兵庫運河が流れ、ゆったりとした空気が漂う工場町、和田岬。今夜はこの場所を舞台に、「やみつき」になるようなディープな飲み歩き。ゲストは、4年前に新⻑⽥に住んでいたという、はちふくの福永裕美さんです。現在は東京・⼤阪を⾏き来しながら、空間デザイナーとして活動されています。今回はお肉が絶品の焼肉屋さんからスタート。次々とご友人と合流し、酔いが回ります。勢いづいた一行は、後半ではなんと〇〇(!?)を食べました。福永さんが和田岬で出会った「極みの達人たち」にもご注目ください。
文:福永裕美 写真:岩本順平
私の名前は福永裕美(ふくながひろみ)、通称福ちゃん。
昭和61年生まれと、ちょっと昭和をかじった33歳。世界中の注目集めるレディーガガと、何かと世間を騒がせがちな沢尻エリカと同い年。クセが強いね。
職業は、昔先輩に「ドMじゃ設計者できひんで」って言われたくらい、ヘナヘナめで、ヘラヘラめな建築士。リノベーションとかいうおしゃれっぽい仕事してるけど、ただ建物とか物に人間味を感じたら楽しまずにはいられないというただの変態だったりもする。
実は駒ヶ林の六間道商店街のほど近くに、3ヶ月だけ住んでいたことがある。家は風呂なしアパートでコンロや冷蔵庫すらなかったけど、100歩くらい行けばセブンイレブンという名のでっかい冷蔵庫があったし、銭湯という名の超特大風呂が3つもあったから、むしろ豊か。なんと言っても短い期間しかおらんかったのに、3年以上離れた今でも、気持ちよく迎え入れてくれる人たちが大好き。
そんな私の心を掴んでやまない言葉 ”下町”。
都会の煌びやかな夜に乾杯するより、下町でお腹抱えて爆笑していたい。
そう思わせるのは一体なんなのか。
今夜は、私なりに下町の魅力を探ることにした。
和田岬には何が落ちているかな。
「今日どうする?誰か呼ぶ?」
の一言から始まった今回の呑みあるき。
もはや地元の友達と飲みに行くノリ。
新長田の取材班事務所からスタートし、友人何人かに声をかけつつ和田岬へ向かう。
和田岬は何度か訪れたことがあるものの、毎度目的地が決まっていて約束時間ギリギリの到着で、周辺はあまり知らない。
時間に余裕のある日だったら、行き当たりばったりでお店に突撃して偶然の出会いを楽しみたいし、それが呑み歩きの醍醐味ではあるのだけど、今夜は”下町の夜は早いから”と聞いていたこともあって、昔ここに住んでいた友人にお勧めの店を聞いておいた。
教えてくれたお店はなんと9店!わくわくしかない。
教えてもらったものの、せめてお店は見てから決めたいなと、行き先は決めずにリストだけを持ち、いざ和田岬へ降り立った。
「どんな写真がいい?」
「え、どういうこと?リクエストできるの?」
「知らんかったなーどうしようかなー。んんーーー」
とか、言ってる間にリストにあったお店が現れる。
駅から徒歩2分!近い!現れるの早すぎるー。
店の名は神戸亭。
洋食か?と思いきや、焼肉屋さん。
食べたいものも決まってないし、ひとまず入ってみることに。
ガラガラガラーーー
「二人いけますか?」
「・・・」
「いけるよ、どこでもどうぞ」
ってなんか間があったけど、まあいっか。
リストにあったこのお店、実は唯一コメントが添えられていた。
“マスターがいい!”
と。
もうここからはミッションである。
引き出せるか!?マスターのおもしろさ。
「シタマチコウベという地下鉄沿線PRの取材で、写真とか撮ってもいいですか?」
「全然いいよ!おっちゃんだけは撮らんとってな~」
撮らないで、という割に悪い感じもなさそう。
とりあえずビールとナムルを頼む。
厨房で準備しているマスターに、いつからお店やってるんですか?と話しを聞く。
先代から53年続いていて、マスターが店にたち出して41年だそう。
「普段こんなしゃべらんねんで~」
と言いつつも饒舌。いいねいいね~、嬉しい!
