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2020.12.29

吉田敦史4th week 下町のダンサー

2020.12.xx

 夏の夕方、神戸北野美術館(神戸市中央区)で、同市長田区のダンサー、アラン・シナンジャ(31)と松縄春香(33)のパフォーマンスが始まった。

新型コロナ禍で「活動の場を失った表現者」と「客を失った施設」がコラボして新たな作品の映像をライブ配信する「謎劇」の2回目。写真家ヤマモトヨシコさん(39)=同市中央区=らが企画した。

 オンライン会議システム「Zoom(ズーム)」を利用し、美術館内に仕掛けた複数のカメラの映像を、4分割した画面に同時に映しだした。

 パフォーマンスは庭から始まる。カメラの前に設置された透明のシートに松縄が絵を描き、視聴者が見ていた景色を新しい絵に塗り替えていく。シートを隔てた向こう側では、民族衣装に身を包んだアランが踊る。アランが松縄の描画に合わせて動いたり、松縄がアランに影響されて踊るように描いたり。離れていても生じる関わりを感じさせた。

 二つ目のシーンは、テレビの前にテーブルが置かれた部屋で。「今まであった日常というものが、窮屈なものになり、壊されていくような、非常時の中で苦悩する人たち」(松縄)を表現した。

 三つ目のシーンは、床にマスクが敷き詰められた部屋で、スーツ姿のアランが狂ったように踊る。「当たり前になっていく非常時への違和感と、この中でおかしくなっていく人」(松縄)をイメージした。

 最後はバーカウンターで、情熱的な音楽に合わせて2人がダンスする。それまでの抑圧や苦しみはなく、解放感に満ちている。「こんな世の中でも親しい人と楽しい時間を過ごそうよ、という場面」(松縄)だという。

 だが、音楽がやむと、2人は何もなかったかのようにその場を離れ、ほかの部屋や庭をすたすたと直線的に歩き回る。このシーンの意味を考えるのも面白い。

 幼いころからダンスに夢中だったアランにとって、踊ることは「息をするのと同じ」と言っていいほど、生きることの一部だという。新型コロナの収束はまだ見通せないが、下町のダンサーは踊り続ける。

《12月紹介》 週刊下町日和、第16弾は神戸新聞映像写真部で記者をしている吉田敦史さん。シタマチコウベのエリア近くに住みながら、日々、街のなかで起きる様々なことを取材。今回は4回にわたって、2012年から取材をしているコンテンポラリーダンスを上演するNPO DANCE BOXのダンサーを追う

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