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今夜、シタマチで vol.11

ふわふわ新長田編 by岩崎雅美

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    第8弾は「多国籍」をテーマにたくさんの文化が入り混じる新長田で飲み歩き。ディープな丸五市場内にある水餃子が絶品の中華料理屋やお昼は冷麺で大人気の朝鮮料理屋、昨年新たにできたベトナム料理屋、最後は和食をメインにした焼き鳥屋を巡ります。はしご酒人は、2年前に東京から移住してきた編集者の岩崎雅美さん。5月より神戸市のウェブサイトで連載しているWebエッセイ「山と海のあいだ」を手がけるライターさんでもあります。

    文:岩崎雅美 写真:岩本順平

     

    近ごろお酒は嗜む程度になったけれど、東京で働いていた頃は、愉しく美味しくよく飲んでいた方だと思う。離島や地域に関わる編集校正の女友達3人で「スルメ女子」と命名し、「各地の赤ちょうちんのお店を巡る記事を作ろう!」なんて焼酎片手に飲み語らっては、記憶をあやふやにしていたのも懐かしい。そんなこともあり、シタマチコウベのサイトの中でも「今夜、シタマチで。」は、秘かにうらやましかった企画。

     

    第8弾のはしご酒人に任命いただいた今回の行き先は「新長田」。神戸に移住して2年、新長田や長田はまだあまり訪れる機会がない町なのだけれど、よく知らないまま勝手にドギマギしている町でもある。今回はシタマチコウベディレクター 岩本さんとアシスタント 葉亜奈さんが案内してくれるという。長田が庭の2人にとっておきを教えてもらおう。

     

    思い返すと私にとって「はしご酒」と「旅」はどこか重なるところがある。はしご酒はもっぱら地方での記憶で、鹿児島や新潟などで「1軒目は鶏を食べて、2軒目に向かいの店で麺を食べて、最後はあの商店街のタレカツ丼で〆なんだよ」などと連れ出されてはその土地ならではの食によって地域がインプットされてきた。また、旅はというと、知り合いのいる土地に飛んで現地に詳しい彼らと巡るスタイルが好きで、ひとり旅も旅先で知り合ったひとと食事や行動を共にすることが多い。今回は近場とはいえまだ見知らぬ町を旅する、まさにそんなイメージ。

     

    日が長くなってまだ明るい18:30すぎに新長田に集合すると「今日のテーマは多国籍ですよ」と葉亜奈さん。神戸に住んですっかり舌が肥えたなあと実感していて、それは多国籍の料理が生活のなかで気軽に食べられることも要因のひとつだと感じている。今夜はどんなお店に出会えるのだろう?ふつふつ期待が膨らむ。商店街を歩きはじめると、早くも山が見えないので方位がわからない。けどいいや、今日はgoogleマップ開かなくって。おまかせしちゃおう。今宵は気ままにこの町を感じてお酒を味わうのみ。

    商店街を外れ、建設中の新長田合同庁舎をすぎた先、はじめに訪れたのはオレンジ色の看板に大きく◯五と書かれた「丸五市場」。細長い商店街は時間帯のせいかほとんどシャッターが閉まっている。入口すぐ右側のお店「鳥進」をさして「ここ、いつも予約でいっぱいらしいんですよー。」と岩本さん。ええ!?たしかにカウンターには予約席の札がずらり。焼き鳥に鶏鍋が絶品らしく、鶏好き赤ちょうちん好きとしては気になる。奥にいた店主2人に尋ねるもやはり本日満席。ぜひ次回に期待。ふたたび歩みを進めると、通路に点々と赤い消火栓のバケツが並んでいる。ああ、ここは確か以前テレビで見たことのある商店街だ。

     

    アーケードの右奥、アジア風のちょうちんが灯る中国家庭料理店「めいりん」をのぞくと、赤が基調の店内はすでにカウンターと奥の席で宵がはじまっていた。接客をしているのが、ひとりでこの店を切り盛りするめいりんさん。商店街内に扉も敷居もないオープン飲み屋スタイルは斬新。カウンターに座って、まずは瓶ビールで乾杯。