だけど、ここはマスターに話しかけるにはちょっとハードルのある空間。カウンター席はなく、客席と厨房が少し遠くなるようにつくられていて、話しかけるには少し遠い。今日は幸いにも、時間が早いこともあってか、店内は私たちだけということもあり遠慮なく会話を投げかけらる。
すると、厨房のマスターから、あの入ってきた時の謎の間について明かされる。
「君ら、向かいのカルチアとかそっち関係?」
「そうですねぇ。ちょこちょこ行きますよー」
「やっぱりか~!入って来た時に思ってん。そうちゃうかな~って!ピンと来たわ~。」
ロングコートの若者2人組。片方は髭面。なんかわかるよ、”そっち系”。
バカにしてるわけじゃないよ。寄せてるわけでもない。否定もしない。
突然舞い込んだいつもと感じの違うお客さんに一瞬、間ができてしまったみたい。
「しかも美人やしな~」
って嬉しいこと言うてくれる。
「あとでそっち行っていい??」
おぉ!?どうぞどうぞ!
何この展開。お客さんいない特権!?カルチア特権??
これはもしかしたらオフレコかもしれないけど、書いちゃう。
どうやらマスター朝から5本目らしい。しかも500ml缶。
「平日はなぁ、呑まんと真面目に仕事してんねんで」
「こんな普段しゃべらんねん。昔なんてお客さんと喋らんかったし」
なるほど。だから、客席と厨房に距離があるのね!
にしても、本当にラッキー。
もしかすると、平日だったら寡黙な職人大将であまり話しを聞けなかったかもしれない。
いやー土曜日でよかった。
「営業時間とか定休日ってあるんですか?」
「時間も営業日も決めてない、自由にやってるよー」
「好きにやるのがええねん」
わかるー!それ、いいですよね。自分でやるならそうしたいやつ。
後でネットで調べて見ても営業時間や定休日がでてこない。とはいっても仕入れがあるだろうし、この日のこの時間は開いてるって言う日があるはず。でも、それは毎日のようにここの前の人を通るか、常連でないと知り得ないのかも。
さぁ、お待ちかねのお肉。焼くぞ!食べるぞ!!
とりあえず、タンを注文。
「切り方はどうがいい?厚切り?薄切り?」
え?選べるの??悩んでいたら、
「1人前で厚切りと薄切り両方切っといたるわ!」
って、なんて良い計らい。
サクッとペロっと食べちゃったわ!美味しい!
続いてはレバー。
それからレバーも厚切りと薄切りを選ばせてくれたが、結局選べず。またもや良き計らいで、半分半分に。
「おすすめの焼き加減とかってあるんですか?」
「ないない。好きなように焼いて好きなように食べるのがええねん」
「焼き方はなんでもええねん」
なるほど、”好みで”ですね。
コロコロっとね、全面焼いて…むむ~~~めっちゃうまい!
それから、なんやかんやと注文して、パクパク美味しくいただいてると、注文を裁き終えたマスターがテーブルに登場。もちろん缶ビール持って。
いや、もうマスターじゃなくて大将と呼ばせていただきます。
「焼肉って肉焼いて食べるだけやのに、なんで美味しいとことそうでないとこあるんですかねぇ」
と取材班からいい質問。
「それは肉の切り方やねん。」
ほほー確かに、ここのお肉歯切れがめちゃくちゃいい。お肉にこの表現は似つかわしくないけど、サクサク食べれる。
レバーとか生肉食べれなくなったの残念ですーと嘆いていると
「あれは切る場所が大事やねん」
色んな肉を同じまな板の同じ場所で切るとよくないのか。肉についてる菌とかそう言う関係!?詳しくはわからないけど、わかる気がした。(どっちやねん)
「そういえばレバーをオリーブオイルで食べたことある?」
「これが案外といけるんよー」
盲点だったオリーブオイル。さも当たり前かのようにごま油つけてたよ!
