NPO法人芸法 小國陽佑さんにまつわる4つのこと コミュニティの中だからこそ生まれる芸術と、その力

駒ヶ林駅から徒歩7分。どこか懐かしさを感じる入り組んだ細い路地を抜けた先にある古民家「角野邸」。築80年以上の歴史を持つ和洋折衷の近代建築で、2階からは長田港が一望できます。ここは、アートディレクターである小國陽佑さんの住居でありながら、芸術作品の展示や交流会、ダンス公演、映画の撮影など、幅広く地域とアーティストを繋ぐ場となっています。若手アーティストの支援とまちの活性化を目指す「NPO法人芸法(以下、芸法)」の代表を務めている小國さんに、駒ヶ林を中心とした新長田エリアで行っている芸術と地域のかかわりについてお聞きしました。

文:高木晴香 写真:岩本順平


アーティストを支えるアーティストになる


僕はNPO法人芸法の代表として、この町を拠点にまちづくり活動への参加や公共芸術(※)の制作を通した若手アーティストの活動支援を行なっています。僕はもともと大学で油絵を専攻していて、作家として活動していました。だけど油絵をしているとすごく手肌が荒れて、描くのが億劫になってしまって。だから大学院ではデザインの勉強をしながら、同じ院の先輩の助手として働いていました。先輩は、アートを通じた教育活動をされていて、子どもと一緒に作品制作をする機会が多かったんです。例えば大阪の此花区の事業では、難波津焼という陶板焼きの伝統技法を子どもや地域の方と数十回に渡るワークショップで学びながら陶板制作を行い、最終的にはできた陶板を使って一つの壁画作品を作りました。絵を描くことから長らく離れていましたが、僕が直接描かなくとも、多くの人と交流し共同制作することで作品を産むことができる。そのことに気づいて将来の芸術活動に活路が見えた気がしました。このような経験から、人との交流で生まれる芸術の魅力に引き込まれて、公共芸術(※)やコミュニティアート(※)に興味を持つようになったんです。

(※)公共芸術:美術館やギャラリー以外の、道路や公園などの公的なスペースに設置される芸術作品
コミュニティアート:アーティストや地域住民が協力して芸術作品を作ることで、コミュニティの課題を解決し、新たな価値を生み出す活動

持続的で地域に踏み込んだアート

僕が角野邸に住みながら活動し始めて、5年が経ちます。その前はレンタルギャラリーなどを借りて、若手アーティストの作品展示の支援をしていました。でも、何の脈絡もない場所に作品を飾って、展示期間が終われば跡形もなく片付けることに違和感があったんです。だったら、持続的で場所の特性を生かした芸術を生み出すためにアーティストが地域に入り込みやすい仕組みを作りたいと思いました。そう考えていた時に、ふたば学舎(※当時は地域人材支援センター)で開催された「まちの文化祭」というイベントで、長田区のまちづくり課の方にこの角野邸を紹介していただいて。所有者の角野一平さんは芸術に理解のある方で、活動を応援してくださったんです。そこから、この地域に腰を据えた芸術活動が始まりました。
このまちならではの芸法の活動として、駒ヶ林にある建築事務所「スタヂオ・カタリスト」と協働での「まちなか防災空地」(※)の利活用があります。神戸市内にはこのような防災を目的とした空地がいくつかありますが、せっかく新たに作るなら長田独自のものを提案してほしいと依頼されまして。そこで、交流を促す現代芸術の思想を取り入れた、誰でも書きこめる黒板を空地の床や壁面に設置しました。黒板には、災害時に伝言を残せるように、という意図も込めています。また、制作にあたり、駒ヶ林の方や福祉事業型専攻科「エコールKOBE」の生徒さん、地元の高校生たちと塗装ワークショップも行いました。

(※)まちなか防災空地:まちなか防災空地:密集市街地で火災などの延焼を防止するスペースを確保することを目的に計画された場所。災害時は避難場所として、平時はコミュニティの場として利用する空地

同じ場所で、同じ人と、複数の関係性を持つこと

地域に入り込んで活動していると、周りの人との関係性が一つではなくなってきますね。例えば、仕事仲間であり、ご近所さんであり、友達でもある。同じ人と複数の関係性を共有できるのは、住んでいる場所で仕事をする人の特権だと思います。仕事とプライベートが、どんどん芯で繋がっていく感じがしますね。仕事仲間として「ちゃんとやらなあかんで」と互いに言いながらも、友人として温かく見守ってくれる距離感が心地いいです。この町で仕事していると、仕事仲間が寝間着やつっかけで打ち合わせに来たりするんですけど、スーツを着てきっちりやった会議よりも、良いアイデアが浮かぶことも多いです。
ただ、このまちに自分が依存しすぎると「このまちでやっているからこそ」という自負が強くなり、その考えにとらわれて自由な発想が生まれにくくなるのではないかと思っています。だから、この町以外の仕事もあることでいい塩梅になって、ここでの活動を客観視できるんじゃないかと思ってます。まちと自分のちょうどいい距離感を保つために、仕事の在り方は自分なりに調節するようにしていますね。

表現が生まれる場所を創り出し、長田らしさを可視化する

最近は芸術作品ができる過程に興味があります。現在、大正筋商店街のアーケードの上空に「はりぼて」を吊るす企画を行なっています。この企画では、教室を開いて、アーティストと地域の方で一緒にはりぼてを作っていて。制作の過程で、今まで交わることのなかった芸術家と地域住民たちがコミュニケーションを取ることで、まちのコミュニティが刺激される。アーティストたちも地域の方と対話しながら制作するからこそ、そこでしか生み出せない斬新な表現に繋げることができるんです。いろんな人との関係性の中で、その地域独自の作品が生まれる。アーティストも、今までアートにゆかりのなかった人も、一緒になって表現できる場所を作り、それぞれの作品を同じ場所に同居させ、自分たちの自由な在り方を表明する。それによって、文化や背景が違っていても、多様な人が共生する長田らしさを視覚的に表現したいと思っています。今年の8月から、大正筋商店街に展示する予定なのでたくさんの人に見てもらえると嬉しいですね。またこの秋は、2015年から取り組んでいる下町芸術祭が3回目の会期を迎えます。そこでは、多様な人が共生する神戸・長田にゆかりの深いアーティストの作品展示を企画しています。多様であり個人の意見や主義を尊重するまち長田で、この場所でしかできない芸術活動をこれからも進めていきたいと思っています。