    名物の手作り水餃子をオーダーし、ビールをちびちびしながらお店のことを教えてもらう。頭の中はすでに水餃子でうずうず。看板メニューはどれもお手頃な価格ばかりで驚かされる。奥では仕事帰りの上司部下たちが和やかにテーブルを囲み、手前のカウンターではカップルがしっとりと箸を進めている。皆さん行きつけなのだろう。

    瓶ビールが2本目になった頃、水餃子がやってきた・・!丸みのある水餃子がこんもり。まずタレをつけずに食べてみると、厚めの皮とぎゅっと包まれたしっかりした具材の味がいい。続いて醤油とお酢を足してハフハフ。2品目の麻婆豆腐は、辛さひかえめマイルドなあんかけ風。そういえば、関西のカレーうどんってあんかけ風で驚いたんだよね、なんて話をしていると、自転車に乗ったおじさんがふらりやってきた。カウンターに座り、店内に馴染み一杯やっているなと思うと、しばらくしてまたふらりと帰っていった。シャッターの先に溶け込むような、哀愁ただよう後ろ姿を見送りながらこの場で交わされる日常を想う。

    隣のスペースは飲食持ち込みOKで、商店街の交流の場にもなっているそう。この店を11年営んできためいりんさんは、陽気で気さくな方で。お客さんとこの土地への秘めたる熱い想いを聞かせてもらう。瓶ビール3本目。かつて存在していた5つの市場から名付けられた丸五市場は、今は定期的に開催されているイベントなどでも賑わうらしい。店を後にし商店街を出ると、オレンジ色の看板にはライトが灯され、さらにいい色味を帯びていた。

    すっかり日が落ちて夜になり、三日月が浮かんでいる。少し歩いて次に訪れたのは、2軒目「平壌冷麺屋」。このあいだランチに連れてきてもらって冷麺と焼肉丼セットを食べたお店だ。外観の佇まいとのれんの具合がいい。ちょうど閉店時間だったのだけれど、店主のご夫婦は、まるで息子に「おかえりい。はよご飯食べや」と言うような温かな笑みで快く迎え入れてくれる。懐の深さとともに、岩本さんたちとお店の関係性を垣間見る。

    平壌冷麺屋

    焼肉をいくつかと、マッコリをオーダーすると、水色の鶴の絵が描かれた大きな壺いっぱいに入ったマッコリがやってきた。2度目の乾杯。んー!このマッコリ。今まで飲んだ中でいちばん美味しいかも。少し甘ったるさのあるマッコリが、これは微発泡さもあって爽やかなのにコクもある。これはハマっちゃう。グイグイいけてしまうよ、と思わず顔がにやけてご満悦。

    焼肉はタンとミノを塩で。タンも柔らかいしミノもコリコリ。お母さんにおすすめしてもらったホルモンも美味しい。先ほどのめいりんでは、長田は土地柄焼肉屋さんが多いから焼肉縛りにしようかなんて話も出た。この企画の自由度もいい。

    途中でまたお客さんが入ってきて、やはり快く迎え入れている。流れるテレビを見ながらしばしお母さんと世間話をして、おあいそを伝えると「冷麺も食べていく?」と聞かれる。次のお店があるのでと伝える岩本さんの後ろで、内心、冷麺も食べたかったですお母さん・・・!また次来ますね。

     

    お店を出ると、向かいには銭湯「萬歳湯」。この間参加したイベント「ちいきいと」で、電気風呂の電圧が全国レベルで強いというインパクト大の情報を得た銭湯だ。「平壌冷麺屋のご主人は、仕事終わりに萬歳湯に浸かって数件隣の餃子屋に通うらしいですよ」と岩本さん。えー!なんですかそのうらやましいトライアングル。雑多な自転車の並びから、この街の生活を支えているお湯だと察する。後ろ髪ひかれる、銭湯よ・・・。

    それから右に曲がって、たぶん来た道を戻っている。すでに通りの暗さとちどり足でふわふわ。これぞ下町ご近所ハシゴ。はあ〜気持ちいい。夜風もいいし、ちどりには心地いい季節だ。坂の多い神戸では平らな道もありがたいし、普段通らない道でも2人のおかげで安心してふらつける。三日月もだいぶん上がってきた。

     

