の品質や材料にもこだわっています。和田岬のいいところって、車通りも少ないんです。うちは、この店舗以外にも外のレストランやホテルにもパンを卸していて配達にいくんですけど、三ノ宮まで15分。東から三ノ宮に行くのと比べて、交通量が少ないので時間もかかりません。神戸駅からこっちは、ずっと空いていますから。10軒まわっても2時間くらい、アクセスがいいのは助かりますよ。

 

この町で起きる様々なことが、モチベーションにつながる

実は、三菱という会社をリスペクトしています。本を読み漁って、三菱の歴史もずっと追っていって、すごく魅力的な会社だなあと。そんな惚れ込んだ三菱の城下町に店を構えていることを、誇らしく感じていますし、社員の人たちがパンを買ってくれるのも嬉しい。今度、MRJという小型飛行機を製造するのですが、飛行機も好きで。彼らが製造している時に「あのパンを食べていたよね」となるかもしれないし、パンによって「歴史の一部に私もなりたい」と思います(笑)。あと、来年ラグビーのW杯が日本にきますが、そばにあるヴィッセル神戸のホームスタジアム「ノエビアスタジアム神戸」も会場になります。そこにもしフランスチームがきたら、無償でバゲットを提供しにいきたい(笑)。さらに、中央区でマンションがどんどん増え、小学校では定員超えをしていて、定員を超えてしまった子どもたちは和田岬の小学校に通う、という案が出ているそうなんです。それを聞いて、もしそうなったら、もっとたくさんの子どもや親御さんにパンを食べてもらえるかもしれないなぁとうれしくなりました。パン作りって、ストイックなだけでは限界があって、基本、ワクワクしていないとだめなんです。お客さんにおいしく食べてもらえるのはもちろん、こうやって町の中でワクワクするパンづくりのモチベーションが生まれるのがいいですね。

 

若い活気が増えつつあるこの町に、さらに人が集まるために


最近は、地下鉄海岸線沿いにいいお店が点在しているので、もっと電車やバスが利用しやすくなってほしいですね。フランスって、中心地からゾーン1、ゾーン2てエリアで分かれていて、エリア内は定期で何回も出入りできるんです。ここも一日乗車券はあるけど電車賃は高いし、来る人が習慣にできるような工夫を期待したいですね。このあたりは、住宅や新しいマンションもできてきて、お年寄りも増えているけど、あたらしい人が入ってきている感じがありますよ。商店街だと、近所の「カルチア食堂」がおもしろくって。ビル1棟をまるごと借りて、1階で食堂をやって、他の階に人が移住してきたりアトリエにしたり。土地が安いここだからできることだし、若い人の活気を感じますよね。自分も、商店街でパン食べられるような場所が作れたらいいなあ。と思っています。この辺りは定食屋さんが多いので、三菱の社員さんや子連れのお母さんたちが、ほっと一息ついてゆっくりパンを食べられるようなお店ができたらもっと喜んでもらえるかなと。そんな場所を作るのが、いまの目標ですね。

MAISON MURATA | パン職人
村田圭吾さん

福井県育ち。15歳からパン職人としての道に入り、17歳で神戸「ビゴの店」で修行し、22歳フランスに渡りシェフ・ブーランジェとなり、27歳で帰国。和田岬で2年間パン教室をして400人に教えたのち、2015年「メゾンムラタ」を開業。

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