好みの焼き加減でオリーブオイルと塩で食べる。
もちろん、おいしい。だってレバーがおいしんやもん。
「心臓はな、電線がいっぱい走ってるねん。脳の信号は電気やろ?だから電線やと思ってるねん」
「ほんでな、それがいっぱいあるからちゃんと切れるやつはなかなかおらん」
と心臓の刺身がでてきた。
筋のない、ちょっと弾力のあるマグロのような食感。美味しい。いい加減、語彙力の無さに悲しくなってきました。
「エイリアンって知ってる?」
「あーあの気持ち悪いやつ?」
「そうそう!よう知ってるなー。あの心臓の周りにつくやつ」
…なんだそれ???
詳しく聞いてみると、心臓の周りにつく脂身だということがわかりました。人間の心臓の周りにもつくそうで、後日調べてみると見た目がすごくグロテスクで心筋梗塞の原因になるんだって。そのグロテスクな部位見せてくれようとしたんだけど、残念ながら捌いたばっかりで見れず。
美味しいものたくさん食べて丸々太った牛だったのかしら。心臓までおいしくいただいてしまいました。ごちそうさまです。
そうこうしてたら、ふっちー登場。
取材班が呼んでくれた共通のお友達。いい笑顔!
そして、気づいたでしょうか。
実はまだ…
1軒目!!
大将がそっちいっていい?って聞いてきた時点でそんな気がしてました。
もしかして、1軒で終わってしまうんじゃないかと。
でもまぁ、ふっちーもおいしいお肉食べないとね。
厚切りのレバーはマストで注文。
「このカイワレ乗っけだしたん、うちが初めやで」
「あ、これ乗っけ忘れてるやん!ごめんごめん、乗せてくるわ!」
わざわざ、戻って乗せてくれた。
これは大将のこだわりポイントのひとつ、見栄え。
美味しさだけじゃなくて目でみた美味しさも追求。
「なんの意味もないねん」
「でも乗っとー方がええやろ?」
って間違いないです。大事なポイント!今となっては”映(バ)える”ことをさも当たり前のように意識しますが、昔からやっていたみたい。
「これもみんな真似してくねん~。困るやろ~」
と笑顔で言う。どうやら、焼肉でステーキ焼いたり、飲み放題を初めたのもおそらく神戸亭だったそうな。
確かに、それが表記されたメニューは年季も入って、あながち間違いではなさそう。
それから、おおみっちゃんも来てくれた。
実はおおみっちゃんがオススメのお店リストを送ってくれた人。
聞いた友人は別の人なんだけど、回り回ってたどり着いた地元っ子情報、素晴らしい。
その後も途中、大将は注文を裁きつつ(ちゃんと仕事してました◎)大将は別のお客さんのテーブルに行ったりもしながら、最後はまた私たちのテーブルに。
「尻尾食べたことある?テールのスープ美味しいでっ」
って、まんまとテールスープを注文。
ほぼ脂なんだけど、なぜかあっさり飲めるスープ。〆にぴったり。
その時はお腹いっぱいでできなかったけど、サムゲタンみたいにちょろっとご飯入れてもよかったかも。
「テールだけで、オリーブオイルつけても美味しいねん」
モ◯ミチの追いオリーブを連想させるくらい、脂on油。
だけど、不思議とあっさり食べられた。明日のお肌はぷるっぷる、間違いない。
個人的にはレバーにオリーブオイルよりもテールにオリーブオイルの方が、オリーブオイルの味も際立って、意外とあっさりな衝撃もあっておすすめ。
それから、前日が阪神大震災から25年の日だたということもあってか、当時の話も。
「その日がちょうど上棟の日でなぁ。全然なんもなかったんやー」
と、すごい、不幸中の幸い。でも大阪にいた小学2年の私でさえ、鮮明に覚えているあの日。きっといろんなことがあったんだろうなぁと思いつつ、想像しきれず。やっぱり大阪とここでは感じ方が全然違うんだろうな。
