• twitter
  • Instagram
  • facebook

神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

下町くらし不動産

2週間足らずでオープンした、鳥を探す古着屋

2021.10.27

リノベーションされた空き家や空きビルに伺い、どのような場所に生まれ変わったのかをリポートする不動産コラム。第8弾は、20211月にオープンした古着屋「LOST BIRD」。市営地下鉄海岸線の和田岬駅から2分ほど歩き、辿り着いたビルの1階には「釣具屋」の看板。中に入れば、古今東西の服や雑貨に目移り。店主の坂本大熙(ひろき)さん(下写真・左)と村上竜一さん(下写真・右)に、お店づくりや取り扱っているアイテムについてお話を伺いました。

*こちらの物件には「釣具屋」から「LOST BIRD」に至るまでの間にも、リノベーションのストーリーがあります。詳しくは、TONARI DESIGN増井勇二さんの記事をご覧ください。

みんなの遊び場を作る

坂本:LOST BIRDは「鳥を探す服屋」というテーマでやっています。この建物から鳥がいなくなってしまって、その鳥が好きな服や雑貨、ガラクタを集めながら探しています。そもそものきっかけは、三宮の街中に張り出されていたペット捜索願のこちらのポスターで。

村上:普通は「鳥を探しています」とかじゃないですか。そうではなくて「LOST BIRD」。街のあちこちにあって、その響きとデザインが印象に残っていたんです。

坂本:ちょうどその頃は2人とも仕事を失っていた時期で、大学の先輩である建築士の西村周治さんの現場を手伝っていて。昼休憩のときに「小遣い稼ぎでTシャツでも作ろうか。あの鳥のポスター、ストリートのグラフィックデザインとして秀逸やから、デザインに落とし込んでみよう」と話していました。

村上:西村さんにそう話したら、「物件用意するから、服屋やってよ」と言われて。それが昨年の12月24日。4日後の28日に前の住人が退去するから、今年の1月10日オープンにしようということになって……。

坂本:準備期間が2週間もない(笑)。とにかく服をかき集めて間に合わせました。ちなみにここがオープンする直前に、垂水区塩屋町に「heso.」という複合施設ができるからそこでお店をやらないかとシオヤチョコレートさんに誘われて、これ以上失うものは何もない2人なのでそちらもオープンすることに。ニートがいきなり2つのお店を開くってめっちゃおもろいやん、となって。もともとは、Tシャツを作りたかっただけなんですけどね。

村上:和田岬のお店は、スケルトンの状態での引き渡しだったので、解体や撤去などはほとんど行っていません。壁にあった木製の棚をバキッと外したくらいかな。

坂本:何でもできる空間で自由度が高い、というのが最初の印象でしたね。“内”でもあるし、玄関の扉を開放していたら“外”の一部にもなるというか。でも、冬に扉を開けてたら寒いからよく鍋をしていて。そしたら「何やってるんやろ?」ってのぞく人がいたり、和田岬の知り合いが聞きつけて集まってきたり。自転車屋PORTの川ちゃん(店主・川崎貴之さん)は仕事終わりに来て、軽く飲むつもりが気づいたらいつも真夜中。

村上:和田岬の先輩たちもよく遊びに来てくれます。一緒にごはんを食べたり、話したりして楽しくなってくると、帰り際に「これええやん!」って気持ちよく服を買ってくれるなんてことも。毎週企画しているイベント目当ての人たちもいます。展示経験がない若い人をつかまえて、ここでしてみたい展示をゼロからサポートする「0展(れいてん)」というイベントに、出展者の友だちが遊びに来てお店のことを知ってくれることもあります。

坂本:小さい頃って道端の石ころが遊び道具になったし、木があれば登ったし、どんな場所だろうと楽しんでましたよね。まずは僕らがこの秘密基地で遊ぶから、今後はほかの人も企画して遊んでほしいです。

村上:企画でもいいし、一緒にバーベキューするだけでもいい。この空間に出入りする人が増えれば、客層の幅も広がってもっとおもしろくなると思います。


置くもので、店は変わる

がらんとした空間を、2週間足らずで古着屋に仕上げた坂本さんと村上さん。リノベーション物件をお店にするうえで大切なことは“何を置くか”だと話します。古着にかぎらず、お店を形づくっているキーアイテムをご紹介します。

【古着のセレクト】
買い付けは2人で行う。仕入れ先を尋ねると「鳥が運んできてくれる」との回答。坂本さんは、ふざけたものもかっこいいものもまんべんなく集めて、“100着あれば1着はハマるものがある”店を目指す。村上さんは、おじさんが着そうなチェックなど地味な色合いで“ギリギリ”のラインを攻める服が好み。オーセンティック(奇抜ではない正統派)、ベーシックなデザインをよく選び、店としてセレクトのバランスがよく取れている。

【オリジナルアイテム】
右写真は「FLASH LIGHT × LOST BIRD / Long Sleeve Tee / White」。オリジナルのTシャツ作りから始まり、アパレルブランドとのコラボアイテムや、ヴィンテージシャツのB品やC品を藍染めした商品なども制作。

【納豆ブランド「ネバネバビーン」】
納豆が好きで始まった納豆アパレルブランド。ファッション誌の編集経験を持つ村上さんが立ち上げ、納豆の商品ロゴをプリントしたシャツや納豆パックの形をした皿など、アイテムを次々と展開している。LOST BIRDはブランド直営店。左写真の長袖Tシャツは、710(なっとう)年に建てられた平城京を含む7つの塔が描かれたデザイン。

【木製ラック】
お店のオープンまで時間がないなか、知人に頼んでデザインから納品まで2日間で行ってもらった。毎週行われるイベントに合わせて移動しやすいように作られており、解体して持ち運びもしやすい。ラックの位置など店舗空間の使い方は2人で話し合い、流動的に決めていく。

【店内の鳥たち】
お店には、知人友人からもらう鳥グッズが並ぶ。鳥を探すというコンセプトがよく認知されているのか、鳥の写真とともに発見報告が2人によく届くそう。今後も鳥にまつわるアイテムを集めて、グッズも制作していきたいという。

 

リノベーションに興味がある人へ

坂本:場所とやる気さえあれば、2週間でもお店は始められます。僕らは生活がかかっていて追い込まれていたのもあるけど……(笑)。初めから完成を求めてしまったら、リノベーションって難しくなるかもしれません。ここはいつでも空間をリセットして新しいことができるような、透明な場所でありたいなって思います。

村上:お店は置くもので決まる気がします。立地やサイズが決まっている空間のなかで、何をどう置くか。自分の家みたいに、置いてみてイメージと違ったら、また変えたらいい。初めはベストだと思えない場所でも、置くもので見え方がだいぶ変わるはずです。

 

関連記事

下町日記

2021.08.09

八月八日(日)

下町日記

2021.08.10

八月十日(火)

下町日記

2021.08.13

八月十三日(金)

下町暮らし不動産 一覧へ