人と一緒に一冊の本を読む。
この2年間、人と一緒に声に出して本を読み、お茶を飲みながらたわいも無い話をする【読書会】という活動をしている。
一年前からはダンスボックスのロビーや劇場内(とても贅沢!)で伊藤亜紗さんの『どもる体』(医学書院)を月に2回、半章ずつ読み進めている。今日はその最終回。
つい最近、人からもらった言葉に「声に出して人に読んであげるための言葉」というものがある。
わたしは『あくたれラルフ』(作: ジャック・ガントス/絵: ニコール・ルーベル/訳: 石井 桃子/出版社: 童話館出版)を一人で読み返す時、幼い頃わたしに読んでくれた母の声が蘇ってくる。
『かもさん おとおり』(作・絵: ロバート・マックロスキー/訳: 渡辺 茂男/出版社: 福音館書店)では少ししゃがれた北海道訛りの祖母の声。
物語が誰かの声を通して脳内で再生される。ぎゅっと身を寄せて一つの本を読んでもらった温もりも。
身体の中の記憶は外に取り出すことはできないけれど、ちゃんと蓄積されている。
読書会をする時、円になって好きな所まで読み、次の人に渡す、というルールで読んでいる。
低く落ち着いている声、関西訛りがクセになる声、緊張しながら読む声、小さい声。同じ本を読んでいるのに、一人一人全然違うリズムで、テンポで、読んでいることにハッとする。
誰かとおしゃべりしながら読む本は、そこで話された誰かの話も、一緒に食べたお菓子の味も一緒に本の記憶になる。
一人で『どもる体』を読み返す時、たくさんの人の声を通して本を読み返すのだと思う。誰かの声がわたしの中で再生される。
小松菜々子|ダンサー・振付家
横浜育ち。2021年にArtTheater dB KOBE主催のダンス留学7期に参加し神戸へ移住。2022年度 ArtTheater dB KOBE アソシエイト・アーティスト。長田に住む人たちと一緒にウソとホントの入り混じった長田まち歩きダンス作品『あわいにダンス』を発表。2023年秋に『あわいにダンス まち歩きZINE』(仮)を発表予定。
掲載日 : 2023.06.28