みなさん毎度、こんにちはこんばんは、中元俊介です。
今回は、作品紹介をしっかりやりたいと思います。決してコラムのねた切れではありません(汗)
この作品は、2019年3月に開催された「鉱山と道の芸術祭」に出展した作品です。
僕の展示した場所は、明延鉱山という鉱山の近くの北星社宅という場所でした。
明延鉱山は兵庫県中部にある昭和中期に栄えた錫(すず)の採れる鉱山でした。当時は錫を採掘する為に沢山の人や家族が明延地域に住んでいましたが、昭和後期に閉山されてからは多くの人が家を後にし、今はその名残が残るのみとなっています。
全盛期には、移り住んできた炭鉱夫の為に社宅や共同浴場、スーパーまでが立ち並び、山奥では考えられないような大きなコミュニティーが形成されていました。僕の展示した北星社宅は綺麗な山々と空に囲まれた土地にある、当時建てられた社宅のひとつです。今は空き家になっていますが当時使われていた物が多く残り、人の息遣いを感じられるような空間でした。
この作品はその当時炭鉱に関わった人たちが見たかもしれない、夕暮れや朝焼けに昇る月をテーマに描いた作品で、月の部分は錫を使っています。作品のコンセプトとして、ミニ小説を書いたので作品と共に見てもらえるとうれしいです。
「朝行く錫の月」
昭和中期、一人の男が家族と共に北星社宅に住んでいる。
昨晩は同僚と上機嫌で飲んで、どのように家に帰ってきたのか記憶が定かでないが、月明りが足元を明るく照らしていたことは妙にはっきりと覚えている。
昨日の酒を頭の後ろに感じながら冷たい水で顔を洗うと少し食欲が出てきた。子供たちと共に支度をして、台所で洗い物をしている妻にいってきますと一言言って家を後にする。
玄関を出ると、向かいの山の上に昨日の月がまだ残っていた。昨日の夜は道案内をありがとうと心の中で呟いて、雪の少し残る道を歩いていく。共同浴場の脇を通ってタバコ屋のお母さんと、今日は雲一つないいい天気だねと、いつもと同じ天気の話を交わし、晴れているからか少し肌寒いなと思いながらも、もうすぐしたら春が来ることを明延川が告げている。
現場にはいつもと同じ顔触れ、昨晩の話を冗談交じりに話し合い朝礼を迎える。
いつの間にか男の顔からは笑みが消え、目の中に一筋の光をやどし坑道へと入る。トンネルをくぐる瞬間に、最近生え始めた次女の歯のことがフラッシュバックのように瞼に映る。
さて、今回はもうなくなってしまったコミュニティーに思いを馳せる回でした。しかし明延では今でも地元の人々がコミュニケーションをとりながら楽しく元気に暮らしています。下町の形態はそうやって形を変えながら移り変わり、新しくリメイクされ続けて生きていきます。あなたの暮らすその町のコミュニティーも100年後には今と違う形になっているんじゃないかな?そう思いながら生活すると、いつもの風景も変わって見えるかも知れません。
それでは今日はこの辺で、また次週まで、さようなら。
掲載日 : 2020.05.29