第23弾は、新長田の街をぶらりと飲み歩き。「アーバニスト・イン・レジデンス」で長田区東尻池町にある拠点「シリイケバレー」にて3週間にわたり滞在・活動された杉田真理子さんが、滞在エリア周辺のお店を巡ります。杉田さんは日本だけでなく世界を股に掛けて都市・建築・まちづくり分野や文化芸術分野で幅広く表現活動をしています。”よそ者”だからこそ見えてくる下町の魅力とは? ※アーバニスト・イン・レジデンスとは、都市を主体的に楽しみながら生活している人(=アーバニスト)たちが、長田区に滞在しながら調査・交流・発信活動を行う事業のこと。
文:杉田真理子 写真:岩本順平
しばらく、ハシゴ飲みというものをしていなかったように思う。
一般社団法人for Citiesを主催する、杉田真理子と石川由佳子。「アーバニスト・イン・レジデンス」という長田区役所の事業で3週間長田に滞在した私たちは、たいしてもう若くもない身体に鞭打って、毎日、全力で”遊んで”いた。
行きたいお店、会いたい顔は尽きず、毎日パンパンに予定を詰め込んで駆けずりまわっては、夜は長田のどこかのお店で喉を潤わせるという毎日。
今夜も例外ではない。
この日は、私たちが滞在していた長田区・真野地区の「シリイケバレー」で、写真家の岩本順平さんと18:30に合流する。前面がガラス張りのシリイケバレーは、伝説の廃屋芸人建築事務所・西村組が手がけた空間で、静かな住宅街のなかで一際目立つ。
さあ、今夜はどこに行こうか。
「都市」をテーマに、さまざまなプロジェクトの企画・プロデュース・ディレクションを行う私たちのミッションは、この場所をうまく使いこなしながら、長田の魅力を”よそ者”の視点から探ることだ。
だから、夜、どこに飲みに行くかも、リサーチの一環。今までも、色んな人たちに長田のディープな場所を案内してもらった。
ピカピカのお皿とワイングラスがあるオシャレなビストロよりも、私たちは、古くて貫禄がある場所、良い常連さんがいるお店が好き。意外だとよく言われるんだけれど、渋い所にどうしても惹かれちゃう私たちにとって、長田は密かな名店が多い。
私たちが1軒目に向かったのは、私たちが滞在していたシリイケバレーがある真野地区のまちづくり協議会の皆さんが定期開催する「ワンコイン」飲み会。
その名の通りワンコインを持ち寄って、つまみ片手にひたすらお酒を飲む会で、震災後の復興ボランティアの学生達に、なんとか恩返しをしたい、お酒を飲ませてあげたい、という想いから始まったんだそうだ。
歴史のある飲み会へお誘いを受けたのは、とても名誉なこと。しかも今回は、ワインの会というから、絶対逃すわけにはいかない。
開催場所である真野地区まちづくり会館の扉を開けると、先輩方が、わっ、と拍手喝采してくれた。
こっちに座れ、これを飲め、これを食べろと非常に手厚くもてなしてくださって、ああ来てよかったと心から温かい気持ちになる。
20:00頃には、片付けが始まる。
「ワンコイン」は、ダラダラ飲まない、ということが鉄則なんだそうだ。心ゆくまでしっかり飲んで、話して、片付けもみんなでして、さっと解散する。
若者たちが見習うべき飲み会の楽しみ方である。
続くは、まちづくり協議会のゆかりさんがおすすめする、「季節料理屋よじま」へ。2軒目を迷っていると伝えると教えてくれた長田の名店で、その場で電話して、予約まで取ってくれた。
真野地区を出て、川を渡り、六間道商店街の方面へ。高速道路になる場所の建設現場がピカピカしていて、この場所の過去とこれからに、みんなで思いを馳せる。
よじまは、これまた美味しい。会話もそこそこに、海鮮サラダや串カツをひたすら食べる。
岩本さんのこれまでの活動を聞きながら、私たちとしてもこの街でしてみたいことを、ざっくばらんにブレストした。
近所付き合いのこと。既にいるプレイヤーのこと。高齢者と若者。外国人コミュニティ。震災の記憶。空き家。
会議だと普段は口にしないような些細なアイデアも、お酒を飲みながらだと気軽に交換できる。仕事でアイデアが煮詰まったら、チームで一杯お酒を飲むのが良いんじゃないかなと思う。
3軒目は、歩いてすぐにある銭湯「萬歳湯」。
300円で生ビールが飲め、おでんまで食べれる名銭湯で、石川が長田に初めて視察にきた際、ここで元長田区長の増田さんと名刺交換をしたんだとか。その時の様子を番頭さんは覚えていて、その時の余剰金をとってくれていた。
まだまだ私たちの夜は続く。
4軒目は、丸五市場内の焼酎酒場「今井やん」。
ウイスキーのような焼酎「是空」をサクッと堪能したあとは、同じく丸五市場内にある中華料理屋「めいりん」へ。
流石に疲れ気味の私たち。でも、安定のカモハムと水餃子がテーブルにやってきたら、げんきんなことにエネルギーを取り戻す。
家に帰る前に、あともう1軒。
岩本さんのご自宅に、真夜中にお邪魔して迷惑をかける私たち。氷出しの八女茶を頂いて目を覚まし、ひとしきり人の家の色鉛筆で遊んだ後、ようやく帰路につきました。
ああ楽しかった。全力で遊ぶことって、やっぱり大切。
誰かを知りたいと思った時も、一緒に飲みに行くのが一番。忙しさにかまけてなかなか取れていなかった遊びとおしゃべりの時間を、意識して、もっととらなければなと思った。岩本さん、ありがとうございました!
掲載日 : 2022.11.22