下町ケミストリー vol.03
下町芸術祭↔神戸六甲ミーツ・アートbeyond
神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond テクニカルディレクター
合田昌宏 | 合同会社 r3
神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond キュレーター
小國陽佑 |特定非営利活動法人 芸法
ひとりの視点から街や取り組みを語るのではなく、対談を通して、地域や取り組みの中にひそむ多面的な魅力を探る座談企画「シタマチケミストリー」。
今回は、過去最大規模で開催中の『神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond』に携わる2人にして、シタマチ観点でいえば、阪神・淡路大震災から20年を迎えた2015年に始動、これまでに5度開催してきた『下町芸術祭』にも深く関わる2人が登場。話題は、2人の立場から見えた神戸六甲ミーツ・アートの気になる作品のことを中心に、最後はシタマチの話まで。
普段の仕事と六甲ミーツ・アートでの役割
小國 今回の『神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond』(以降、ミーツアート)では外部キュレーターとして、4人アーティストのキュレーションを担当しています。今回のミーツアートには何人ものキュレーターが関わっていて、うち外部キュレーターとして参加しているのが僕もふくめて3人います。
合田 普段の仕事も紹介しておいたほうがいいんちゃう?
小國 そうですね。普段は神戸の新長田を拠点にして、隔年開催の『下町芸術祭』の代表とディレクターを務めていて、ほかにも朝来市の『生野ルートダルジャン芸術祭』や、過去に奈良の『学園前アートフェスタ』といった地域アートや芸術祭と呼ばれるようなアートプロジェクトのディレクターを務めています。
合田 僕はそもそも設計の仕事をしてきたんですけど、自分の設計したものをうまく人に伝えるのが下手くそなので、もう自分で作っちゃえということで工務店的に動くことが増えてきて、いろんな現場に関わっています。
小國 かなりの数やってますよね。
合田 まあまあの数、800件とかかな。大きな工務店の仕事を部分的に手伝ったり、建築家の人とコラボでやったり、現代アートも含めたモノづくりのお手伝いをしたり、いろいろやっているうちに経験ばかり増えちゃって、難工事専門みたいな感じになってきて…。ミーツアートではこれまでも一作家さんのお手伝いをしたり、困り事が発生したときに呼ばれる外部施工チームみたいな感じで関わってたんですけど、今年からテクニカルディレクターという肩書きで正式にクレジットされました。
小國 でも、それって結構大事なことだと僕は思っていて、たまに拝見する芸術祭では、作品の設置にまつわる部分をアーティスト同士が手弁当で助け合いながらやっているのも実情で、精神性としては素敵なことである反面、自身の制作に集中するという点ではあまり健全なことじゃないと思ってたんです。アーティストのボランティア精神に委ねてる部分が多すぎるというのかな。だから、プロの観点で作品設置や施工ができる合田さんがオフィシャルな肩書きでアーティストのサポートをしているというのは、芸術祭全般においてもいいことだと思いました。
合田 ありがとうございます(笑)。
小國 アーティストが自身の制作費の中で、かつDIY的に作品設置までやらなければいけないってなると、たぶん制作にもいろんな制限が生まれてしまうので、合田さんの役割はほんとに大事ですよ。作品本体や設置方法などの強度を担保するという点においても、合田さんがいることでの安心感が強いと思います。
トレイルエリアに展示された西野達さんの作品《自分の顔も思い出せやしない》は、かつてあった竹中茶屋を発報スチロールで再現するというもの。その小屋裏にあった大量の廃棄物をほどよく整えたりするのも合田さんチームの仕事。
その西野達作品とドライブウェイを挟んだ場所に展示されているのが、松田修さんの「六甲おろし」をおろさないようにする作品《六甲おろさない》。実はかなりの斜面地に設置されていて、いかに単管パイプを組んで、電力をとりまわすかといったことも、作家と相談しながらのテクニカルディレクターの役割。
2人が見た六甲山での芸術祭
小國 今回のミーツアートでは、「トレイルエリア」と呼ばれる登山道にも展示が広がっていて、森のいたるところに作品が潜んでいるので、鑑賞者が作品を探し見つける楽しさを体感できます。作品鑑賞に伴って六甲山の自然や魅力を感じるきっかけにもなるので、とてもいいなと思っているのですが、逆に地面の起伏も激しかったり道幅が狭かったりして、テクニカルな面ではかなり大変なことも多かったのでは。
合田 そうやね。たとえば、まったく車が入っていけない登山道の奥で、小屋を建てるからその基礎となるコンクリートを打ちたいという話があって、セメントに砂、砂利を合わせて250袋を人力で運んだりとか、電信柱みたいな円筒状のコンクリートを用いる作品もあって、それもやっぱりコンクリートの重量は1トンくらいにはなってました。
小國 人力で!?