    三軒目はベトナム料理屋「39SAIGON」。昨年11月にオープンしたという店内の、照明の明るさと清潔感でしばし目が覚める。客席には多国籍な面々。こちらでは軽めに、蓮の茎サラダと揚げ春巻きをオーダー。サラダは添えのえびせんに乗せて食べると美味しいですよ、と葉亜奈さん。うん、これは日本人も食べやすい味だし、やっぱりベトナム料理は女性が好むよね、ともぐもぐ食べていると、お隣に女性2人のお客さんがご来店。そうだよね、わかります。

    ここでは仕事論などで会話が深まっていき、時々、ベトナム人のスタッフが少々ややこしめな岩本さんの飲み物のオーダーを健気に聞いている。目の前の2人の師弟関係は気持ちがいいなあ。と良い気分でお手洗いに行くと、電気がわからず手当たり次第スイッチをぱちぱち連打。すると慌ててスタッフさんがやってきた。どうやら店内の照明をすべて消してしまったらしい。す、すみません。けどその応対もやさしい。私の抜け具合を知る2人を前に、いつの間にかほぐれて気が緩んでいるのかな。なんて心で言い訳をしてみる。
    客席に座っていたスタッフのお父さんらしき方は、何度も厨房と店内を行き来している。ベトナム語の響きは愛らしいやさしさを内包しているよね。ナムナム、ニャムニャム交わしながら、サイゴンビールと、333(バーバーバー)。きっと週末は家族連れのお客さんで賑わうのだろうな。

     

    さらにいい塩梅でお店を出る。二人は最後のお店をどこにしようかと話し合っている。木曜平日夜、この町は閉店が早いようだ。2号線信号待ち。人はほとんどいなくただ車が通り過ぎていく。ふわふわの頭で、高速道路の隙間、星の見えない夜空を仰ぐ。

    締めの4軒目は焼処 大山とり・鍋のお店「ゆきひら」。多国籍の〆はアジアの日本で。
    カウンターに横並びで座る。日本酒の種類が豊富で、各地のこだわりの地酒が取り揃えられている。まずは「百黙」で乾杯。菊正宗130年ぶりの新ブランドは、深みのある味わい。うん、神戸の地酒で締めるって、いい。
    テーブルに焼き台が設置されていて、鶏を焼いていく。初めての部位も、鶏の鮮度がよくて美味しい。この頃はもう、言葉数も少なく。最後のしっぽり感もまた、いい。

    はたから見ると、静かにぐだぐだになっているのであろう酔っぱらい3人を前に、紳士にシュッと接客してくださるスタッフお2人の安定感はさすが。深夜まで営業しているので安心してくつろげる。2杯目の日本酒もさらに美味しかったのだけれど、名前を忘れてしまった。お出汁の効いたおじやで締めくくる頃、ふわふわの頭はこれまでのはしご酒巡りを反芻していた。

     

    これにて、新長田の旅もおしまい。

     

    店を出てまっすぐ進むと新長田駅のロータリーが見えてきた。「では〜」と颯爽とタクシーに消えていく岩本さん。そして、反対のJR駅に向かう葉亜奈さん。なんともフラットな解散に、はたと目の前の駅前を見渡すと誰ひとりいない。え・・酔っぱらいのふらつくおじさんも、つかれきったサラリーマンもいないよ。突然エアポケットに入ってしまったような、不意に訪れたノスタルジー。さ、寂しい23:30。
    あわててスタスタと、転ばないように階段を下りて地下鉄の改札へ。ホームとやってきた電車にまばらな人を発見しほっと胸をなでおろす。三宮方面行きの電車に乗って、うとうとする間もなく最寄り駅に到着。帰宅後、お風呂の栓をし忘れたままお湯を溜めてしまい、浴槽は空っぽをやらかす。あちゃ〜。まあ、今宵お酒が美味しかったからいいよね。

     

    次に行ったらどんな景色に出会うのだろう。
    まだ点と点の町。でもきっと、訪れるたびに、やがて面になっていくのだろう。
    次も誰かに連れて行ってもらおう。誰かと飲み交わし店を知り、町を知る。それがいい。

     

     

     

    ※掲載内容は、取材当時の情報です。情報に誤りがございましたら、恐れ入りますが info@dor.or.jp までご連絡ください。

    掲載日 : 2019.05.31

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