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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

Shitamachibudie

vol.02

北の椅子と|服部真貴さんにまつわる4つのこと

カフェがあることで広がる、地域とのつながり

2018.03.26

和田岬駅から徒歩8分。兵庫運河とJR和田岬線が交差し、メイン通りから少し奥まった場所にある「北の椅子と」。もともとは木材の製材所で、店内にはその面影がたくさん残っています。1Fには、北欧のビンテージ家具を扱う広いショップ、2階にはカフェと生活雑貨のショップ。カフェがあることで、気軽に立ち寄ることができて、人とのつながりがうまれていく。地域の人々が集う、ちょっとした拠点になっています。

文:山森彩 写真:岩本順平

 

久しぶりに帰ったら、町の印象が変わっていた

このあたりは、製粉所や製糖所、材木屋が立ち並んでいたエリア。この場所も、もともとは実家が営む材木屋の製材所だったんです。今は、弟が家業を継いで4代目。でも、町なかの製材所の機能はもうニーズがなくて、今は建設資材を幅広く取り扱っています。私は、このお店の裏にある自宅に夫と息子と3人で暮らし、夫と2人で実家の家業とは別で「北の椅子と」を経営しています。この場所は、幼い頃、遊びに来ていた程度で、ここで生まれ育ったわけではないんです。だから、ここに暮らし、商売をはじめるなんてまったく想像していなかった。移住してくる前は、「和田岬に暮らすなんて、いやや」と思っていたくらい。だって、製材所で働く職人さんは荒々しくて怖かったし、運河も臭くて汚くて…そういう記憶があったから。でも、久しぶりに来たら、運河に魚が泳いでるやん!ってびっくりして。ノエビアスタジアムには広い芝生の公園があるし、意外と高い建物がないからぽっかりひらけてる。昔はたくさんいた威勢のいい酔っ払いのおっちゃんたちも、もうおじいちゃんになっていて。田舎で家庭を持とうと思っていたけど、自分たちで自宅も改装できるし、ここなら住めるなぁって。

 

家業は継がなかったけど、この場所は残したかった

もともとは、夫が北欧のビンテージ家具を扱う輸入の仕事をしていたんです。その延長でできたのが、「北の椅子と」。卸専門だったのですが、だんだんと、ビンテージの品を集めるのがむずかしい時代になりつつあったこと、お客さまに直接いろんな気持ちを届けながら販売するためには、店舗が必要かなぁと。場所が広くないと家具屋さんはできないから、最初は、神戸から近い、三田や明石で場所を探していたんです。でも、ちょうどその頃、弟が「製材の仕事、そんなにないから、あそこ(製材所)どうしようかな」と言ってきて。私は、家業を継がずにいったん外に出た人間だし、候補として考えていなかったんだけど、「思い入れのある場所が、なくなるのはいやや!」と思って。ちょっと、憧れの場所だったんですよね。子どもの頃は、危ないから工場には入れてもらえなくて、大人になって入ってみたら昭和のにおいがしてかっこいいなぁって。そういう気持ちを夫に打ち明けたら、「だったら、ここ借りたらいいやん」という話になって。商売をするには、実家との距離感がむずかしいって思ったんだけど、子育てしながら仕事をするなら、周りが助けてくれる環境はいいよねと、ここに決めたんです。

 

地域の人たちが気軽に立ち寄れる場所

地域に開くなら、カフェは必要だと思っていたんです。北欧ビンテージって、地元の人たちからしたらニッチな商売で、何をやっているのか分かりづらいから、気軽に入れる場が必要だなって。初めは、パソコン仕事をしながらのんびりお茶出したらいいわと、一人でお店を切り盛りしてました。でも、父と弟があちこちで宣伝してくれたみたいで、オープンしたら思いのほか近所の人がたくさん来てくれて、一人では手に負えなくなっちゃった。町の人たちが来てくれたのは、うれしかったなぁ。今でも、自治会や婦人会の方が「会議に使わせてもらっていいですか?」と気軽に使ってくれるのは、ありがたいことです。キッズスペースがあるのもいいみたいで、お客さんが気さくに声かけあっている姿をよくみかけます。あと、家に友だちが遊びに来たときに料理を出す感覚で、いい食材を使うようにしています。買い出しには、須磨のナナファームとか、三宮で開催しているファーマーズマーケットに出かけたり。自転車なら、三宮まで20分くらい。でも、カフェの経営だけだったら、コスト的にそんなわけにはいかなかったかも。物販があるから、補いあえる。

 

人が集い、つながりを生み続けるお店

息子は、生まれたときからここで育って。通っていた児童館でできた友だちもいるけど、松原通にあるちびくろ保育園に通っていた頃のつながりが多いですね。息子は今、私立の学校に通っているんだけど、今でも小さい頃一緒に遊んでいた親子が、カフェに立ち寄って近況報告してくれたり。このカフェがなかったら、ご近所のウズラボさんとかマルナカ工作所さんとか、地域のみんなとの繋がりもなかったんじゃないかな。ご飯を食べに来てくれたり、お茶を飲みに顔を出してくれて、ちょっとずつ話す時間があったから、みんなと仲良くなって。ここをオープンしてほんとよかったなって思います。今では、完全にお店が私の生活の軸になってると思う。ちなみにここの職場は女性ばっかり。家具を運ぶのも、リペアを手がけるのも全部女性です。大阪にできた2号店も、夫の下で働いていた子が暖簾わけしてできたんです。またひとつ、子どもを産み落とした感じかなぁ。うちのお店は、広いけど事業の規模が大きいわけじゃないから、みんながいろんな仕事を兼務しています。ここは、ひとつの家みたいなものだから。

北の椅子と | 北欧ヴィンテージ屋
服部真貴さん

神戸市須磨区で生まれ育ち、保育士、雑貨店の販売員を経験。5年前、もともと輸入業を営んでいた夫とともに「北の椅子と」オープン。店舗裏の建物を自分たちで改装し、7歳の息子と、16歳のおじいちゃんビーグルと暮らしている。

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