合田 生コン車でポンプアップできる場所ならいいけど、そうはいかない場所なのですべて人力で運んで、手で練ってという作業になってました。
小國 作品の素材や土台だったりするので、なんとなく展示を見ているだけでは気づかないような部分ですよね。それでいえば「風の教会エリア」で展示している鈴木将弘さんは、淡路島から土を運んできて、六甲の土と混ぜ合わせて、版築の技法で土の塔のような作品を制作されたんですが、展示する土地に円を描く際に自身で作った伐採樹木とフジのツルを使って円を描いていたり、土は背負い子型台車で運んだり、なるべく自身の身体を使って制作される作家さんでした。
合田 六甲山芸術センターでは鈴木さんの制作ドキュメント映像も上映されていて。
小國 そう、作品の理解が深まる映像でいいですよね。プロセスにこだわる作家さんも多いので、そこまで伝わると、より作品を楽しむことができますよね。僕がキュレーションを担当した作家でいえば、小畑亮平さんは六甲山芸術センターの小さな3部屋で展示していますけど、六甲山に不法投棄されている容器を素材にされていて、その制作ために会期3か月前からかなりの頻度でリサーチされていました。
合田 制作プロセスという点では、「ROKKO森の音ミュージアム」で展示しているいくらまりえさんは、ガーデンの散策路のデッキのような場所にアトリエを構えて、そこで会期中に描いた作品をどんどん展示に反映している。
小國 ミーツアートの広報ビジュアルにも使われている作品ですね。
合田 そう。そうやって会期中に作品が更新されていくのも面白いし、風の通る散策路に作品を吊って、風になびくような展示になっていて。そうやって土や風や光といった自然の環境をうまく採り入れた作品も多いなと感じます。
小國 そうですね。僕がキュレーションを担当した作家さんでいえば、URBAN KNIT(兼平翔太)さんは、兵庫県の県鳥であるコウノトリの羽をモチーフした作品で、ちょっとしたそよ風もキャッチして揺らぐような作品です。ミーツアートのような自然環境のなかで作品を展示するときに、あえて繊細な作品を持ってこられるとやっぱり印象に残りますね。
合田 3か月の開催期間中、ちゃんと維持できるのかという問題もあって、養生の加減とかも難しいけど。
小國 ですよね。ここは補強したくない、養生したくないといった、作家さんごとの要望もありますし。ただ、8月末は大変でした…。
合田 会期がスタートして1週間で大型台風直撃の予報で。作品の一部を避難させたり養生を強化したりと対応に追われました。会期がスタートしてからの作品を見守る期間も意外と大事なんです。
のんさんに負けじと制作!?
合田 小國さんといえば、のんさんのキュレーション担当も。どういうつながりでしたっけ。
小國 俳優でアーティストののんさんは、2023年に朝来市での『生野ルートダルジャン芸術祭』が共催した企画で展示いただいたんですけど、そこで歴史的な建造物と自身の作品を組み合わせることの意味や相乗的な効果をとてもよく考えておられるなと感じて。いい機会があればぜひまたということでしたので、今回のミーツアートでは「ROKKO森の音ミュージアム」での展示をお願いしました。
合田 なかなかドキッとするようなセクシーさも感じる作品で、一緒に見てまわったうちの子どもたちも大喜びというか、かなり反応してました。
小國 リボンをモチーフや素材にした作品制作を4年くらい続けられています。今回は、西洋的な要素の強いオルゴールミュージアムという会場に対して、あえて福島の赤ベこやこけしといった民芸品にリボンをまとわせた作品も配置されています。これはのんさんだけに限った話ではないですけど、場所の歴史や性質、雰囲気を考慮して空間全体を生かした展示を行って、新たに表現の幅を広げている作家さんも多いですね。
合田 ミーツアートをいい機会と捉えてね。
小國 ちなみに来年は、下町芸術祭の開催年にあたるので、今回のミーツアートでの経験を経て、挑戦してみたいと考えていることがひとつあるんです。実施できるかはわからないのですが。
合田 なになに?
小國 これまでの下町芸術祭は屋内での展示が多めで、それは僕の個人的な感覚として、古民家や歴史的建造物といった、重層的な歴史を感じられるような場所を使うのが芸術祭の醍醐味のひとつだと思っているところがあって。あと、2017年の下町芸術祭は初日に台風直撃という苦い経験もあって、屋外展示にちょっと消極的になってたんです。けど、せっかく下町芸術祭にこそ合田さんがいてくれるわけだから、もうちょっと屋外展示に挑戦してもいいのかなって、今回で勇気づけられるところがありました。
合田 確かにね。それでいえば、下町ならではの空間や素材とかももっと活用してほしいし、作家さんにはもっと長く下町に滞在してもらって、街の人とも関わりながら制作してもらえたらいいんちゃうかな。
小國 ですよね。下町芸術祭としてそれにどう関わるかはわかりませんが、来年は震災30年の節目でもあるので。
合田 2025年は、新長田の下町も含めた神戸市全体の復興事業が一区切りという年。
小國 下町芸術祭は「震災復興からの脱却」というワードを初回から使っていて、神戸の新長田といえば、どうしても震災というキーワードで連想されることが多いのですが、それ以外のマイノリティの問題や課題にも目線を向ける重要性についても、芸術祭を通じて伝えてきたことかなと思っています。…ところで、合田さん自身が作品をつくるって可能性はない?
合田 実はいつかそっちもチャレンジしたいと思っていて。けど、自分で手を動かすと小さくまとまっちゃうんよ。僕がアイデア出して小國さんにつくってもらうとか?
小國 僕が手を動かすと、間違いなくぐっちゃぐちゃなものしかできませんよ(笑)。
掲載日 : 2024.10.11