そして、ふと気になってしまったこのお店の今後。私の実家もおじいちゃんの代から商売をしていて、継続したいという気持ちが強くあります。先代から53年、引き継いで41年、新築して25年続いている、しかも息子さんがいると聞いたら、息子さんは継ぎたいと思ってたりしないのかなぁと…。
「息子さんは継いだりしないんですか?」
「別のところでジャンルの違うお店やってるけど、継ぐのはあかんなぁ。やらせへん。」
「えー!なんで??」
「俺は小学生の時から手伝ってやって来た。ちょっと間は抜けてるけど、それでも長年やってきたからなぁ。今からやっても遅いわあ」
とのこと。やっぱり美味しく食べるには、切り方が大事でその修行は今からだと遅いんだって。店が続いてくれると嬉しいよりも、美味しさの提供に妥協しないという方が勝つんだな。職人魂を感じざるを得ない。
その後も美人だなんだと褒められまくり、ひとしきり盛り上がった後、最後に影の立役者である女将も一緒にパシャり。
18時くらいから、おそらく23時くらいまで。もうお腹も心もいっぱい。大満足。
だけどちゃんと行きますよ、2軒目も!
リストにはなかったけど、おおみっちゃんが思い出したというBAR BUZZへ。
すぐ近くの中町通り商店街に入ったところ、神戸亭からおそらく徒歩100歩くらい。
その短い間も楽しさにまみれていて、好きな写真。
思い思いにお酒を頼んだあと、何やら取材班がお店の方とコソコソ。
取材交渉でもしてるのかなぁと思っていたら、なんということでしょう。
タガメ・カナブン・ジャイアントピルワーム・虫・虫・虫。
あぁ、ものすごく嫌。
この世で何が1番嫌いか言えと言われたら虫かもしれない。
でももうしかたないですよね、取材だから。仕事だから…泣。
でも4人は運命共同体。いっせーのでで、食べました。食べた感想は、、、まぁ
虫でした。
揚げているので、中も外もサクサク、パイみたい。
味は、うーん、香ばしい葉っぱ?のような。
お酒の中に浸かっている虫もいました。
そちらはさすがにプニプニ。
味わいたくないけど、なかなか飲み込めないんですね、あぁいうものは。
そらこんな顔にもなります。気持ち悪かったし、このアップも画的に辛い。(すいません)
嫌いな割にイ○トアヤコばりの大層なリアクションもできないし、このままだとあまり面白くないかなと思い、お隣の女性も巻き込んじゃいました。が、隣の女性も似たようなリアクション。案外そんなもんなのねと、ちょっと残念な気もしつつ、少しだけ安堵した気もする。
それにしても、巻き込んだり巻き込まれたり、それが酒場のいいところですよね。
虫に意識が持って行かれて、ここで何話したかほぼ覚えていない。
でも最後に気になって聞いてみました。
「なんで虫だそうと思ったんですか?」
「面白いでしょ?」
おぉーそうか、なるほど。
それだけ、だけど、それが素晴らしい。好奇心の塊、思うがままに面白さの追求。
近々、食用の生きたチャバネゴ◯ブリを仕入れるそうです。これから食糧不足で昆虫食が当たり前になる世界が来るかもしれません。挑戦心に溢れる方、ぜひ試してみてください。私は絶対ゴ◯ブリは食べないですけどね。感想はギリギリ聞いてみたいです。
和田岬のほんの一握りのエリアでみつかったのは極みの達人たち。
道は違えど色んなものを極めていて、それぞれの物語がある。聞けども聞けども同じ話はなく、それが楽しくって病みつきになるのかも。
今夜はここで、お開き!
おやすみなさい..o0
※掲載内容は、取材当時の情報です。情報に誤りがございましたら、恐れ入りますが info@dor.or.jp までご連絡ください。
掲載日 : 2020.05.29