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下町日記 vol.05

suke_saku

七月十一日(日)

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    最近の休日は妻と外食することが多い。

    今日は蕎麦を食べに行くことにした。兵庫駅の近くにあるお蕎麦屋さんで、タヌキ蕎麦が名物らしく、妻の好物のお揚げさんがボリューミーで実に食欲をそそる写真がネットに掲載されていたので、そのお店に決めた。
    しかし今日の気温は31度、店に着くころには汗だくで、温かい蕎麦なんて食べられる状態じゃなかった。タヌキは諦めて天ざるにしようかと話をしながら店に入った。
    店に入ると、昔ながらのお蕎麦屋さんらしい内装で、落ち着く雰囲気の良いお蕎麦屋さんだった。
    入る前に天ざるに決めていたので、メニューをよく見るわけでもなく、天ざると大天ざるを頼んで、店員さんが持ってきてくれたお冷を飲みながら待っていた。

    その時見てしまった。
    メニューに書かれた「冷やしタヌキ」という文字を。
    私は思わず「あ!」と声を上げてしまったが、店員さんが二人分の天ざるを持って来た。
    何も知らずにおいしそうに天ざるを食べる妻を見て、とてもじゃないが、冷やしタヌキがあったと言い出すことはできない。
    見ることのできない揚げの姿を思い浮かべていたら、さっきまでとは違う汗が首筋を伝い、海老天の味なんてわからず、私はおいしいねとつぶやくだけのロボットに成り下がった。

    店を出てもそのことを妻に言えなかった。あれは、優しさだったのか、それとも私が小心者なのか、いまだに悩み続けている。

     

    suke_saku

    1986年生まれ。長田区在住。 

    大学卒業後ドイツに留学し、芸術家を志すようになる。現在は気ままにアート作品を制作中。 

    掲載日 : 2021.07.11

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