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神戸の新しい魅力に出会うウェブマガジン

シタマチコウベ

吉田敦史4th week 下町のダンサー

2020.12.xx

 夏の夕方、神戸北野美術館(神戸市中央区)で、同市長田区のダンサー、アラン・シナンジャ(31)と松縄春香(33)のパフォーマンスが始まった。

新型コロナ禍で「活動の場を失った表現者」と「客を失った施設」がコラボして新たな作品の映像をライブ配信する「謎劇」の2回目。写真家ヤマモトヨシコさん(39)=同市中央区=らが企画した。

 オンライン会議システム「Zoom(ズーム)」を利用し、美術館内に仕掛けた複数のカメラの映像を、4分割した画面に同時に映しだした。

 パフォーマンスは庭から始まる。カメラの前に設置された透明のシートに松縄が絵を描き、視聴者が見ていた景色を新しい絵に塗り替えていく。シートを隔てた向こう側では、民族衣装に身を包んだアランが踊る。アランが松縄の描画に合わせて動いたり、松縄がアランに影響されて踊るように描いたり。離れていても生じる関わりを感じさせた。

 二つ目のシーンは、テレビの前にテーブルが置かれた部屋で。「今まであった日常というものが、窮屈なものになり、壊されていくような、非常時の中で苦悩する人たち」(松縄)を表現した。

 三つ目のシーンは、床にマスクが敷き詰められた部屋で、スーツ姿のアランが狂ったように踊る。「当たり前になっていく非常時への違和感と、この中でおかしくなっていく人」(松縄)をイメージした。

 最後はバーカウンターで、情熱的な音楽に合わせて2人がダンスする。それまでの抑圧や苦しみはなく、解放感に満ちている。「こんな世の中でも親しい人と楽しい時間を過ごそうよ、という場面」(松縄)だという。

 だが、音楽がやむと、2人は何もなかったかのようにその場を離れ、ほかの部屋や庭をすたすたと直線的に歩き回る。このシーンの意味を考えるのも面白い。

 幼いころからダンスに夢中だったアランにとって、踊ることは「息をするのと同じ」と言っていいほど、生きることの一部だという。新型コロナの収束はまだ見通せないが、下町のダンサーは踊り続ける。

吉田敦史 3rd week 下町のダンサー

6月、新型コロナウイルス感染拡大防止のため休館していた劇場「アートシアターdB神戸」(神戸市長田区久保町6)がようやく再開した。4月に開講を予定していたアラン・シナンジャ(31)=同市長田区=のアフリカンダンス教室も2カ月遅れで始まった。自粛ムードが続く中、普段ほかの場所で教えている女性2人から参加の申し込みがあった。

当日、女性たちは時間を勘違いしていたらしく、なかなか現れない。アランは早く踊りたそうに、そわそわ、うずうずしている。時間の感覚について、ルースなアフリカの人に対して日本人はきちっとしているという印象を抱いており「どっちがアフリカ人?」などと冗談を言いながら待っていた。

 

2人が到着し、レッスン開始。

 

速いリズムに合わせて体を弾ませる。アフリカンダンスは、踊るうちに互いの「エナジー」を高め合える感覚があるという。

 

 

「お客さんのエナジー、アップする。私エナジーもっとアップする」。一番汗だくになるアラン。笑顔がはじけた。

 

 

アランと妻の松縄春香(33)に、オンライン公演の話が来た。

新型コロナで「活動の場を失った表現者」と「客を失った店や施設」が手を結び、「謎劇」と題して新たな作品を創る取り組みで、写真家のヤマモトヨシコさん(39)=神戸市中央区=らが企画した。神戸北野美術館からのライブ配信に向け、打ち合わせをした。

 

どんな作品になるのだろう。

 

 

吉田敦史 2nd week 下町のダンサー

新型コロナ禍でダンサーとしての活動が減ったアラン・シナンジャ(31)=神戸市長田区。3月にはホテルマンの仕事も休みになるなど、苦境にさらされていた。

 

落ち込んでいたはずだが、アランは自身を「ラッキー」だと言った。「このコミュニティーにいられて良かった」と。

地域の人がアランや家族のことを気に掛けてくれ、時には仕事を紹介してくれるという。

 

自営業合田昌宏さんはその筆頭。6月には地域住民から頼まれた庭木の枝切りに、アランを誘った。

 

伸びすぎたビワの木などを2人で刈り込んだ。アランはこの日、初めてビワの実を食べた。

 

周囲に支えられながら、懸命に働くアラン。

介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」(同市長田区二葉町1)での仕事をのぞかせてもらった。

 

スタッフや利用者とのやりとりが心に潤いをもたらし、複数掛け持つ仕事の中でも「自分にとって大事な時間」になっているという。

 

吉田敦史 1st week 下町のダンサー

4月、神戸・三宮の東遊園地に、軽快なアフリカ音楽が流れていた。男性がドレッドヘアを揺らしながら、そばにいる女性とスマートフォンの画面に映し出された別の女性に、ダンスを教えている。

男性は西アフリカ、トーゴ出身のダンサー、アラン・シナンジャ(31)=神戸市長田区。新型コロナウイルス感染症の拡大で、普段アフリカンダンス教室を開いていたスタジオが使えなくなり、夜の公園でレッスンを行うようになった。オンラインでの指導では「エナジー」を感じられないと、もどかしさを募らせていた。

 

アランは2017年、NPO法人ダンスボックス(神戸市長田区)による長期育成プログラム「国内ダンス留学@神戸」の6期生として来日した。「国内留学」に初めて海外から参加した4人のうちの1人。

修了後も神戸に根を張り、国内外で活躍してきた。同期のダンサー松縄春香(33)と結婚し、2019年5月に長男モタンを授かった。

だが充実した日々は2020年、新型コロナで一変した。公演やレッスンはなくなり、決まって間もないホテルマンの仕事も休みになった。自宅アパートや夜の公園で独り、踊った。

新型コロナの影響で、舞台に関わる人たちは活動の場を失った。アランが下町の人情に支えられながら、6月にオンライン公演で踊るまでを追った。