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下町くらし不動産 vol.25

本と映画、哲学が交わる場所

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リノベーションされた空き家や空き地に伺ってレポートする「下町くらし不動産」。
今回は、2024年10月に長田区にオープンした「本屋ロカンタン」をご紹介。新刊を中心に映画や哲学、芸術に関する本を取り揃えているこの書店の店主、萩野亮(はぎの りょう)さんに、下町エリアで新たに本屋を開くことになった経緯などお話を伺いました。

 

西荻窪から神戸へ、本屋再スタートの理由

神戸市営地下鉄海岸線「駒ヶ林」駅から歩いて向かうこと約10分。住宅街の中に看板が見えてくる「本屋ロカンタン」。店主の萩野さんは、2020年から2023年まで東京・西荻窪で本屋を営んでいましたが、コロナ禍の影響など経営の厳しさから店を畳み、関西へ拠点を移すことを決めたそう。
「西荻窪のお店は、いまと同様に新刊を中心に扱うスタイルでやっていました。でも、コロナ禍と物価高の影響で経営が難しくなって、2023年の1月に閉店したんです。ちょうど、マスクをつけだす頃にお店をあけて、マスクを外す頃に店を閉めたという感じでした。その年の暮れに家族のこともあり、関西に戻ることを考え始めたんです」
最初は大阪や京都で店舗と住居を兼ねられる物件を探していたものの、なかなかピンとくる場所が見つからず、思い切って神戸に目を向けたといいます。
「実は神戸に来たのは去年が初めてで、地縁も血縁も知識も全くなかったんです。でも、調べるうちに気候が穏やかで、海も山もあるし、街の利便性も捨てがたい中、神戸はちょうどいいなと感じました。それで物件を探し始めて、神戸R不動産というサイトでこの物件を見つけました。見つけたときはピンとこなかったんですよね。新長田や駒ヶ林って一体どこなんだろうって。ただ不動産を決めるときって、賃料や立地、間取りとか何かを諦めないといけない。それを比べている中で、だんだんこの物件がいいんじゃないかとなっていきました。近くに神戸映画資料館があるというのも決め手の一つでしたね」

萩野さんが本屋を開くきっかけとなった本たち

本と映画、哲学を軸にしたセレクト

映画や哲学、芸術に関する本が多く並ぶ店内。一部、古本も扱っていますが、古本は萩野さん自身の蔵書とのこと。小説よりも、評論やノンフィクションに重点を置いたラインナップが特徴です。
「小説はあまり読まなくなりましたね。映画評論を書き始めてから、どうも集中できなくなってしまって。今は哲学書や研究書を読むことが多いです。特に最近は動物の権利や障害者の権利について関心があって、それに関連する本も仕入れています」
書店の一角には、一般的な流通ルートには乗らないリトルプレスや自主出版の本も並んでおり、東京時代から書き手たちが直接営業に来ることも多いのだとか。
「文学フリマなどでリトルプレスやZINEを出品されている方がかなり増えているので、全ては受けられないのですが、この本屋だったら合うんじゃないか、この本屋だからこそ置いてほしい、と書き手の方から直接ご連絡いただいて置いている本がほとんどです」

再開発エリアから高取方向に歩いてくると見えてくる

この幕がお店の目印

本屋が街に必要な理由

「本屋ロカンタン」は、ただ本を売るだけの場所ではなく、訪れた人が考えを深める場でありたいと語る萩野さん。
「本屋って特殊な空間ですよね。ふらっと来て、何時間でもいられる。しかも、売っている商品を自由に手に取れる。喫茶店でコーヒー1杯頼んでスマホを見るのとは違って、本屋では目の前にある本を通して、自分が今何に興味があるのかを知ることができる。本屋の本棚は世界に開かれた窓であり、同時に自分自身を映し出す鏡でもあると思います」
また、本屋の本棚には時代の流れを映し出す役割もあるという。
「例えば、新刊のコーナーを見れば、今世界で何が起きているのかがわかる。パレスチナやウクライナの情勢、ジェンダー問題など、今まさに議論されているテーマが反映されているんです。本屋は、そういった社会の動きを知る場でもあるし、訪れる人が自分自身と向き合う場所でもある。そういう意味で、本屋は街に必要な存在だと思っています」

今、萩野さんがおすすめの本、その1「新・動物の解放」

今、萩野さんがおすすめの本、その2「荷を引く獣たち」

新長田という街で、本屋を営むということ

人通りが多いとは言えない路地に店を構えているロカンタン。でも、その周囲はシタマチコウベでも取材をしてきた「柳谷縫務店」などがオープンし、下町芸術祭やオープンファクトリーが開催されるなど、若手のクリエイターやアーティストが増えてきているエリアです。萩野さんもその文化的な側面を魅力に感じ、お店を開けて意外な驚きもあったそうです。
「物件を検討していたときに、新長田というエリアを調べてみたら、神戸映画資料館さんがすぐそばにあると知りました。東京で映画批評を書く仕事をしていて、神戸映画資料館の特集上映のラインナップは嫉妬するほど魅力的だったんです。その映画資料館のある町だったら文化的にもいいんじゃないかって。この町で本屋をするイメージが一気に湧いてきました。実際、開店し最初に売れたのはスーザン・ソンタグの『ラディカルな意志のスタイルズ』という批評書でした。この本は、東京でもそう簡単に売れる本じゃなかったので、驚きました。若い女性が買ってくれたんですけど、同じ日に町田康さんのエッセイを買ってくれた地元のおばちゃんがいて、流行りのベストセラーを買うというよりは、自分が本当に読みたい本を選んでいる人が多い印象で手応えを感じたんです。オープン後のこの数ヶ月で、その手応えみたいなものが日々、実感に変わっています」

新長田でのゆっくりした午後を過ごす際にはおすすめのスポット。コーヒーもぜひ。

オープン後、早くも地域の文化を支える拠点となっていることが伺えた取材でした。店内では、コーヒーを飲みながらゆっくり本を選ぶこともできます。ロカンタンの本棚を眺めながら、世界や自分自身に向き合う、豊かなひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。
ちなみに、この場所との出会いは「神戸R不動産」という魅力的な物件を紹介している不動産サイトとのこと。物件をお探しの方はぜひご覧ください。
https://www.realkobeestate.jp/

掲載日 : 2025.03.07

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