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今夜、シタマチで vol.02

しっとり苅藻編 by 住田スダタ

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    第2弾は、三ツ星ベルトを代表する工場や住宅・商店が混在する「苅藻」が舞台。 趣のある酒屋での角打ち、女店主が一人で切り盛りする韓国料理屋、そして下町のカルチャーであるカラオケ居酒屋(?)をめぐります。 はしご酒人は住田スダタ。ふとした仕事の縁で長田のまちに関わってから、新長田に移住までしてしまった長田ラブラブな人間です。

    文:住田スダタ 写真:岩本順平

     

    ある種の放置プレーである。

     

    苅藻駅周辺を飲み歩きながら下町について書いて欲しいと言われ、喜んで承諾した訳だが、文字数の制限も無く、何をどのように書いても良いらしい。一応建築を専門として働く我が身にとって、敷地の制約も施主の意向も全く無い状況で、好きなように建物を設計せよ、と言われることの難しさは十分に承知している。

     

    「下町の色と音」

     

    何となく思い浮かんだ言葉を心の中で暖めながら苅藻駅に到着した。放置プレーの意趣返しという訳でもないが、待ち合わせた編集者兼カメラマンに対して、写真撮影のテーマとしてぶつけてみた。予想通りに戸惑う彼は、プロとしてどんな色と音を風景として、苅藻駅周辺のまちから切り取ってくれるのか。「色」は良いけど、「音」は難しいよね。

     

    出来栄えは以下の文中に挟み込まれている画像で確認していただきたいが、良い感じではないだろうか。

     

     

    苅藻駅周辺は、昔から「真野(まの)」と呼ばれる地域で、住民によるまちづくり活動が盛んなことで全国に知られている。路地が残り、住宅と商店・工場が混在する街並みの中で、過去にはまちの工場の公害に声を上げ、暴力団の事務所進出を阻止し、阪神・淡路大震災の復旧・復興に力を注いだ記憶を持つこの地域は、他に類を見ない、人に温かいまちである。

     

    本日の飲み歩き一軒目は、苅藻駅から北へ、神戸のポートタワー、東京のスカイツリーに並び、日本の三大タワーと勝手に呼んでいる「三ツ星ベルトの広告塔」を見ながら歩くこと5分、酒屋の奥で立ち呑みができるいわゆる角打ちの店である。

     

    趣のある、昭和7年築の建物には櫻正宗の古色蒼然とした木製の看板が上がる。ふと、酒を飲み過ぎて亡くなった昭和6年生まれの父親を思い出す。父親が酒を飲むのをあんなに嫌がっていたのに、今では自分もすっかり・・・。血は争えないとはよく言ったものだ。

     

     

    店内には美味しいお酒とつまみ、朗らかな店主夫婦と常連客たちの笑い声、絶え間なく流れるテレビの音に溢れている。彼のひげ面の風貌と明らかに常人離れした大きなカメラは、最初から胡散臭く思われたらしい。いかにも人の垣根のない下町らしく、常連客が気楽に彼をいじってくる。店主からは、酒屋で出す酒は1合1斥なので、200ml入りのコップを使うが、最近はこれが品薄で180ml入りコップを皿の上に置き、少し溢れさせて客に出す店もある、なんて話も聞かせてもらった。

    二軒目は、当ても無くぶらついて偶然見つけた居酒屋。

     

    韓国出身の女店主は、お見合い結婚をして、約40年前にこのまちに移住したらしい。このまちは在日コリアンや最近ではベトナム人も多く住んでおり、国内では珍しいベトナム人向けの仏教寺も路地の中にひっそりあるぐらいで、まちの包容力の大きさが分かる。

     

     

    韓国の故郷のこと、言葉の分からない日本での暮らしのこと、病気で数十年前に亡くなった随分年上の旦那のこと、昔と比べてテッチャンの肉厚が最近薄くなったこと、イカのシオカラはそのまま食べずに煮て唐辛子を入れて食べること、息子のこと、孫のこと、などなど。静かな店内で女店主は静かに語る。

     

     

    たこ焼きや下町のソウルフードであるバサ(牛の肺)をつまみながら、韓国焼酎を飲んだ。女店主は多くの経験を積み重ね、その心うちは恐らく様々な色で塗られているように思う。ふと自分は何色なのかを考えてみた。好きな色はオレンジだが、心の中はそんなに激しくないな。茶色ぐらいにしておこう。

    三軒目は、夜のまちに光る「酒と肴」の看板に惹かれて入った居酒屋、と思いきや、恐る恐る覗いた店内は、最近では殆ど行くことがなくなったスナック風である。

     

     

    カウンター席とボックス席、カラオケセット、カウンターの中のママさん、並ぶ酒瓶、壁には坂東玉三郎のジグソーパズルや客からプレゼントされたという金の扇子。グッドセンスである。ただ、残念ながら扇子の画像はありません。

     

     

    隣席の常連客は、偶然にも顔見知りの自治会長であった。数年ぶりのカラオケを歌いながら、自治会長に突っ込みを入れるママさんとの肩肘張らない会話を楽しむ。「今夜、下町で」と言うからは、カラオケの選曲は当然演歌が中心となる。歌詞は、聴くよりも歌う方が身に沁み込むことを改めて知らされた。翌朝チェックしたスマホには皆の歌っている姿の画像ばっかりで、まさに飲み会あるあるである。

     

    このまちに点在する夜の店は、店主や客たちの内面からもこぼれ出る色や音に溢れている。昔は工場で働く労働者に溢れ、多くの店舗も立ち並んでいたが、今となってはそれらも減り、夜の明かりも減りつつあるが、人情やまちの人の熱量は全く減っていないことがよく分かる。

     

     

    光の3原色は混ぜ合わせると白になる。絵の具なんかの3原色は混ぜ合わせると黒になる。エネルギーが加算され白になり、エネルギーが減じられ黒になるらしい。音は混ぜ合わせるとどうなるのか。秩序があれば美しい交響曲となり、無秩序であれば単なる雑音となる。このまちは、老若男女、国籍関係なく様々な人が入り混じる。家や工場、様々な建物が入り混じる。盛んな地域活動は過去のことではなく、今でも様々なコトが入り混じっている。

     

    このまちの混ざり合った色と音は何か。

     

    このまちの色を感じるには、このまちへ行くしかない。

     

    このまちの音を感じるには、このまちへ行くしかない。

     

     

     

    ※掲載内容は、取材当時の情報です。情報に誤りがございましたら、恐れ入りますが info@dor.or.jp までご連絡ください。

    掲載日 : 2018.04.20

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